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それでも人とつながって 015 少女①

『外に誰かが居て恐くて眠れない』


今日もよく働いた。「仕事」という感覚とは少し違う気がするんだけど。
役割があって状況に向き合うのではなく、状況があって役割を求められることが多い。毎日が不意打ちだ。それか。そういうのを仕事というのかな。
はぁあぁ~~っ。脱力しながら横になる。同時に電話が鳴る。なんでダヨ。

こんな夜遅くに誰だこのやろうめと思いながら電話を取った時にチラッと目に入った画面表示を見て一気に緊張感がもどりシャキッとする。
ある少女の名前が表示されている。

ある日のこと。
「あの娘だけは一人前にしないと」目の前にいるお婆さんが一人の少女に目をやりながら話す。少女は机に向かって勉強をしているように見える。
「ほらっ!女の子がそんなことするもんじゃない」
突然のお婆さんの言葉に自分の背後で机に向かっている少女を見ると、机に上半身を伏せだらだらしながらスナック菓子の袋に手を伸ばしている。
少女は「はーい」と返事をしながら行動に変化はない。
「いつもあんな調子。だからあたしは簡単には死ねないと思うの」
お婆さんのそんな言葉の意味より。強くて温かい何かを感じた。
じゃあ、あの娘の後に逝きましょうか。提案してみる。
お婆さんは「あたしはおばけじゃないんだから」と笑った。

この少女は今よりもっと小さい頃からこのお婆さんと二人で暮らしている。
両親は色々な事情があって存在しないことになっている。
少女がまだ物心もつかない頃。ある出来事からお婆さんが引き取った。
少女に両親の記憶は殆どない。
「それで良いと思ってるんです」「私が親代わり」とお婆さんは話す。
何か人の強さを感じさせるその言葉に、思わず頷いてしまう。

このお婆さん。ある日いつもの通院で医師から突然入院を申し渡される。
それを猛烈に拒否をしたことが発端で自分の知る所となった。

お婆さんの身体は病院としては出来れば帰す訳に行かない状態にある。
帰ったとしても結局すぐに入院することになるのは目に見えている。
ならば早めに手を打つのが良い。

しかし。お婆さんは少女の事を第一にして入院を拒否している。
少女と話せれば納得するかもしれない。
そのような状況だった。

関係する機関やその少女の通う学校に連絡を回し前後の対策を考える。
途中、色々な案も出るがままならない話にもなる。もどかしい。
とはいえ時間も限られている。まずは自分がその少女を放課後学校に迎えに行き、お婆さんの居る病院へ同行することになる。
少女と話したお婆さんが納得して入院したとしても。後をどうしたものか。
でも。今は目の前の事に当たるしかないか。

学校の先生方に挨拶し少女を引き受ける。病院へ向かう。
「お婆ちゃんどうなんですか」少女は落ち着いている。
2,3受け答えして事情はある程度聞いているらしいのが分かった。
特に心配して動揺しているという感じもない。落ち着いている。
この辺、流石なんだなと思う。

道中でお婆ちゃんとの生活について聞いてみる。
「うるさいです」
第一声に思わず笑ってしまった。でも静かになったら心配かもと伝えると
「子ども扱いします」と少し大人っぽい顔をする。
そりゃ70歳くらい年上なんだから。
お婆ちゃんから見れば世の中なんて子どもだらけなんだよと言うと少女が笑った。こういう顔は子どもっぽい。良い笑顔だ。

病院に到着。お婆さんは何だかんだで少女の姿を見て少し嬉しそうになる。
少女が「入院しないとだめなんでしょ」と切り出した。
二人の話はだいぶ長引いたが、時間を掛けて結局は少女の言葉に納得した。
途中で関係機関の方も到着しお婆さんは入院することになった。
お婆さんはまだ「一人で大丈夫?ちゃんと出来る?」と少女に尋ねている。
少女はそっけなくあっさり「大丈夫」とだけ。

今まで黙っていたが、今がタイミングかなと思い
自分も自分の仲間達もこの子の生活は守るのでと二人の会話に割り込む。
心配して良いですし、安心しないでも大丈夫です!
大きな声でハッキリと。目に任せてくださいと気持ちを込めた。
そんな物言いにお婆さんは
「じゃあお願いしませんが、よろしく」と笑いながら軽く頭を下げた。

