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ビッグモーターの不祥事に関して思うこと_ビッグモーター元執行役員と過ごした日々より

どうも!
セイタです!!
現在北京大学修士課程で社会学を学んでいます。


いまでこそ、北京大学で大学院生をしていますが、以前は僕もしっかりと労働者でした。とある日本の中古車関連の会社で幹部候補生として入社して、本部職として事業推進を行っていました。計4年半働いたのですが、そのうちの2年半をビッグモーターで整備工場関連の役員をしていた人およびビッグモーターの整備工場鈑金工場のマネージャーや工場長に囲まれて過ごしました。


当時の自分は本部社員として、マーケティングやら新規事業やら、人事やらをしていました。その時にデータを扱うことが多く、学部時代から定量調査に興味があったため、今北京大学社会学部にて定量調査をメインに研究しています。


今回のビッグモーターの不祥事に関する一連のニュースを見て、「あの頃が懐かしいな」という郷愁の念が湧いて出てきたので、ビッグモーターがなぜこのような不祥事を起こしたのかについて分析を加えるとともに、いろいろなエピソードを紹介していきます。
※炎上したら消します。


まとめると、
・今回の一連の騒動は、経営陣が中心となった行き過ぎた利益追求に、現場のスタッフが追随してしまったから起きた。
・しかしながら、悪習とみなされているビッグモーターの企業風土の一部は同業他社にとって学ぶ価値はある。
・でも、やはりビッグモーターは常軌を逸した会社である。

です(笑)
このことについて、ビッグモーターの社員と過ごした経験から書いていきます。


※ヘッダー画像は以下のリンクより引用
ビッグモーターの公式サイト




元副社長コナン君こと兼重宏一容疑者

まず、今回の一連の騒動の直接的な原因となったとされる兼重宏一氏について思うことを書いていきます。

トレンドマガジン:『ビッグモーター副社長宏一はチビ?身長145cmでコナンと呼ばれ高学歴だった!』


いくつかの記事を読んでいくと、どうやら元副社長の行き過ぎた利益追求の経営が今回の一連の騒動の引き金になったとされています。社員が大勢いるラインで「死刑死刑死刑教育教育教育」などとつぶやいたり、頻繁に人事異動や工場長に異動命令を出したりしていたそうです。また、誰も逆らえないような環境にあったそうです。


実際にビッグモーターの元社員から聞いたのですが、工場長会議中に兼重宏一氏のことを「コナンくんやないかい」と揶揄した工場長が一発で降格になったそうです。言う方も言う方ですが、降格にするのも何だかなと思います。


また、自分の前職に転職してきた元ビッグモーターのマネージャーや役員も直接口にこそ出しませんが、ついていけなくなって辞めたような感じが言葉の節々より漂ってきます。対照的に、元社長である兼重宏行氏のことは「素晴らしい経営者だ」や「よくできた人だ」などと絶賛していました


一方で、とある工場長は以下のように証言しています。

ある日、副社長が来たのだが、自分の顔を見るなり、「○○さん、顔色が悪いじゃないですか。大丈夫ですか?」と言って、最高級の病院を手配してくれた。周りの人はあれこれ言っているが、特に悪い印象はない。

兼重宏一氏はある種二面性のある人だったのかもしれません。この一連の話を聞いて頭に浮かんだのが、「スタンフォードの監獄実験」です。


ざっくり言えば、「被験者を監守役と受刑者役に分けて、それぞれの役割を実際の刑務所に近い設備を作って演じさせたところ、時間が経つに連れ、看守役はより看守らしく、受刑者役はより受刑者らしい行動をとるようになる」といったものです。そして、最後には、単なる実験にもかかわらず、暴力も含む残虐な行いが実施されました。


Stanford LIBRARIES:『Stanford Prison Experiment』


この実験の教訓は、役割が人の行動を決めるということです。
兼重宏一氏は副社長という役割を与えられ、演じているうちに、いつしかこのようになってしまったと考えられます。兼重宏一氏は店舗での経験も全くなかったようで、行き過ぎた利益追求の結果として何が起こるのか本当に分からなかったのでしょうね。。。




ビッグモーターの営業スタイル

自分は幹部候補生として、本社勤務が決まった状態で入社したのですが、どこからの副社長様とは違い、店舗での中古車の営業を経験しました。自分は営業に向いていると考えられがちな体育会系ではあったのですが、他人に興味がなく、営業だけはしたくないという思いで、前職に入社しました。しかしながら、結果として短期間ですが営業することになってしまいました(笑)

