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木曽駒ケ岳、天上の楽園を知る

登山1年目のまえがき

2018年7月3日、私は登山デビューした。6月下旬にスペイン巡礼の旅から帰ってきて、すぐのことである。


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(デビューは秦野の弘法山公園。友達とその子どもが道づれ)

理由のひとつは、スペイン巡礼があまりにも楽しかったので、日本国内で似たような体験をしたかったから。もうひとつは、スペイン巡礼中、kindleでずっと『山と食欲と私』を読んでいて、山に登って山ごはんを食べることへの欲求が高まっていたからだ。

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(弘法山公園で初めての山ごはん)

あれから、1年目40回、2年目15回、3年目の今年もコロナ下で少ないものの3回山にでかけた。3年目の登山については、現在リアルタイムで山日記を書いて更新しているが、1年目、2年目もいい山がたくさんあった。

なんとなく、文章に残しておかないと消化できない気がしているので、今から1年目、2年目の登山についても思いだして書こうと思う。

ちなみに、順番はランダムだ。たぶん、印象が強かった山行を書いていき、全部は書かない。何しろ一時期、高尾山6号路ばかり行きすぎた。そんなに何回も6号路のことばかり書けない。書きたくなったら書くかもしれない。

登山1年生のハイライト、木曽駒ケ岳

ということで、登山1年生の山行でいちばん印象に残ったのは、どう考えても木曽駒ケ岳をおいて他にない。

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とにかく美しい光景が多く、いかにも登山! という景色が広がり、初心者にもやさしいレベルの山だ。いろいろなガイドブックに、アルプスデビューにふさわしい山として紹介されている。

それで、登山1年目のハイライトとして行くことに決めたわけだが、結果として、なかなかスリリングな天気からの大正解〜! という流れになったため、個人の経験として印象深いものになった。

木曽駒ケ岳を回想する

2018年9月2日。私は、バスタ新宿から駒ケ根インターチェンジに行く高速バスに乗りこんだ。そこそこの不安を胸に。

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駒ケ根ICバス停で下り、ビジネスホテルにむけて歩いているとき、晴れではないもののまずまずの天気でほっとしていた。これなら、なんとか乗り切れるかもしれない。とにかく曇りでいいから登らせてほしい、せっかく来たのだから。

その日、日本列島に台風が接近していた。それなのに決行したのは、夏山シーズンに滑りこみたかったのと、「おそらくこの日ならイケる」というお墨付きを知人の山のプロからいただいたからだ。はっきり覚えていないが、台風の前に高気圧がやってくるから、私の登山予定日だけはいい天気になりそう、むしろこの日しかない、といったような予想だった。

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(ビジネスホテルからの眺め。たぶんあのへんに木曽駒ケ岳があったはず……)

プロの予想に励まされ勇気をふるって出発したものの、この曇りっぷりを見ると不安になってくる。しかし、もう来てしまったのだ。明日はとにかく木曽駒ケ岳に向かい、ロープウェイで上まで行ってみて、その先ヤバそうなら引き返そう。そう決めて、ホテルの隣のCoCo壱でカレーの夕食を食べ、だらだらしてから就寝した。

翌朝は6時ぐらいの起床だったか。前夜だらだらしたせいで、若干寝不足だった。なお、これはのちほど祟ることになる。

朝食はコンビニで調達する。山上で食べる昼食も、コンビニおにぎりだ。今回、天気が天気なので、素敵な山ごはんなどは考えられなかった。

外の天気は、まったくよくなっていなかった。むしろ悪化している。テンションが上がらないまま、とにかく予定のバスに乗りこむべく移動した。ホテルを出た時点で雨が降っており、登山ザックに折り畳み傘という大変テンションの下がるスタイルで歩いていった。

ロープウェイ駅までバスで1時間ほど(だったと思う)。天気は悪いがバスはわりと埋まり、ロープウェイもけっこうな行列になっていた。ロープウェイに乗りこむと、眼下に美しい風景が見えていたが、いかんせん窓にあたる雨音がボツボツと激しくて、テンションが上がらない。これはもう、山頂駅で折り返して、ゆっくり温泉につかって帰るほかないのでは、と思っていた。