病院を立ち去る際にお婆さんが少女に「最後になるかもしれないからね」と告げるが、少女は「大げさ」とだけ言って病室を出た。
お婆さんは入院することになり少女は一定の日数を一人で自宅で過ごすことになった。

こんな経緯からの深夜の電話。
電話に出る。その声は電話の画面に表示されているとおりその少女だ。
少し緊張するが、どうした~?と敢えて力を抜いた声になるように努めた。
返答を待つ。「恐いんです」と言っている。
やや声が小さくて聞き取りにくい。声の小ささが緊張感を増させる。

恐い・・・何だ?何かあったか。まずいな。思わず力が入りそうになるが、部屋にゴキブリでも出たの?と敢えて適当な感じで尋ねてみる。
「家の外で音がするんです」
・・・やはりまずい。嫌な予感しかしない。
「外に誰かが居て恐くて眠れない」
くそっ。変なのが嗅ぎつけたんじゃないだろうな。いきなりか。

このパターンには躊躇しないほうが良さそうだ。
110番して外が気になると言えば見回ってくれる。電話できるかと尋ねると少女のスマートフォンの画面は割れていて蜘蛛の巣のようになっているので特定の操作しか出来ないと返ってくる。こんな時になんなんだソレは。
おまけに「警察に電話するのも恐い」そんなことも言う。
こんな所はやはりまだ少女だ。まぁ気持ちは分からなくないけど。

仕方がない。戸締まりはしてあるか尋ねる。キチンとしているようだ。
部屋の明かりを点けているか確認する。殆ど消しているようなので、点けられる所の照明を全て点けるように言う。そして戸締まりの再確認も。
もしも恐いと思うような事があればトイレに入って鍵を掛けるように。

少女の電話と同時進行で仲間達に連絡を回す。
こんな時間だけど・・・頼むぞ。誰か返事してくれよ。
すぐにうち二人から返信が入る。少女と話しながら二人に状況を送る。
たまたま二人とも女性だ。対象が少女なので二重に助かった。
一人は自宅でバックアップ。もう一人は単独で少女の家に向かう。
特定の合図を送ったらバックアップは即110番することに。

仲間達に連絡しながら少女との電話を続けている。
自分の他にも仲間が向かって居ることを伝える。すぐ着くよ。大丈夫。
少女と話しながら車で向かう。電話は切らないようにしている。
話し続けるように。会話が途切れないようにこちらから冷蔵庫に何が入っているか、何はどれくらいあるか。水道を出してみてとか、湯沸かし器を点けてみてくれとか、トイレを流してみてとか、どうでも良い事を話し続けた。

そんな間にも外で音がしていないか。とても気になる。
何かあったらすぐ110番することになっている。
でも。そんな話はしないようにしていた。
深夜でもあり道も空いていたので間もなく到着。
車から降りて、今家の前に着いたよと話していると仲間の女性も到着。
一人で入室するのは流石になんだったので助かった。

玄関をそっとノックする。
「すみません」と少女。やっと顔を見れた気がする。
仲間の女性が入室して少女からの話を聞く。侵入された形跡がないか確認。
自分はライトを手に家の周りや物陰、暗がりを物凄い高ルーメンで執拗かつ徹底的に照らしまくった。なんだか自分が一番の不審者に思えるが、もしどこかでコレを見ている奴が居るのなら思い知れ。この子に手は出せないよ。

少女の話から。電話のその後。物音などは聞こえなかったそうだ。
いや。安心ならない。どんな小さな変化も見落とす訳には行かない。
しかし。家の外にも中にも侵入された形跡や、侵入を試みた様子は無い。
少女の気持ちも落ち着いたようだ。とにかく何事もなく無事で良かった。
自分は暫く外の車内で仮眠することに。仲間の女性は引き上げた。


コンコン。コンコンコン・・・車の窓をノックする音で目が覚める。
外はすっかり明るくなっていた。疲れていたので熟睡してしまったようだ。
見るとノックしているのはお巡りさんだ。
『ちょっと良いですか。あなたここで何をされているんですか?』

「えっ!?」
・・・とても心外だった。

この少女の話は②へ続く。


これは少女の巻の一。この後に続く出来事はまたの機会に。

もし読んでくださる方がいらっしゃったなら。
お読み頂いたあなたに心からの御礼を。
文章を通しての出会いに心からの感謝を捧げます。




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