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栂池自然園、空の上の箱庭

 6月30日(木)、現地の天気予報、晴れときどきくもり。
 前日29日に長野入りして、善光寺御開帳の最終日に滑りこみ、長野駅前の東急REIホテルにて宿泊。翌朝、長野駅東口から白馬方面に向かうバスに乗りこんだ。

善光寺御開帳

 久しぶりの山旅らしい山旅だった。
 前職への再就職が決まる直前、新型コロナの合間にでかけた入笠山を最後に、2年弱のあいだ山旅にはでかけていない。

 前職在職中は、新型コロナや仕事の疲れもあって玉川上水沿いや野川沿いといった都内の平地歩きが中心。
 前に2年半ほど無職期間を過ごしたときは、近郊のいろいろな山に行ったり、木曽駒ヶ岳や富士山など年に1回は遠くの山にチャレンジしたりと、それなりにでかけていた。しかし、昨年11月に再び無職期間に突入すると、さすがに遊んでいてはまずいという(自分の)気分が強く、高尾山に登るぐらいしか意欲がわかなかった。

 6月にようやく新しい仕事が決まったとき、思った。

 美しい山が見たい。

 自分がまだ見たことのない(高尾山ばかりしつこく行きすぎた)美しい山を見たい。それも絵に描いたような山を。それと、山をサボっている人間がいきなり行っても死なずにすむ山でお願いしたい。

 おりしも、雨が降ると透明になる高山植物・サンカヨウの季節だった。

 私はサンカヨウを、第3回モンベルフォトコンテストの入選作品になったよそさまの写真で知った。モンベルのカタログ表紙にもなったこの写真をいたく気に入った私は、それを切りとってダイソーの額に入れ、部屋に飾っている。

 その写真が撮影されたのが、栂池(つがいけ)高原
 ということで、初心者向けの絶景山として知られる栂池自然園に行くことにした。

 栂池自然園の公式インスタで、サンカヨウの開花を確認したうえで出発。

 サンカヨウがあの写真のように透明になるには、前日に雨が降らなければならない。しかし、初訪問で雨を狙う勇気もないので、普通に晴れた日の翌日、当日もまずまず晴れというタイミングででかけていった。

 平日朝8時台の白馬方面行きバスは、ほどほどの人の入り。
 目的地の栂池高原バス停に着くまでに、似たような山+ロープウェイ+高山植物が見られる場所が複数あり、メジャーな行き先とはいえ全員が栂池高原に行くわけでもなく、乗客はほどよくばらけているようだった。

 到着後、まずはロープウェイ乗り場の売店で、事前に予約していた弁当を回収。今回、乗車チケットも事前にオンラインで予約済なので、ロープウェイとゴンドラをすいすい乗り継いで標高を上げていく。

(今回、ちょうどいいタイミングで山小屋がなかったので、弁当を予約)

 ロープウェイとゴンドラ、合わせて30分ほど乗って、終点に到着。

お待ちかねの美しい山が!

 表に出ると、さっそく高原の空気……でもなかった。これを書いている2022年8月現在、東京は地獄の猛暑だが、長野に行ったときはこの暑さが始まったころで、なんと標高を上げてもあまり涼しくなかった。
 少しは涼しい。しかし……わりと暑い。日ざしに焼かれる。暑さから逃れたい気持ちもあった私は、若干期待はずれの気分でロープウェイを降りた。

 入場ゲートになっている建物(栂池ビジターセンター)を通って、栂池自然園内へ。

栂池ヒュッテ記念館/1933(昭和8)年竣工

 外に出ると、まずは明らかに近代建築である山小屋の前を通る。現在は記念館になっているこの戦前に竣工された建物は、山好きで近代建築ファンでもある私には二度おいしいのだが、今回は足の遅い同行者(母)がいて所要時間が読めなかったのでパスする。またいずれ。

 記念館をすぎると、さっそく箱根の湿性花園を彷彿とさせる湿原が広がった。

ミズバショウ湿原
サンカヨウ(不透明)

