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デザイン経営のプロフェッショナルだからこそ実現できたクール・快適・高スキルな製造業のリブランディング

株式会社JMCは「ものづくりに知性を」を掲げ、新しい技術を積極的に取り入れて進化しつづける、製造業やサービスを提供する企業。3Dプリンタ出力事業・鋳造業・産業用CTを駆使しながら進歩しつづけるその様子は、いわゆる製造業と聞いてイメージする会社とは少し違います。

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セイタロウデザイン代表・山崎晴太郎氏(@seiy)は、そんなJMCからの要望を受けて取締役兼CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)として経営陣に加入。2019年にJMCのリブランディングを行い、理念やロゴの刷新、オリジナルフォントの開発や作業服のリニューアル、フラッグシップとなる工場の設計などを実施しました。

JMCのものづくりに対する姿勢や、現場で働く人々のモチベーションを高めるリブランディングはどのように行われたのか、デザイン経営のプロフェッショナルである山崎氏にお話を聞きました。

(構成:都田ミツコ/編集:吉田恵理/取材・編集:くいしん

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セイタロウデザイン代表取締役、アートディレクター 、デザイナー
山崎 晴太郎
株式会社セイタロウデザイン代表。横浜出身。立教大学卒。京都芸術大学大学院芸術修士。2008年、株式会社セイタロウデザイン設立。企業経営に併走するデザイン戦略設計やデザインコンサルティングを中心にしたブランディング、プロモーション設計を中心に、グラフィック、WEB・空間・プロダクトと多様なチャネルのアートディレクションを手がける。各デザインコンペ審査委員や省庁有識者委員を歴任。 FMヨコハマ84.7「文化百貨店(毎週日曜2430-2500)」メインパーソナリティ。株式会社JMC取締兼CDO。NPO ARTS WORKS理事。東京2020組織委員会、スポーツプレゼンテーション・クリエイティブアドバイザー。

取締役として挑んだ、デザイン視点のリブランディング

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── 晴太郎さんとJMCの関わりはどのように始まったのですか?

元々は僕がブランドコンサルティングをしていたクライアントのひとつだったんです。その頃にJMCの最初のリブランディングを担当したのですが、製造業界への発信を主な目的としていました。

その前は「いくぞ、メイドインジャパン! 」を掲げていたのですが、「メイドインジャパン」という価値との距離感をどうデザインするかがブランドの骨子でした。そこで1回目のリブランディングでは「俺達はメイドインジャパンを置き去りにするぞ」という意味を込めた「この国のものづくりを置き去りにする」というコピーに変えたのです。

──「古い業界を置き去りにして前に進む」という意味が込められているんですね。晴太郎さんが経営陣に加わったのはなぜなのでしょうか。

JMCがIPO(新規株式公開)を目指すことになり、取締役会の体制を整えるために経営陣から声を掛けていただいて、まずは社外取締役として入ることになりました。その後、体制を整えていく中で取締役になりました。

様々なプロジェクトをやってきましたが、大きな一つは新規工場づくりです。そのポイントのひとつに、鋳造工場の完全空調化があります。

これによって、湿度や温度を一定化することで数値をすべてデータ化できるので、職人さんの「今日は暑いからこのくらいの感じだろう」という感覚に頼らなくて済むようになりました。現在、JMCの平均年齢は20代なのですが、若い人でも古株の職人さんと同じパフォーマンスができるようになったんです。

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そして、2016年に東証マザーズ上場を果たしました。余談ですが、上場の際の東京証券取引所で鐘を鳴らすセレモニーで、デザイナーが取締役として鐘を鳴らしたのは日本の経済界では、僕が初めてだったそうです(笑)。

── そこから、なぜ2回目のリブランディングをすることになったのでしょうか。

上場したことで、メッセージに公共性が求められるようになったからです。それまでは「メイドインジャパン」という相対軸を意識したコピーでしたが、自分達に絶対軸を置く「MADE BY JMC」としました。よく野菜や果物に、産地情報だけではなく、「私たちが作りました」と生産者さんの情報が付いているように「メイドインジャパン」よりも「JMC が作ったかどうか」に判断軸を移したかったんです。

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── 取締役として実行した2回目のリブランディングは、1回目との違いはありましたか?

外部からリブランディングする際は綿密にヒアリングしながら進めますが、内部から長く関わっていたので課題やある程度の軸が最初から見えていました。通常ならブランディングや理念をここまで反映した工場のデザインをするのは難しいのですが、取締役として工場のコントロールにも関わってきたので、企業の人格全体をブランドとしてデザインできたのがよかったと思います。

また、クライアントワークだと費用面で「ここまでしかできない」と言われることがありますが、自分が取締役として参画している会社なので最適なリブランディングをやり切ることができた感覚があります。

「女子高生でも働ける工場」を作る

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── 2回目のリブランディングでは、他にどんなところにこだわったのですか?

