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【横田一】中央から見たフクシマ79-河井夫妻逮捕で安倍内閣瓦解の気運

 東京地検は6月18日に公職選挙法違反(買収)容疑で河井克行・前法務大臣(広島3区)と河井案里・参院議員(広島選挙区)を逮捕した。福島原発事故がまるでなかったかのように原発再稼働に突き進む安倍政権(首相)に大打撃を与えることになったのだ。

 この買収事件は、〝安倍ヘイト選挙〟の産物と呼ぶのがぴったりの首相直結案件だ。克行氏を法務大臣に抜擢した安倍首相の任命責任はもちろん、党本部から案里氏に1億5000万円も提供した自民党総裁としての責任も免れないのだ。

 ちなみに同じ広島選挙区(定数2)の現職候補の溝手顕正・参院議員(落選)には1桁少ない1500万円しか提供しなかった。表向きは「自民2議席独占」が目的とされたが、実際は、第一次安倍政権でお腹が痛くなって辞任した安倍首相を「過去の人」と指摘した溝手氏を落選させるために、案里氏を刺客として送り込んだのは明らかだった。与野党で一議席ずつ分け合ってきた〝自民党枠〟を現職の溝手氏と新人の案里氏が争う一騎打ちにしたのだ。

 一議席を保守系候補2人が争う選挙では、熾烈な買収合戦となる場合が珍しくない。中選挙区時代に唯一の一人区だった「奄美群島区」での〝保徳戦争〟(弁護士の保岡興治氏と徳洲会創業者の徳田虎雄氏の一騎打ち)では数十億円単位の現金が飛び交い、有力者を寝返りさせるために買収資金が配られたのだ。

 同じように昨年の参院選広島選挙区でも地元の首長や地方議員に現金が配られ、溝手氏の支援者を切り崩す買収が横行したのだが、その諸悪の根源は自民党総裁でもある安倍首相の嫌悪感だったのだ。政権の求心力を一気に消失させ、レームダック状態に陥ったのはこのためだ。

 実際、河井夫妻逮捕と前後して、政権末期状態を物語る異変が相次いだ。首相肝いりの政策が覆されたり、異論が出るようになったのだ。

 河野太郎防衛大臣は6月15日、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を停止すると表明した。安倍首相の了解を得た上で、配備予定の秋田県と山口県の知事にも報告した。そして安倍首相も国会答弁で追認し、事実上の白紙撤回となったのだ。

 ただ当初からイージス・アショアが税金の無駄であることは一目瞭然だった。2017年11月の日米首脳会談で安倍首相は米国製兵器大量購入の要請を快諾。翌12月にイージス・アショア2基購入が閣議決定されたが、既に防衛省はイージス艦を4隻から8隻にする計画を進めており、イージス艦2隻分の稼働が1隻で済む「システム進化」も進行中だった。イージス・アショアの必要性は皆無に等しかったのだ。

 それでも最近までイージス・アショアは見直されることはなかったが、政権末期状態に入った途端、以前から税金の無駄を追及してきた河野氏が白紙撤回の政治決断をした。トランプ大統領との蜜月関係をアピールしてきた安倍首相に異論をぶつける閣僚が現れたのだ。

 これに呼応するように中谷元・元防衛大臣も6月15日、辺野古新基地建設について「十数年、1兆円かかる。完成まで国際情勢は変わっている」と不合理性をBSの番組で訴えた。もう一つの〝安倍米国下僕政治〟の産物である辺野古埋め立てへの異議申立をした瞬間でもあった。

 第二次安倍政権下では皆無に等しかった異議申立は、現政権の〝負の遺産〟を清算しようとする意思表示でもある。河井夫妻逮捕によって、多くの福島県民の民意を無視する〝原子力ムラ内閣〟が瓦解する気運が一気に広まることになったのだ。


フリージャーナリスト 横田一
1957年山口県生まれ。東工大卒。奄美の右翼襲撃事件を描いた「漂流者たちの楽園」で1990年朝日ジャーナル大賞受賞。震災後は東電や復興関連記事を執筆。著作に『新潟県知事選では、どうして大逆転が起こったのか』『検証ー小池都政』など。



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