 サンカヨウはいきなりあった。早い。歩きはじめ、即、目的達成である。まさに「ロープウェイを降りたら絶景」だ。
 雨が降っていないので、案の定まったく透明ではないが、大変愛らしかった。

ミズバショウ

 続いてミズバショウ。これは前に箱根の湿性花園で見た。
 箱根では花が広がってグロテスクな見た目のものが多かったが、ここでは小さくてかわいいものも多かった。

これは……ミヤマダイコンソウ? かな?
ミズバショウ


 次から次へと有名植物のオンパレードだ。まるで山のディズニーランドである。

 事前にロープウェイのスタッフさんが教えてくれた、桜の1種にも遭遇。

 そんな感じで、豪華な高山植物のラインナップを見ながら、お散歩感覚で平坦な道を歩いていく。これなら、足が遅めな母がいてもなんとかなるかもしれない。

サンカヨウ(不透明)のベストショットを模索する私
しかし美しい山だ
移動ですでに時間がかかっており、序盤のベンチで早くも弁当。若干、日ざしに焼かれる
これはあれだあれ、……花!
これはたぶんシラネアオイ

 ところが、進むにつれて、足もとが少し悪くなってきた。山に慣れていれば、あるいは元気な方ならなんてことのない道だが、少し石があるぐらいの道でも母のスピードは落ちる。
 特に高低差のあるところを踏み越えていく筋力が弱く、少し段差があるだけでもスピードが鈍ってしまう。
 なお平地であればそれなりにスムーズに動ける。段差、石、ちょっとしたせせらぎなど、足をとられる要素にすごく弱い。

 というわけで、進むにつれてじわじわと増える所要時間。少し進んでは立ち止まって待つ私。

勢いのある透明な川!

 一方、周囲ではちょくちょく川の流れが現れてきていた。わたくし湧き水ファン、透明な水が何より大好き。

 さすがは湧き水のメッカ、長野。以前、入笠山に登ったときも、歩いているとそのへんのせせらぎがあまりに美しくて、人の来ない瞬間を執拗に待ち、翌年の年賀状にしたほどだが、栂池もとてもよい。

あんまりきれいな水だらけでウッハウッハですわ〜
もういろいろありすぎて何の花やら(すみません)

 さらに今回、事前の調べで、通り道に「銀命水」と呼ばれる名水があることがわかっていた。


 標識に従って進み、わき道に入る。小さい階段を下りたところに、せせらぎが見えていた。どれどれ……。

銀命水

 うおおぉぉぉぉぉ美しいぃぃぃぃぃ。

 力強い水の流れ。この勢いのよさと水量は、最近再訪した群馬の箱島湧水を思わせる。

群馬の箱島湧水。勢いがすごい

 きれいでおいしい水とは、結局のところ、量の豊富さなのだ……! ちょろちょろっと流れる水も素敵だが、飲用には適さないことが多い。

銀命水

 流れに水筒をさしこみ、飲んでみると、予想どおりおいしい。冷たくておいしいとはこのこと。銀命水、最高っ!

こっちの水面もやばい

 水面を眺めているといくらでも時間を使ってしまうので、ルートをピストン(同じ道を往復する)にして、あとでまた来ることにして先を急ぐ。

これはあの有名なチングルマ?