その時に現場で感じたり、周囲から聞いたビッグモーターの営業スタイルについて簡単に述べたいと思います。


その前に、前職の人事部長が中古車業界Top3社の社風の違いについて述べていたのですが、言いえて妙だったので紹介したいと思います。

・弊社は全力少年で、学生には休み時間になると、校庭に出て遊ぶ。
・A社はおとなしく、休み時間になると、本を読んでいる。
・ビッグモーターはそもそも学校に来ない

いかがでしょうか?(笑)
皆さんあまりイメージできないかもしれませんが、めちゃくちゃ納得しました。ちなみに、転職してきたビッグモーターの幹部陣もこの意見には同意していました。




本題に戻ります。

ビッグモーターの営業はお客さんを装い、査定キャンセルの電話を同業他社に入れて、営業妨害するという記事が出ていましたが、正直これくらい平気でやるだろうなといった感じです。



自分が聞いたもっとひどい話では、買取契約成立後に一方的に、値段を下げるといった話も聞きます。具体的には、他社とあいみつになった際に、まずは他社が絶対に出せないような金額を出して、買取契約を行う。その後、「実はこんな傷があった」「この車は事故車である」などの難癖をつけて、減額して、利益が出る金額まで成約金額を下げるといったものです。


この話は本当によく聞くので、前職の見積もり金額よりも明らかに高い金額が出ていて、それがビッグモーターならば一応警告はします。とはいっても、お客さんも目が¥マークになっているので、なかなか話を聞いてくれませんが。とある営業マンは「ビッグモーターに入庫したけど、減額されたから契約破棄になったから、買い取ってくれ」といった内容の電話を受け取ったことがあるとも言ってました。その後どう対応したかは知りません、、、


以下の記事が割と似たような内容です。




まとめると、売り上げのためならば手段をえらばないといった印象があります。前職でも「数年前は夜中に電話や訪問をしてたな~」と言っている先輩社員はいましたが、その比ではないかなと思います。





行き過ぎた「環境整備」と街路樹伐採

今回の一連の騒動で発端となった自動車保険問題と並んで、最も話題にされえている街路樹問題について書いていきます。


これは、ビッグモーターが店の景観をよく見せるために、無許可で店前の街路樹に除草剤をまいたり、伐採したりしたことです。




そして、合わせて批判の対象となっているのが、「環境整備」です!!!
なぜならば、この「環境整備」が行き過ぎたあまり、街路樹伐採にまで発展してしまったと考えられているからです。


上記の記事には「環境整備」について以下のように書かれています。

売り上げ」や「清掃状況」、「店の前に雑草がはえていないか」などを確認され、細かく点数がつけられるといいます。映像が撮影された当時、その店舗はほぼ0点という結果になり、店長は別店舗に異動になったといいます。

Yahooニュース『社員らが幹部に一斉に“挨拶” ビッグモーター「環境整備点検」  “店舗前の街路樹問題”川崎市の店が“伐採”認める』



坊主憎けりゃ袈裟まで憎いまではありませんが、「環境整備」そのものへの批判はさすがにおかしいのではないかと思います。というのも、きれいな環境を維持することは、お客様の心象プラスなだけでなく、生産性向上にもつながります。実際にビッグモーターの店舗に行ったことがあったのですが、前職の店舗に比べてやはりきれいでした。その裏で、記事に書いてあるような残酷な指導及び人事評価がされていたとは露ほどにも思いませんでしたが(笑)


実際に、自分の元ビッグモーターの役員やマネージャーと臨店する中で、如何に環境整備が大事かを教え込まれました。特に整備士に関しては、環境整備の出来が、個々の整備士の生産性、結果として会社の利益率にも影響します。例えば、スパナの置く位置一つとっても、取りづらいところに置いてしまうと、1日に何度も置いたり取ったりするので、結果として、大幅に作業が遅れてしまいます。


一例をあげますと、とある工場が新装開店の日に本部社員として応援に駆け付けました。その工場は前日になっても準備が終わっておらず、あろうことか、工場内に段ボールが積まれているという状態でした。結果として、元ビッグモーターの役員だった人から大目玉を喰らったということがありました。
※この点については次の「激しいパワハラ文化」にて詳しく書いていきます。。


まとめると、確かに街路樹伐採のような犯罪を犯してまで、景観を良くしようとするのはどうかと思いますが、「環境整備」は工場や店舗の運営のためには必要だったように思えます。それを元副社長が捻じ曲げて運用してしまったという印象を受けます。