「ものづくりに知性を」をビジョンに掲げ、宣言しています。

また、「JMC ゴシック」というオリジナルのフォントを作りました。このフォントを使うことで共通のコア色を出せるよう設計しています。またこのフォントと同時にロゴをデザインして、パネルを作りました。JMCのすべての工場の外壁に入れて、共通のブランドアイコンとして機能させています。

工場のオープンスペースは、カフェやレストランのような洗練された空間デザインを施し、工場に見えない工場を作っています。

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── 本当にオシャレで、従来の工場のイメージとまったく違いますね。

製造工場はよく「3K(きつい・汚い・危険)」と言われてしまうのですが、代表取締役兼CEOの渡邊大知さんと「女子高生が働ける工場にしたい」と言っていたんです。よく制服の可愛さで学校の人気ランキングが動いたりするじゃないですか。それと同じで、工場のイメージが採用にも関わってくるんです。

──「女子高生が働ける工場」にするために、他にはどんなことをされたのですか?

制服をオシャレにすることが効くと考えて、作業着をリニューアルしました。製造業のスタッフは作業着で出社して、帰宅もそのままの方が楽だという人が多いんです。だから私服よりオシャレなユニフォームを作ればブランド力が上がると考えました。ブルゾンタイプ、ロングコートタイプ、ロンTタイプなど、同じトーンでパターン展開されていて、どの組み合わせで着てもJMCらしさが出るようになっています。

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作業着としての機能性も追求しており、たとえば金尺を入れるスペースには落とさないよう磁石を仕込んでいます。

── 今回のリブランディングのコアは何だと思いますか?

クリエイティブは曖昧な部分から生まれると僕は思っています。曖昧さの中には、世の中にまだ提示できていない本質的な価値があるからです。それを経営陣と共有することで一緒に見つけて、言語と意匠で新しい概念に引き上げることがリブランディングなんです。

僕自身が経営陣として同じ時間を過ごしたことで、課題観や数字の感覚や、「今こういう感じの気配をまとっているな」という曖昧さを共有できたことが最も大きかったと思います。

JMCを「一般消費者のファンがいるブランド」に育てたい

── JMCはこれからどんなことに取り組んでいくのですか?

2020 年12 月から、「JMC BASE」というクラシックカーやバイクのレストア用パーツの製造販売をスタートしました。古いポルシェなどのパーツは今は手に入りません。そこで昔のパーツを産業用CTで撮影し、我々の最新技術で再現しています。ポルシェの他にもハーレーやスズキのKATANA(カタナ)というバイクなど、色々なパーツで始めています。

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あとは、「JMC BASE」というYouTubeチャンネルを2020年7月から始めました。

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取締役員の鈴木専務は、もの作りの面白さをわかりやすく伝える能力が非常に高いので、「でんじろう先生」のような存在になってJMCの魅力を発信してほしいと思っています。

── これからの目標はありますか?

JMCのイメージをもう一段変えたいと思っています。今の日本の経済界は、自動車製造のような昔ながらの業界とGoogleのような最新の事業体の2つのレイヤーが存在しています。後者の進めている「リモート化の定着」や「アジャイル型の開発」は製造業では絶対に無理なので、両者の世界観が乖離し始めていると感じています。

JMCは、最先端産業にすごく寄与しているのですが、製造業は取引先の機密保持をしなければならないため、どんなすごい仕事をしているかアピールしにくい面があります。この部分を打破して、もう一段レベル感を上げたいんです。

──「レベル感を上げる」とはどんな状態を目指すのでしょうか?

例えるなら、JMCを「ブレンボ」みたいにしたいですね。「ブレンボ」はポルシェやフェラーリにも採用されている、ブレーキ関連部品を作っているメーカーです。タイヤの外側から赤いブレーキが覗いているのが分かるので、車好きな人が見ると「ブレンボだ!」と気付けるんです。

車を購入する際にオプションで付けるのですが、選択する人がとても多い。サプライヤーが強固なブランド力を持つと、一般消費者がそれを指名するようになる好例ですね。車にあまり詳しくない人でも「赤いブレーキだ」と認識していたりするので、カラーブランディングという視点でもよくできていると思います。JMCをそういう一般消費者のファンがいるような存在に育てたいと思っています。

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