松田くんと息子の関係から見る「スラム文化人が男子育成に不可欠」と私が断言する理由
男子には「スラ人」が必要だ。
12月5日から松田くんの個展「松田修 / こんなはずじゃない」が無人島プロダクションで開催される。
open: 火~金|13:00-19:00 / 土・日|12:00-18:00
close: 月、冬期休廊12/28 – 1/4
※ 本展ではオープニングレセプションは行いません。
※ 今後の状況により、営業時間の変更や、やむを得ず休廊となる場合があります。最新情報は随時ウェブサイトでご案内します。ご来場前に必ずご確認ください。
(無人島プロダクションのサイトより引用)
マレーシアから動けない私は参加は見に行けないけど、この個展はとても思い入れがあるのでぜひ行ける方は行ってほしい。特に行ってほしいのが、7歳から15歳くらいまでの男子がいる親子である。
まずは彼のステートメントを読んでほしい。以下長いけど引用。
ほとんどの人がそうだと思うが、「何も深刻じゃない」と虚勢を張っているはずの僕も、「今年」はほとほと参ってしまった。久しぶりに、自分ではどうしようもないことがあると強烈に実感した。それでも社会を下から観察しようと僕なりに努力しようとするのだが、「リモートワークよろしく」で涼しげな貴族を発見し、阪神大震災時の芦屋と尼崎にまつわる、格差の話を思い出したりした。
「ああ、貴族がうらやましい」と繰り返す僕に、
「やかましいわ! そもそも世の中がこんなになったんは、あんたのせいちゃうんけ! あんた今年、厄年やったやろ!」
と、いまだに尼崎のクソみたいなところで、小さなスナックを営んで生活する母が吠えたのが今年の5月。厄災時には経済的弱者から被害が出るのは当たり前だが、コロナ禍では特に水商売は厳しかった。母たちはいち早く「スラムマスク」と名付けられたマスクを手作り販売するなどして健闘したが、ついに店を閉めることになった。母たちがいくら頑張っても、最寄りの風俗街に人が戻らなければ、店をやるには限界があったのだ。
「今年」、どれだけの人がこんなふうだっただろう。「こんなはずじゃない」と。けれど、僕や母からしたら「こんなはずじゃない」のは生まれてからずっとで、逆境しかないところで育っているから、ヘラヘラ笑ってしまうのだった。卑屈に(笑)。
この展覧会では、社会的不利な構造や格差など、様々な社会問題に触れているが、どの作品にも、カスな運命を受け入れつつヘラヘラ生きていく、そんな「スラム魂」が通底している。あらゆる人間の生き方のなかで、僕はこういった超絶右往左往しながら生きることを「スラム出身の文化人」、「スラム文化人」、いや「スラ人」として選択し、「アート」として提案する。「超底辺層の視点による低次元的アート」が、たくさんある「高次元的なもの」に影響を与える可能性は十分ある。そのときは、誰かが良い意味で「こんなはずじゃない」と言うのだろう。そんなことが起こることが、「アート」だと思っている。
私はこのステートメントを読んで涙した。「マレーシアのロックダウンでおかしくなりましたか?」と松田くんから言われてしまうかもしれん。いや、違う。私は感動したのだ。
なぜなら、松田くんは息子に多大な影響を与えてくれた「スラム文化人」だからだ。この新型肺炎と生きる世界において、私たち、特に息子に多大な影響を与えてくれた大人の1人が松田くんだ。彼をどうにかしてきちんと敬称したいと思っていたのだけど、全然言葉が浮かばなかった。
答えは彼が出してくれた。「スラ人」や。
日本で男子がたくましく育つには「スラム文化人が必要」と私は声高らかに宣言したい。
松田くんと私たちの出会いは遠い昔。気がつくけばもう7年以上の歳月が経っている。最初、私たちは松田くんがチンポムのメンバーだと思っていた。そう、松田くんは息子にとって「作品を観る前に出会った数少ないアーティスト」なのだ。
彼との友情は揺るがない。松田くんが裸で鎖で繋がれてると聞いた時、息子は本当に心配し彼がどうやったら生きられるか真剣に考えた。それがにんげんレストランだった。
ちなみにこの休みの後、学校で「ホリデー何してた?」とクラスで話す機会があったそうで
「ママの友人がやってるアートイベントに歌舞伎町に行った。友達が裸で鎖で繋がれてたので食べ物を届けた。レストランもあって死刑囚が最後に食べるメニューを食べた。イベントがあってステージに拉致られた」
と話したら「歌舞伎町でママの友達の死刑囚がやってるアートイベントに行って拉致られた」と伝わりそうになり慌てて否定したがなんかわかってもらえなかったかもと言われ、学校からの呼び出しを覚悟したが。。呼び出しはなかった。
ちなみに新宿は英語圏の子でも流行ってたゲーム「龍が如く(英語名:YAKUZA)」のおかげで危ない街って結構みんな知ってます。
神室町は歌舞伎町がモデルっぽいですよね。
松田修の経歴はすごい。産まれは兵庫県尼崎市。ダウンタウンの出身地として有名だが、日本有数の治安の悪さで有名な都市でもあった。松田修少年ももちろんその中でロックな少年時代を過ごし、少年鑑別所を体験。そして松田くんがすごいのはその後アートとの出会いを経て自分で上京して自力で東京芸術大学に入り、大学院まで卒業してるのだ。