 すでに時間はだいぶ押しており、しかもいちいち美しい風景で立ち止まるので、そのたびに時間を食う。
 計算上、すでに帰りのバスと新幹線にはとっくに間に合わなくなっていた。一般高齢者(ガチ登山者ではないの意)を連れた遠出の日帰り登山、なかなか厳しいな……。

いきなりの雪渓

 しかも、栂池自然園には雪渓もある。一度、初心者向けの雪山を歩いてみたいと思っていたので、ちょっとうれしかったが、案の定、ちょっとした雪渓でも母には大変。でも、最後まで転ばず行けて何よりだった。

雪渓全景

 時間的にここいらで引き返すべきか、栂池自然園のハイライトまで行くか迷ったが、やはりハイライトは見ておかねば。

展望湿原の入り口あたり

 ということで、こちらの展望湿原が本日の「頂上」である。

長野の山といえばこんな風景ですよ

 やはり、来てよかった
 水風景ももちろんいいのだが、山といえばこんな眺めだろう。惜しむらくは、ここに座ってのんびりしていたら、まちがいなく今日中に東京に戻れなくなるということだ。5分ほど、先ほど汲んだ銀命水を飲みながらひと休みして、われわれは展望湿原をあとにした。

 往復で銀命水に立ち寄るためピストンにしたので、展望湿原から先の一部の道(これも栂池自然園の入り口に戻る)は見ることなく、われわれは来た道を戻った。行きに引っかかった雪渓などでたびたび引っかかりつつ、焦らないように気をつけながら。

またまたミズバショウ

 再びの銀命水では、2Lのプラティパス水筒にしっかりと水を汲む。今日は遠出だったので、持参した水汲み容器はひとつだけ。
 水汲み好きと登山好きはおそらくあまりかぶらないのと、銀命水は多少登山しないと来られないためか(水は重いので、当然車で汲みにくる人が大半)、水汲みが自分しかいないのでゆっくり汲めた。

水面はいつまでも見ていられる
銀命水の入り口。上から見ただけだと地味で、あんなすばらしい水面があるようには見えない

 なお、こういう流れにさしこむタイプの水汲み場は容器に水が入りにくくて大変だ。じょうごとひしゃくがほしい。湧き水ファンとして買うべきだろうか(自問)。

 あとは帰るのみ!(美しい風景は何度でも写真を撮りながら)

さあ、あとはロープウェイで下りるだけ

 次のバスまで1時間あったし、計算上、帰宅が深夜になるのはわかっていたが、ロープウェイを下りるとなんとなくホッとした。山に来るときはいつもそうだ。下りてくるまでが登山だから、いつもちゃんと下山するまではどこか緊張している。

 バス待ちにちょうどいいカフェなどはほぼなかった。近辺は、いわゆる「昭和にスキーで栄えたものの、今は寂れている田舎町」という気配。
 新しいカフェなどもあることはあるが、雰囲気が入りにくかったり、人はいてもカフェ利用ができなかったり、食べたいものがなかったり。何より厳しかったのは、すぐ近くの温泉が廃業していたこと! 温泉入りたかった〜!

 結局、すぐそばの酒屋さんでラムネを買って、バス停で待機。

 長野駅に戻ると、すでに夕食どきだった。本来、夕方には東京に戻っている予定だったのだが、問題外の時間配分である。

サイゼリヤで夜ごはん

 22時に自宅に戻れる新幹線の自由席で帰ることにして、夜ごはんは駅前のサイゼリヤ。
 地元の高校生がわちゃわちゃするサイゼリヤで、トニックウォーターにジュースを混ぜたノンアルカクテルで清涼感を味わいながら、久しぶりの山旅を締めくくった。

栂池自然園へのアクセスは、東京から長野駅まで新幹線で1時間半程度、長野駅から白馬方面行きのバスに乗って1時間半程度。栂池高原で下車。ロープウェイとゴンドラを乗り継いだら、すぐ絶景が待っている。アルプスらしい山の風景も、長野らしい透明な水の風景も、豊富な高山植物も、全部盛りの初心者OKコース。高齢者の父母を連れて、ロープウェイ~銀命水~展望湿原をピストンして4時間の山行だった(ピストンせずに1周した場合のコースタイムをやや超過)。山好き兼水好きの私もお花大好きな母も大変幸せなコースだったので(父は山自体が好きで要素にこだわりなし)、また似たような山に行きたい。次回は高齢者の歩行時間を計算に入れて、バスや電車の時間を守るのが目標!

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