激しいパワハラ文化

ビッグモーターの社内では激しいパワハラが横行していたこともよくニュースや記事に取り上げられています。

最も典型的な例として、ビッグモーターの経営計画書には
・会社と社長の思想は受け入れないが仕事の能力はある。今、すぐ辞めてください
・指示されたことは考えないで即実行する。上司は部下が実行するまで言い続ける
・経営方針の執行責任を持つ幹部には、目標達成に必要な部下の生殺与奪権を与える
などの令和とは思えない文言が並んでいます。ビッグモーターの経営計画書を読んで、激しいなと思った記憶があります。


その体現者である元副社長は大勢がいるラインで「死刑死刑死刑教育教育教育」などとつぶやいたり、頻繁に人事異動や工場長に異動命令を出したりしていたそうです。


その点に関して、ビッグモーターから来たとある工場長は以下のように述べています。

工場長の携帯で「も」と打つと、「申し訳ございません」が予測変換で出てくる。「ま」と打つと、「誠に申し訳ございません」と出てくる。「た」と入力すると、「直ちに改善します」と出てくる。

このことからも如何にラインを通しての圧力が強いかが分かります。



また、前職でもビッグモーターから来た役員は20人くらいのライングループで同じくビッグモーターから来た工場長に「この、クソガキが」と発言をしていたことがありました。もちろんその工場長は「誠に申し訳ございません」と即座に返していました。


前章で軽く触れましたが、とある工場は新装開店前日にも関わらず、工場にごみがうず高く積み重なっていたことがありました。その際は、ビッグモーターの元役員の人が怒号を飛ばし、即座に全工場スタッフと応援に来ていた本部社員を呼び出し、「この工場に一体会社がいくら投資したのか、なぜ工場を美しく保たないといけないのか」といったお話をしていました。その後、工場スタッフ一人一人の質問を投げかけていました。不幸なことに、その中にバイトのスタッフも混じりこんでしまっており、そのバイトの人は二週間後に「こんな責任の重い仕事は続けられない」と言って辞めてしまいました。


さらに、ある進捗に関する会議で、元役員の人が整備工場のマネージャーをガン詰めしているときに、マネージャーがさすがに耐えきれなくなって、「なんでそんなに言われないといけないんですか。」と言いました。その後、鬼の形相となって、マネージャーを怒鳴りつけるということがありました。しかも、その会議が行われていたのが本来であれば来客対応用のガラス張りの部屋でした、、、6人でミーティングをしていたのですが、後の4人は自分を含め空気となってただうつむいていました。


以上、自分が経験した中で比較的激しいやつになります(笑)
この話を別の会社に行った大学の同期にすると、たいていドン引きされ、コンプライアンスを疑われます。なので、「うちの部署だけだよ~」と返事しています。また、新卒で一緒に入社した同期からは「よくやって行けるね」と言われることも多々ありましたが、自分はわりと平気でした(笑)


その最も大きな理由は、自分が鉄のメンタルだからです。自分の2個下の後輩は、時々キャパオーバーになると音信不通になります。その子の同期で別の後輩は、あくまで別の理由ですが異動後半年で転職しました。また、3個下の後輩は年の近い先輩が相次いで辞めることもあって、1か月くらいで傍目に見てもきつそうでした。

そしてもう一つの理由が、元役員の人のマネジメントスタイルにあります。確かに、ビッグモーターから転職してきた社員に対しては上記のような激しいマネジメントを行うのですが、それ以外のプロパーの人間に対しては全く違う接し方をしていました。個人的には、よくそんなに綺麗に使い分けれるなと思っていました。




@(整備平均粗利)を追いすぎたがための不正(保険金の水増し請求)

最後に、ビッグモーターの一連の騒動の発端ともいえる保険金の水増し請求について私見を述べていきます。以下の記事はかなり長いですが、事件の概要を把握することができます。正直、自動車保険を巡る勢力図は複雑で、僕自身も最初はなかなか理解できませんでした。その複雑性を理解するためにはどうしても紙幅が必要となるのです。



背景をいったん置いといて何をやったかを一言でいえば、以下の図が記す通り、車にわざと傷をつけて、保険金を水増し請求したということになります。

クローズアップ現代『ビッグモーター不正の深層 中古車販売大手でなにが』


なぜこのようなことになったのかという原因は多々あります。そのうちの一つが上記記事にもありますが、マクロな点で見れば、損保ジャパンとビッグモーターの力関係に不均衡が生じており、損保ジャパンが口出しできなかったということです。