山頂駅で下りると、他の登山者は慣れた様子でレインウェアを着込んでいた。私はこのとき、スペイン巡礼に使ったポンチョしか所持していなかったが、とにかく着る。そして、行けるところまで行って引き返そう、と決意して表に出た。

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外に出ると、そこはもうかの有名な千畳敷カールだった。しかし、雨にドキドキしすぎて、やはりまったくテンションが上がらない。

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雨の中、山にむかって進んでいく。しばらくして、「ここから先は登山道です。登山装備が必要です」といった注意書きがあり、どうしようかと思ったのだが、とりあえずまだ行けそうだ、と先に進む。

ガイドブックに木曽駒ケ岳の行程でいちばんキツい登りだと書いてあった坂を、風雨のなか登っていく。私はこのとき、スペイン巡礼用のポンチョで来たことを後悔した。ポンチョで風にあおられると、まさしく凧のようにトビそうになり、正味な話ちょっと危ない。そういえば、雨の中を出発していった登山客は、みなちゃんとしたレインウェアを着ていた。ポンチョでノコノコ高山に来たアホ初心者は私だけだ(反省して後日買いました)。

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とはいえ、出発してしまったものは仕方ないので、堪えつつ登っていく。幸い、しばらくして雨はやんだ。しかも……晴れ間が! 山のプロの予報が当たった!

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(ロープウェイ駅ことホテル千畳敷が見える)

ここから、私の木曽駒ケ岳は、一挙にその美しい姿を見せつけてきた。

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まあ!

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なんと!

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これは! なんちゅう美しい山だ。

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コントラストの強い山肌から、目を離せない。

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うしろを振り返り振り返りしつつ、坂を登っていく。

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スマホのシャッターボタンが止まらない。

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このころには、人間凧になりかけていたポンチョを脱ぎ、足どり軽やかに進む私。

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ずいぶん高くなってきた。そして、坂道を登りきり、乗越浄土に到着。

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右見ても左見ても絵になる山だ。

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ついさっきまで、強い雨音にテンションだだ下がりしていたのが嘘のようだ。テンションがストップ高である。

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中岳山頂に到着。

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正直、あれから2年がたってしまって、ハァハァしながら景色に圧倒されていた記憶しか残っていない。言葉もなく、自我が景色に溶けこむ瞬間、これがいちばん幸せな瞬間のひとつだと思う。

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木曽駒ケ岳の頂上。この付近でおにぎりを食べた。

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帰りも同じ道を下っていく。

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宝剣山荘に立ち寄った。ここでソフトクリームを食べるように、と例の山のプロから言われていたのだが、残念ながら売り切れていた。代わりに甘酒を頼む。

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と、ここから、私は変な生あくびを連発しはじめた。どうにもこうにも、あくびが止まらない。とにかく、さっさと下山しようと立ちあがる。

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(帰りの千畳敷カールは晴れの景色)

ロープウェイを下りるやいなや、私ははちゃめちゃな眠気に襲われ、ベンチで寝落ちした。バスの時間があったので、なんとか立ち上がって駒ケ根ICバス停に向かったものの、その待合所で再度寝落ちした。

本当に、襲われる、としか言いようのない眠気であり、なんだこの眠気は……? と不思議だったのだが、しばらく寝落ちし、なんとか人心地つくことができた。

たまたま待合所でベテラン登山者の方(上級者用コースの帰りだった)に話しかけられたので、そのことを訊いてみた。すると、木曽駒ケ岳の高度でも十分に高山病になる可能性はあるそうで、寝不足が影響しているのではないか、という話だった。実際、前夜私はだらだらと夜更かしし、その状態で登山したため、寝不足だったのだ。

登山1年目のハイライト、木曽駒ケ岳登山は、私にふたつのことを焼きつけた。

ひとつは、高山病の影響。これは、本当に有無をいわせぬものだということ。この経験は、翌年、富士登山に挑戦する際に生かされることになる。

もうひとつは、山へのやみがたい憧れ——。

台風の接近、雨天からの快晴で、結果として木曽駒ケ岳はそのもっとも美しい姿を私に見せてくれた。

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あの、言葉もなく景色に圧倒される、心の楽園というべき場所が山の上にはあるのだと、登山1年生の私はあの山で知ってしまったのである。

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登山1年目。山って、楽しい。

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