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頑張れ!文部科学省とGIGAスクールの仲間たち!4,600億円を無駄遣いしちゃいけないよ!(行政担当者による整備愚痴編)


昨日の記事の続きです。

突然の通達

色々とツッコミどころが多い「GIGAスクール構想」の始まりでしたが、配備担当者として教育委員会事務局に所属する、我々木っ端役人は文科省の指示に従うしかありません。
疑問を感じつつも、1人1台のPC整備に向けてスケジュールの検討を始めました。2019年の年末から2020年の正月にかけての話です。

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先にも述べましたが、当初の「GIGAスクール構想」では、5年以内に1人1台の端末を整備するといった内容でした。
2019年度に数千台の端末を入れ替えたばかりということもあり、当自治体も既存機器の更新に合わせて新規端末を配備し、足掛け5年間で50,000台のPCを整備する予定でした。
初年度は校舎内のLAN配線張替え工事を行いつつ、50,000台のPCの調達に関するドキュメント(いわゆるRFP)の作成を、関係者を交えつつコンサルに委託して行う計画でした。
予算についても2020年度当初予算には当然計上されていないので、必要な経費は6月に補正予算を計上する予定だったのです。

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この段階で、多くの自治体関係者から一斉に文科省への批判が噴出します。
1人1台端末を導入する際の経費は、国から3分の2の補助金が支出されますが、肝心なランニングコスト(通信料や保守経費)やソフトウェア経費は全て自治体負担なのです。
数年後の機器入替え時には、もう一度補助金が支出されるのか、文科省ははっきりとした姿勢を示しませんでした。
そして、全国の知事会・教育長会等から一斉に構想の延期や、補助金範囲の拡大に関する要望が文科大臣・文科省に集中したのです。
「そんな莫大な経費を、今後も継続的に負担できるはずがない」という至極当然な主張でした。

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3月に事態は急変

しかし、3月に入り事態は急変。「コロナ禍」による緊急事態宣言と、それに合わせて小中学校が臨時休校になり、日本全国で冷静さを欠く行動が顕著になりはじめます。
「GIGAスクール構想」も、5年以内に1人1台端末の整備完了という目標が、一気に1年で整備完了という、常識では考えられない期間短縮が通達されました。
あまり騒がれることはありませんでしたが、2019・2020年度の国の補正予算で4,610億円もの経費が計上されています。

この4,610億円の国の予算には、当然のことながらランニングコスト等は含まれていません。予定通りに、ハードウェアの調達経費とLAN工事に関する経費のみです。
この常軌を逸した整備期間と文科省の圧力に、一ヶ月前には気色ばんで文科省の姿勢を批判していた全国の知事・教育長等の関係者は一斉に沈黙します。
「臨時休校中にも学びを止めるな」という、文科省の大義名分に抗うことができなかったのです。
あの火を吹くような知事達の怒りは、どこへ消えたのか?

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何でもいいからPCを整備しろ

「何故、この緊急事態にICTを使わないのかッ!」
勢いに乗った文科省の「GIGAスクール構想」担当課長は、多方面で檄を飛ばし続けました。(一時、この課長は英雄のような扱いになりました)
これにデジタルに疎い首長達が踊らされたのでしょうか、急転直下、PCを1日も早く整備しろという指示が行政内に駆け巡ります。
当然ですが、小中学生に1人1台という大量のPCを整備するにあたっては、入念な配備計画と、その後の活用計画を時間をかけて検討する必要があります。もちろん、学校現場への説明も欠かすことはできません。

しかし首長達はその必要性を感じなかったようです。
そんなこと話し合ってる暇はないから早く整備しろ。
家電量販店で買ってばらまくのと同じだろ?直ぐに整備しろ。

この瞬間、「GIGAスクール構想」は「端末を導入すること」だけが目標になったのです。

将来的な自治体の莫大な負担については、今でも問題は全く解決していません。

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手配作業が開始

首長達の急な方向転換を受けてから、全国の教育委員会のICT機器整備担当者は分刻みのスケジュールで手配に入りました。
私の勤務している自治体においては、LAN工事が必要とされる学校数が100校、一人一台の端末数となると50,000台が必要です。
ざっくりと計算してもイニシャルコストだけでも数十億円です。
この莫大な経費を「数日間の検討期間」で補正予算として計上しなければなりません。

学校内の工事についても、前年度に予算化した校舎内の冷暖房機器設置工事のスケジューリングまで済んでおり、業者手配に着手し始めている段階でした。
しかも学校内で大きな工事ができる期間は夏休みに限られます。
その僅かな期間に、既にスケジュール済の工事の隙間を縫って、数十の業者を確保し、危機的な在庫のネットワーク機器を揃えなければなりません。
端末についても、限られた期間内で相当数の台数を手配しなければならないので、自治体間で仁義なき争奪戦が繰り広げられました。

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そうこうしている間にも、目まぐるしく変わる文科省の方針と矢のような催促。
一旦は決まりかけた仕様も、既得権益を持つ団体・企業からの圧力を受けた議会筋からの横やりで白紙に。
決まりかけては財政課からのクレームで白紙、決まりかけては首長からのクレームで白紙の繰り返し。

当然、学校からの要望事項等を聞く時間もありませんでしたし、あまつさえ「聞くな」とも上層部から言われました。
一刻も早く学校現場に内容を伝えなければならないのに、「今年度中に50,000台の端末が入ります」程度しか伝えることができませんでした。
文科省・首長・議会等にとっては、「端末を使う・使わせる」ではなく、「端末を導入すること」だけが目的となっていたのです。

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慌ただしく無意味に時間が過ぎ、結局、大量の契約手続きが終わったのが2021年1月中旬です。
文科省からの、「今年度中に配備完了するように」という指示のリミット2ヶ月前というギリギリのタイミングでした。

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