このエピソードは界隈では「国立から国立へ」と語り継がれてる。東京芸大は日本一受験倍率が高い。芸大に入るってすごいのよマジで。
なぜか息子は松田くんにめっちゃ懐いた。松田くんは見た目は正直めっちゃ汚かったけど、めちゃくちゃ知的でめちゃくちゃロックだった。
「僕のおかん、マイク・タイソンに似てるんですよ!」
こんな風なセリフをとても自然に言える松田くんを心底かっこいいと思った。息子は松田くんに同じ目線で話してもらえてる感じがとても嬉しかったようで、松田くんに会える機会を本当に楽しんでいた。
後に私は松田くんが美術大学受験の予備校で「とても良い先生でした」と言う話を別の若いアーティストさん数名から聞いた時、なんかわかるなあと思った。
松田くんには自分以外の人の視線の真正面に自然に立って一緒にみれる能力がある。彼の前回の個展「何も深刻じゃない」での「普通の写真」は心が深く揺さぶられた。
「普通の写真」
ヘルパーのバイトで出会った、頚椎損傷者の鉄道オタク・麩澤さんとのコラボレーション。首から下が動かない麩澤さんと日本中を旅しながら、指示通りに撮影してきた鉄道写真シリーズ。麩澤さんが目指すのは、撮り鉄らしくアマチュア鉄道写真のクオリティだ。協力することで一人前になるのではなく、2人でようやくアマチュアにたどり着くことを追求した作品。
(以上「Artist Run Space「松田修展「何も深刻じゃない」」)より引用
彼が芸大の大学院まで出たのに、なぜこんなに人に自然に寄り添えるのだろうと常々不思議でしょうがなかった。
答えは松田くんが出してくれた。「スラ人」だからだ。
私がこの彼の「超底辺層の視点による低次元的アート」」が、たくさんある「高次元的なもの」に影響を与える可能性は十分ある。という提言に深く頷けるのは「所属層というのはその場によってコロコロ変わる」を実感してるからだ。そしてその不安定な立場を一番必要としているのは若い世代だと思うのだ。
私の息子はKLでも勉強することで有名な学校に通っている。私はいつも思う。14歳って、高校一年生課程ってこんなに勉強したっけ?って。クラスメイトは穏やかで賢い子が多い。そして彼らは皆息子に優しい。それは息子が彼らから見たら「下層だから」。息子は「僕の親は貧乏だから」と何度も言う。それは「親が会社を持っていないから」「親が会社を持っていないから」「親が家を所有していないから」「親がメイド雇っていないから」下層なのである。
息子日本では「英語も日本語も話せるし色々な美術館に行ける上層」設定になるのだろう。以前から続けてる美術鑑賞ブログでも「美術館に見に行ける親子の徘徊に過ぎない」「自分たちが恵まれてることに気づいていない」と言われたことがある。そして同じ人間が「親が会社を持っていないなんてかわいそうな子」と哀れみを持った目で見られるのだ。
これを不安定と言わずして、どう表現しろと言うのか。
こんな風にグラグラする時代、しかも未来が見えない時代に若者はどう夢を語れというのか。絶望から始まる日常をどう生きろというのか。まず必要なのは自分の視線の高さまで降りてきてくれて、そしてアホなことを言いながらもハッとした気づきを与えてくれる存在ではないか。松田修というのはまさにそういう存在なのだ。
今、移動ができないからこそ自分の立ち位置から動けないと思ってしまいがちだ。そしてその立ち位置からの永遠に動けないということは、永遠に事態は改善しないと感じ、悲観の海に溺れてしまう青少年が多いと聞く。
日本でも自殺が問題になっているが、それは日本だけでなく私の住むマレーシアでも、欧州でも問題になっている。それだけみんな自分に、自分の未来の「不安」につぶれそうになっている。
人は、松田修のような「自己(を見えない部分で維持しながら自ら)を解放して自分に寄り添ってくれるロックな生命体」を心底求めてるのではないか。そしてそのロックな「スラ魂」に触れてクスって笑った後に「もう1回始めようか」と思えるエネルギーを求めてるのではないか。
ぜひ無人島プロダクションの彼の個展に足を運んでほしい。そして青少年は彼と話してほしい。彼のロックで文化に溢れるスピリッツに触れてほしい。心の中で押し付けてるつけもの石が軽くなるはずだ。
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個展「松田修 / こんなはずじゃない」
開催:無人島プロダクション
都営地下鉄新宿線「菊川駅」A3出口より徒歩6分
都営地下鉄新宿線・地下鉄半蔵門線「住吉駅」 B2出口より徒歩8分
JR総武線 南口・地下鉄半蔵門線「錦糸町駅」1番出口より徒歩10分
(場所の詳細はこちら)
open: 火~金|13:00-19:00 / 土・日|12:00-18:00
close: 月、冬期休廊12/28 – 1/4
※ 本展ではオープニングレセプションは行いません。
※ 今後の状況により、営業時間の変更や、やむを得ず休廊となる場合があります。最新情報は随時ウェブサイトでご案内します。ご来場前に必ずご確認ください。