樹影譚

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引き続き村上春樹さんの「若い読者のための短編小説案内」で紹介され、最近だとブルータスの「村上春樹の私的読書案内。51 BOOK GUIDE」でも紹介されていた丸谷才一さんの短篇集。意外と新しく1988年発表。

こないだ読んだ小島信夫さんの世界観とごっちゃになってしまったところもあるけれど、そこまでシュールな印象はない。
「さうさうあるものではなゐ」とか「子供、死んぢゃふのよね」と昔の仮名づかいが丸谷さんの味のようだけれど、その古めかしさに対して湿った印象がなく、そのコントラストが海外の小説を読んでいるよう。

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こちらも今一度、春樹さんの「樹影譚」の解説を読んでみた。

玄人目線の解説で、内容がどうというよりも小説的技法や構造、さらには作家がどうあるべきかという切り口で、春樹さん自身が書くことによってアイデンティファイを試みているように見受けられた。
しかし、「変身装置(スーパーマンにおける電話ボックス)」や、「反私小説的(反私小説内・反私小説)」や、さらには「イッセー尾形のなりきり芸」や、なるほどエゴというものに対して当時の文壇の趨勢などと一線を引いている同じく日本人から勇気をもらった、というと大げさかもしれないけれど、とにかく「若い読者のための短編小説案内」というのはあるいは村上春樹という人間を最も表しているのかもしれないということを思い出した。

春樹さんが推測として書いていることに対して、短篇集「樹影譚」の解説を書いている三浦雅士さんから「それは違うよ、これが証拠だよ」的なお手紙があったらしく、こういうところからも小説の読み方の自由さというか、批評というものと一線を画している様子が伝わってきて、それが僕にはうれしかった。

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