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【新刊・9/28発売】ぼくらの非モテ研究会 編著『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』試し読み

9月28日に新刊のぼくらの非モテ研究会 編著『モテないけど生きてます 苦悩する男たちの当事者研究』を発売します! これに先駆けて本書の序章「生きやすくなったと言っていいのか」を先行公開します。「非モテ」に悩む男性たちの語りをジェンダーや当事者研究の視点からまとめた一冊です。ぜひごらんください!

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戸惑いの内側から 西井 開


1 生きやすくなったと言っていいのか
 
 月に一、二回、十人程度の男性たちが公共施設の一室に集まってくる。部屋の入り口には「ぼくらの非モテ研究会」と書かれた看板が掲示してある。
「こんばんは」
「こんばんは」
 そういって彼らは会場のホワイトボードを取り囲むようにして並べられた椅子に静かに座る。初期から参加しているメンバーのハーシーさんが声をかける。
「ここには何を見てこられたんですか?」
「あ、「Twitter」で」
「そうですか。来てくださってありがとうございます」
「はい」
 沈黙。
 午後六時半になって、その日ファシリテーターを務めることになっていた私が口火を切った。
「みなさん、今日はご参加いただいてありがとうございます。時間になったのでそろそろ始めましょうか」
 参加者たちはその日のテーマに沿って、自分の悩みや苦労を語る。ファシリテーターである私も語る。一人が話し終えたらほかの参加者から質問やコメントを募り、それが終わればまた次の人が語りだす。それを全員が繰り返した。


 午後九時ごろ研究会を終え、参加した男性たちが同じビルの四階にあるチェーンのうどん屋にぞろぞろと入っていく。何度も利用しているので、ほとんどのメニューを制覇してしまったかもしれない。平均年齢は三十歳くらい。若くても二十歳という男性の集団ながら、アルコールを頼むものは誰もいない。閑散として、貸し切りのような店内でそれぞれ六百円から八百円くらいのうどんをすすりながら、先ほどの研究会の感想を話したり、現在進行中の片思いの相談を始めたり、なんだか小難しい話をしたりしている。
「そろそろ閉店のお時間でして……」とバイトの店員が声をかけてきて、私たちは席を立つ。一人ずつ会計をすませて、それぞれ電車に乗って帰っていく。電車に揺られながら、私は帰る方向が同じメンバーとグループの活動について話をした。終点の駅に着くころ、彼はぽつりとつぶやいた。
「生きやすくなったって言ってもいいんですかね」――。

「ぼくらの非モテ研究会」(非モテ研)という男性のための語り合いグループを立ち上げてから二年半がたった。参加者の多くがモテないことに悩む男性で、しばしば恋愛の悩みを語り合うが、次第に、一人前の人間ではないという不安、傷つけられたという痛み、公には言えない欲望、誰かを傷つけてしまったという罪悪感など、あらゆる苦悩が話題になるようになった。私たちは研究会で自分の経験を語り、そして悩みや痛みや罪悪感がどこからもたらされているのか、またどうすればよりよく生きることができるのかを探求してきた。

「生きやすくなった」と簡単には言えない……。語りによって記憶の蓋を開けることは、さらなる困惑や苦痛をもたらすかもしれない。また、後ろ暗い過去や欲望を持っているのに、グループで仲間と出会い、自分の生きづらさを語り、そして少し気が楽になっていいのかという戸惑いもある。
生きやすくなりたいという、抱いて当然の感覚に躊躇するような彼の言葉が、私はとても印象に残っている。

 非モテ研に参加する男性たちは、ずっと悩み続けている。そのさまを描く本書は、男性の苦悩を外側から分析・整理したものではなく、非モテ研のメンバーたちが苦悩の内側から研究を積み重ねた成果としてできあがっている。以下では、現代の男性たちを取り巻く社会環境と非モテ研の概要、そしてメンバーたちの体験を一つの物語として提示しながら本書の構成を見ていきたい。

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以上が『モテないけど生きてます』序章部分です。本書の詳細、目次などが気になった方はぜひ当社Webサイトからごらんください! 全国の書店で予約受付中です。   

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