水と水とが出会うところ

レイモンド・カーヴァーの詩集。好きなやつを3つほど転載します。


ハッピネス

まだ朝は早いので、外はほとんど真っ暗。
僕はコーヒーと、そしていつも早朝に
心をよぎる、思いとも言えないようなものと一緒に
窓辺に立っている。
すると、少年とその友だちが
新聞を配達するために
道を歩いてくるのが見える。
セーターと帽子という恰好、
一人の子供が肩から袋をかけている。
なにしろ、ものすごく幸福で
口もきけないくらいなのだ、その子供たちは。
できるものなら、腕を組みたいくらいじゃないかな
と僕は思う。
朝はまだこんなに早くて、
おまけに肩を並べて仕事をしているのだ。
二人はゆっくりと、やってくる。
空は光に染まっていく。
海の上にはまだ白い月がかかってはいるけれど。
この美しさには、死や野心や、いや
愛だって、しばしのあいだは
つけこむ余地がない。
ハッピネス。それは予想もしないときに
やってくるものだ。そして早朝の会話に
語られたあとでも、それは続いている、ほんとに。


少なくとも

僕はもういちにち早起きしたいと思う、
夜明け前に。鳥が起きだすより、さらに早く。
冷たい水で顔をさっと洗って
仕事机に向かいたい。
だんだん空が白み、まわりの
家々の煙突から煙がたちのぼり
始めるころに。
岩だらけのこの海岸に波が打ち寄せるところを
見てみたい。一晩じゅう眠りの中で
それを聞かされるだけじゃなくて。
海峡を抜けていく、世界じゅうの海洋国から
やってきた船をまた眺めたい。
やっと動いているような古くて汚い貨物船、
あるいは実に色とりどりに塗装されて
水面を割って進んでいく、
スピードの出る新式の貨物運搬船が。
僕はそれらがやってくるのを見張っていたい。
それから、灯台の近くにある水先案内人の
ステーションと船とのあいだの海面を行き来する
小さなボートを眺めていたい。ボートが一人の男を
船から降ろし、別の男を乗船させるところを見たい。
僕は一日を潰して、これが起こるところを見たい。
そして僕自身の結論に達するのだ。
欲が深いと思われたくない-僕は既に
感謝しなくてはならないことをいっぱい手にしている。
でも僕はもういちにちだけ早起きをしたいのだ、少なくとも。
そしてコーヒーを持って自分の場所に行って、そして待つのだ。
ただ待つのだ、これから何が起こるのかを見届けるべく。


哀しみ

今朝、早く目を覚ましてベッドから
遥か遠くの海峡を見ると
荒れた海を一隻の小さな船が、航海灯をひとつ
ともして進んでいるのが見える。友だちのことを
思い出す。死んだ奥さんの名前をペルージアの
丘の上からいつも声をかぎりに叫んでいた
友だちを。彼は奥さんが亡くなってずいぶん
たってからも、その簡素な食卓に彼女のぶんの食器を
並べていた。そして窓を開けた。彼女が新鮮な空気を
吸えるように。そういうのってちょっとやり過ぎだと
僕は思っていた。ほかの友たちもみんなそう
思っていた。僕はわからなかったのだ。
今朝がやってくるまで。

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