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#12”師走”にお坊さんがしていることとは

「幽霊っているの?」「運の正体とは?」などと思ったことは誰しもあるはず。そんな“目に見えないもの”にまつわる素朴な疑問や、仏教に関する知識を、SNS等で人気の僧侶、仁部(にべ)兄弟がゆるく解説。二人の掛け合いが楽しいインターネットラジオ「お寺ジオ」の配信内容をベースに、加筆・再構成してお届けします。

右:兄の前誠、左:弟の前叶

○前叶 お坊さんが12月に聞かれる質問第1位。「お坊さんはクリスマスってするの?」

●前誠 いや~聞かれるね。まぁ素朴な疑問かと思います。

○前叶 結論から言うと、宗教的行事というより、楽しいイベントとして行う感じでしょうか。お寺に子どもを呼んで、お坊さんがサンタの格好に扮して、仏さまからの御裾分けとして、プレゼントやお菓子を配ったりします。キリストさまのお誕生日でもありますが、仏教は他の幸せをともに喜ぶという精神がありますしね。

●前誠 誤解を恐れずに言うと、宗教的に云々というよりは、みなさんが笑顔になる世間的にもハッピーになれる空気があればそれに乗っかりたいし、いい部分はしっかり吸収したいという思いでクリスマスをしていますね。

お寺ジオもクリスマス仕様に!

○前叶 ちなみに、クリスマスはキリストさまの誕生日ですが、お釈迦さまの誕生日はというと4月8日で、その日を「花まつり」と言います。こちらも世間的にもっと盛り上がってほしいなぁと思います。

花まつりではお釈迦さまに甘茶をかけます

お寺の年末とは

●前誠 クリスマスが終わると、あっという間に年末。お寺の年末というのは、みなさんのお正月を私たちがどう出迎えるか、というものでもあります。

○前叶 出迎えるにあたっては、本堂の大掃除や御札を書いたり、準備も結構大変。そして、水行して、お経読んでご祈祷して…でも、新年早々のみなさんの笑顔をみると「あーこれいいな」と思うよね。

●前誠 昨年書いた御札をみなさんがお焚き上げ用にお持ちくださるのも、なんだかくたびれたわが子たちが帰ってくるようで。「おつかれさん」みたいな感じでお焚き上げする。

○前叶 あっという間にそんな時期がくるなぁ。12月に入って一気に気温が下がり始めたけど、今年も水行寒そう…。

●前誠 水行ね…。日蓮宗と言えば大荒行堂をはじめ、寒水っていう冬のお水で身を清めるということをご存じの方も多くいらっしゃると思います。他宗派さんの修行でいえば、護摩行なんかも有名だよね。

○前叶 修行も色々あって、滝行や山をのぼる回峰行、参籠といってお寺にこもるものや、写経などかな。いろんな修行があるけれど、日蓮宗の水行っていうのは、かなり格式の高いものになります。違いは何かというと、お水をかぶる行為自体というよりも、その一連の流れがひとつの法要になっているというのが、ほかの修行と大きく違うところですね。

●前誠 なるほど。儀式みたいなことだね。

○前叶 そう。やみくもに水をかぶって自分の体が清められました、寒さに耐えました、みたいなことではなくて。「お水をいただく」というその行為自体を奉納します。それは、世界の安泰だとか、日本国万民の快楽(けらく)だとか五穀豊穣だとか、そういった大きな祈りをともなうものです。加えて、自分自身の罪障消滅や日々の悔い改めるもの、法華経への信心の確立といったものも今一度お水に誓っていく。その姿を神さま、仏さまにお見せする儀式、法要になっているわけです。

●前誠 神楽とか舞を法要する、それと一緒だね。

○前叶 よく滝行と何が違うんですか?と聞かれるんだけど、滝行は古今東西いろいろあるけれど、ざっくりいうと自分のための修行っていうのがほとんど。でも日蓮宗の水行に関しては世界全体、国民みなさんとか檀信徒のみなさんの祈願をしていくという大きなものになっているんだよね。

●前誠 すごく日蓮宗らしいよね。一天四海皆帰妙法とか立正安国とか。日蓮聖人がひろく世界全体を案じている方だったので。まずは世界や国家だとかが安泰でないと個々の生活が安泰でありませんよという考え。

水行の水は「水神様」

上原寺での水行のようす

○前叶 水行は、参拝者さんが周りを囲んでいる中で水をかぶったりもします。水の神様である水神様、龍神様が願いを受け取ってお水におさめてくださっているので、それを我々がかぶることによってその方の祈願を叶えるっている側面もあったりするんだよね。

●前誠 水行肝文(すいぎょうかんもん)も水に向かって唱えるからね。

○前叶 そうそう。だから当然自分も水神様、龍神様に守ってもらうっていうことになる。ここで自分自身の体験を話したいんだけど、私は平成26年の日蓮宗の大荒行堂に入行させていただいていて。荒行僧は1日7回、朝3時、6時、9時、12時、15時、18時、23時に水をかぶります。修行を終えて帰ってきて、翌年、今度は兄貴が荒行に入行するということで、兄貴が水行している夜23時には無事を祈って水行をしていたんだよね。

●前誠 え!? 初めて知った。

○前叶 昨年は自分もあんな思いをしたから、兄貴も大変だろう、無事に生きて帰ってきてくれれば。そう思って水行を始めたら、自行期間と言って、自分の罪障をきれいにするという修行がはじめの35日間あって、開始2週間くらいでお医者さんも原因がわからない全身の蕁麻疹になった。結局、蕁麻疹のまま続けたんだけど、おそらく、本当は兄貴がなるはずだった蕁麻疹を引き受けたんだと思うんだよね。

●前誠 何それ?

○前叶 だからね、兄貴は私のおかげで荒行成満(じょうまん)できたといっても過言ではない!(笑)

●前誠 いや過言だろう(笑)

○前叶 でもそういう風に、人の想いだとかをその時その時で引き受けて、お水は体に表してくださるという、いわば実体験のひとつだね。当然きれいになる時もあれば、逆に自分の汚いものが出てくる時もあると。

●前誠 たしかに。一般の方が水行を行うことは難しいかもしれませんが、水行は見るだけでも非常に有意義なものだと思います。

○前叶 上原寺では12月の冬至に行う星まつり、大晦日、元旦・2日は水行をします。ご参拝の叶う方はいらしていただけたらなと思います。

●前誠 明日は明るい日と書きます。皆さまの明日がより良い1日となりますように。風邪ひかないようにお過ごしください~!

○前叶 合掌。

仁部 前誠(にべ・ぜんじょう)
1988年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。2012年より日蓮宗宗務院に奉職。2016年、日蓮宗加行所初行成満。2020年よりRadiotalkにて、弟の前叶氏とともに「midnight temple radio お寺ジオ」を配信。僧侶としてのモットーは、「法華経の話はほとんどしませんが、すべては法華経の話です」。 最近では、『あなたは尊い 残念な世界を肯定する8つの物語』(漫画・やじまけんじ/監修・佐渡島庸平×日蓮宗/徳間書店)制作プロジェクトに参加した。https://twitter.com/nibe_zenjo

仁部 前叶(にべ・ぜんきょう)
1991年埼玉県生まれ。立正大学仏教学部宗学科卒業。妙見山上原寺副住職。さいたま浦和地区保護司。2015年、日蓮宗加行所初行成満。2020年、仏教死生観研究会「死の体験旅行」講師を務める。同年、上原寺別院「祈誓結社」を設立。”ほとけ様との架け橋“であることを目指し、命の強さと有り難さについて伝えるべく活動している。
https://twitter.com/6SYAKU_HOUSHI