【福島県】湯川村長が辞職勧告を決議されたワケ

背景に「62票差」村長選の後遺症

 

 湯川村議会3月定例会は3月19日に最終本会議を開き、議員から提出された三澤豊隆村長の辞職勧告決議案を賛成多数で可決した。辞職勧告に法的拘束力はなく、三沢氏は辞職しない考え。騒動の背景を追った。
 
 三澤氏は1949年生まれ。現在2期目。昨年10月の村長選では現職の三澤氏が1072票を獲得、新人の元村議会副議長・佐野盛至氏を62票差で下し、再選を果たした。

 三澤氏は集落単位に設けた後援会支部を総動員し、組織戦を展開。一方の佐野氏は過半数の村議から支持を受け、村総務課長などを務めた豊富な行政経験を訴えた。結果、三澤氏の勝利で決着したが、過半数の村議が佐野氏支持に回ったことで反村長派が増え、執行部提出の議案について議会の理解を得るのに三澤氏はこれまで以上に苦労するようになった。そうした中で浮上したのが、三澤氏に関するある〝疑惑〟だった。

 三澤村政2期目がスタートした矢先、「村費を投入した昨年12月の映画試写会『あいづふるさと映画祭』の入場整理券を、三澤氏が自身の後援者に配ったらしい」というウワサが村内に流れたのだ。

 同試写会は、同村出身で、山田洋次監督の代表作「男はつらいよ」シリーズの撮影監督を長年務めた高羽哲夫氏の功績を広く伝えるため毎年開かれている。

 昨年の同試写会はシリーズ最新作『男はつらいよ お帰り 寅さん』の全国公開を記念し、抽選で当選した500組1000人が特別に招待された。さらに同試写会に協賛した自治体などにも入場整理券が割り当てられ、30万円を協賛していた湯川村も受け取っていた。その入場整理券を三澤氏が自身の後援者に無料で横流ししていたのではないか、と疑われたわけ。

 公職選挙法では「候補者や議員は、自身の選挙区の有権者に金銭や物を渡すなどしてはいけない(寄付行為の禁止)」と規定されている。

 それだけに、ウワサが事実だとすれば公選法で禁じられている寄付行為に当たるとして、2月4日開催の議会全員協議会では菅沼弘志村議が三澤氏を追及した。

 以下、議事録から引用する(一部リライト、カッコ内は編集部注)。
   ×  ×  ×  ×
 三澤 チケットは(映画祭)実行委員から(高羽哲夫氏の)親戚分として5枚ほど渡され、トータルでは10枚ぐらい渡された。私自身はその中から2、3枚を配った。
 菅沼 後援会に配ったという事実はないのか。
 三澤 後援会には配っていない。
 菅沼 後援会枠があったとの話があるが。
 三澤 映画祭を成功させるため、映画祭に行ける村の人で、(私の)知り合いに配った。
 菅沼 公金を費やしている事業だという認識はあったのか。
 三澤 (映画祭開催までの)限られた時間の中で行ける人に配った。
 菅沼 チケットの配布先については自分も調査し、裏は取ってある。後援会活動については9月に議長から注意されたばかりだ。
 三澤 意図的に後援会に配ったつもりはない。
   ×  ×  ×  ×

 三澤氏は後援者に配ったことは否定したが、自身の判断で村民に配布したことは認めた。菅沼村議はそれに対し、「たとえ入場券整理券が無料であったとしても、有権者である村民に渡せば寄付に当たる」と指摘した格好だ。 

 菅沼村議は、三澤氏について次のように論じる。

 「支持者にはとても愛想がいいけど、そうでない人には露骨に高圧的な態度をとる。本来リーダーというのは、すべての村民に真摯であるべきで、特定の人に贔屓するのは政治家として失格だと思いますね」

 支持者か否かによって態度を豹変させる三澤氏への不満も、ウワサが広まった背景にあるようだ。

 実は、三澤氏への不満はこれだけにとどまらない。三澤氏は、会津東部土地改良区の新年会を欠席した一方、同じ日に行われたロータリークラブ会津坂下の会合には出席したことも問題視された。同村の基幹産業は農業にもかかわらず、土地改良区の新年会に参加せず、奉仕団体の会合を優先したのはいかがなものか、と。ちなみに、同ロータリークラブは三澤氏の支持者が多いとされる。

 村長選直前の昨年9月には、9月定例会の休会中に三澤氏が後援者を引き連れてあいさつ回りをしていたことが発覚し、斎藤賢一議長から厳重注意を受けたこともあった。前出の菅沼村議が「後援会活動について議長から注意されたばかり」と発言したのはこのことを指している。

 ある村議がこう打ち明ける。

 「あきれたことに三澤氏は私の家にも来て、家族が対応しました。いくら休会日とはいえ、定例会の会期中に村長選に向けた実質的な選挙活動をするのは、さすがに常識から外れていますよ」

 取材を進めると、三澤氏をめぐっては道の駅あいづ湯川・会津坂下のテナントとの裁判、経歴詐称疑惑、学校統合なども批判の的になっている様子が見えてきた。こうした状況を受け、菅沼氏ら複数村議は「即刻辞任することが村民にとって最良の選択」と判断、後援者に映画試写会の入場券を配布した行為は公選法の寄付行為に当たるなどとして、3月定例会の最終本会議に同氏の辞職勧告決議案を提出したわけ。

 同案は、議長を除く9人により採決が行われ、賛成5、反対4の賛成多数で可決された。辞職勧告に法的拘束力はなく、三沢氏は辞職しない考えだ。

三澤氏のコメント

 三澤氏に書面で取材を申し込むと次のような回答が返って来た。

 ――辞職勧告をどう受け止めているか。

 「決議の理由に挙がっている項目は、いずれも辞職に値するものではないと考えている。議会と意思疎通を図りながら、ワンチームとなって村政発展に取り組んでいきたい」

 ――映画試写会の入場整理券はどういう考えで配ったのか。

 「映画祭を成功させ、盛り上げたいとの考えのもと、上映日を間近に控えてもなお余っていた入場整理券を、映画祭事務局が他の村民に配布するのと同様に、映画祭事務局から割り当てられた数枚を知人に配布した。あくまで映画祭事務局からの依頼に基づいて配布した」

 配布は映画祭事務局からの「依頼」という主張は「自分の意思で配ったものではない」と責任逃れをしているように聞こえる。

 そこで、映画祭事務局に「依頼」の内容を確認すると、

 「三澤氏にチケットを10枚ほど渡したのは事実です。そのうち数枚は高羽氏の親族に渡すだろうと承知していたが、それ以外の配布先は分かりません。事務局から三澤氏に、どこの誰に配ってほしいと『依頼』したことはありません」

 と、三澤氏に配布を「依頼」したことを明確に否定している。

 この問題も含め、三澤氏には日頃の言動を改めるべき点が多々あるようだ。しかし、中立の立場を取る村民からは「前回村長選の対立構図が持ち込まれただけ。62票差の大接戦では『勝てば官軍、負ければ賊軍』とばかり、あなたは三澤派、あなたは(落選した)佐野派と色分けされてしまう。それでは、三澤氏が言うワンチームにはなれないと思う」という冷静な意見も聞かれる。

 反村長派は告発も検討しているようだが、そんな争いを続けていては村にとって重要な議案さえ審議が滞りかねない。それによって迷惑を被るのは村民だということを、三澤氏も反村長派も肝に銘じるべきだ。


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