もう少し、ミクロな面からとらえると、@(整備平均粗利)の行き過ぎた追及です。この記事でいえば、鈑金だと14万円の粗利平均単価が設定されていました。しかしながら、個々の傷の状態はバラバラでそこに単価を設定するのはさすがに違和感があります。とくに、保険事故車両ならばなおさらです。
※余談ですが、@(アット)というのはMQ会計という管理会計に派生する考え方の一つです。ビッグモーターの社員は役職を持つ際に、みな戦略会計についての講義を受けているそうです。


以下の記事でもこの点について批判されています。

そもそも、事故車修理の修理金額に目標を設定するという考え方自体が謎すぎます。修理金額というもの自体、本来傷の状態で決まるものであり、修理請負側が勝手に決められるものではありません。となれば軽微な傷の修理でも目標値に届かせるためには、必要のない修理まで行う必要が生じるわけで、ここに今回の不祥事の構造的な原因の入り口があったといえます。



ただ、一つ思うことが粗利単価をある程度求めるというのも必ず間違っていることではないということです。例えば、ビッグモーターの整備工場はお客様に納得してもらった上で整備を発注してもらうための工夫が張り巡らされていました。第一に、待合室に多くの自動車関連部品を設置し、それを使ってお客様に車両状態のプレゼンをしていたそうです。また、説得力を高めるために、車両を実際に整備した整備士本人がなるべくお客様に話をするようにしていたそうです。さらに、百聞は一見に如かずということで、お客様に工場まで入っていただき、その場でリフトで車両を持ち上げて、車の状態を確かめながらプレゼンをができるような導線設計及びそれにふさわしい工場が建てられていました。


以上のようなある種企業努力とも取れるようなことを実際に行っていたという話を聞いています。ただ、不正をして整備粗利を高めたのか、しっかりとお客様にプレゼンをした結果整備粗利が上がったのかというのは数字だけを見てるとやはりなかなか区別することはできません。前職でもとある整備工場の車検整備粗利が高かったのを見て、ビッグモーターの元役員の人が「整備粗利が高すぎるのも危険である。過剰整備の可能性がある」と言って、マネージャーに注意喚起をしていたのが印象的でした。


なので、結局のところ、@(整備粗利単価)の追及は正しい方法でなされていて、お客様に満足してもらっている場合には問題がありません。ただ、それが行き過ぎてしまったり、現場のコンプライアンスが低かった場合に、管理及び抑制する仕組みがないと今回のような事件が起きてしまうかと思います。現場経験のないお坊ちゃんが数字を追い求めすぎるとこうなってしまうのかなと思います。



まとめ

以上が、自分が今回のビッグモーターの一連の不正について思ったことの概略になります。確かにビッグモーターが行ってきた一連の不正行為は許されざることですが、その原因と考えられているものの一部(整備平均粗利の追及や環境整備)は一定の合理性があり、決して非難すべきものだとは思いません。原因はせっかくの仕組みを活かせず、行き過ぎた成果主義に舵を切った経営陣にあるような気がします。もちろん、実際に不正を行った社員も非難されるべきではあるのですが、同じような状況下でどれくらい会社に歯向かえるのかは疑問符が付きます。しかも、ビッグモーターの社員は高給という首輪をつけられています


そこで、「金のためならば何でもするのか?」「労働やお客様の笑顔といった喜びがあるのではないのか?」という反論をする人のために、社会学部の院生らしく、社会学の研究を例に出して、この記事を締めくくりたいと思います。


まずは以下の引用をご覧ください。

ゴールドソープは「ブルジョワ化のテーゼ」を実証を試みた。労働者はたとえホワイトカラーに似たレベルでの裕福な暮らしをしていても、ライフスタイルや政治的見地が中産階級の人のものとはならなかった。裕福な労働者は労働を十分な賃金を得るための手段としてみていた

アンソニー・ギデンズ (著), 松尾 精文(他、翻訳):『社会学 第五版 』第9章-社会成層と階級


ゴールドソープは持続的な不平等について答えるために、非常に煩雑なモデルを設定し、実証を試みました。


その結果、分かったこととして、ブルーカラー労働者はたとえ十分な高給を得たとしても、考え方において大きな変化はないということです。ブルーカラー労働者らしい特徴というのは個々人によって異なるとは思いますが、自分は「飲酒喫煙の習慣」「ギャンブル」「保守的な政治的見地」などを思い浮かべます。


あくまで欧米の研究なので、日本においてどこまで当てはまるかはわかりませんが、一定の説得力はあるかなと思います。つまり、どこまで行っても金が大事ということです。この理論は、ビッグモーターの一連の不正に関して一定の解釈を与えてくれるのではないかと思います。


本記事は以上となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。


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