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【高野病院】異世界放浪記④

 「ママ、お仕事に行かないの?」と、子供達が不安そうにしている週末の高野家。最近リモートワークをされているご家庭の「あるある」ではないでしょうか。

 異世界に飛ばされてからの2年間は、出張の移動時間がお休み代わり。3年目からは、法定休日取得を目標にしていましたが、暦は日付を見るもので曜日を見るものではありませんでした。小さい頃から母親不在に慣れっこの子供達からすれば、ここ1年、週末に家でダラダラしている母親を見て「リストラされたのかも?」と心配するのは当然なのかもしれません。

 今回のコロナの件もそうですが、各地で災害が起きる度、現地の人達が、安心して休めることを願わずにはいられません。異世界であっても、お休みはしっかりとらなくてはいけませんよ。大変な時だからこそ、できる範囲で、自分の時間を持つことは、責められることではないのです。私がずっと休めずにいたのは、高野病院の職員採用が、全国区かつ24時間365日対応になったから。問い合わせの連絡にはすぐに対応し、先方の希望日に面接を設定。どこかのローン会社のようなスピード対応でした。休みはなくても、沢山の方達に出会えたのは楽しい思い出です。

 お休みが消えた一番の理由は、天界の方達の現地視察ってやつです。丁寧な口調でも、こちらの都合は全く聞かないアポ取り。お上には逆らえないけれど、有無を言わせなかったもんなぁ。しかも部署が違うだけで、同じことを最初から話さなくちゃいけない。こんなに何度も何度も繰り返し同じことを話すことになるなら、最初に録音して、事務長の名札をつけた大きなぬいぐるみの中に再生機械を入れ、視察に来た方の前に置けばよかった。と、妄想することになるとは、当初は思いもしませんでした。二番目は全国各地の色々な団体やマスコミの方達の訪問でした。官公庁からの連絡のない赤い日に休もうと思っていると、「この日しか参加者全員の休みが合わない」「え? 祝日ですけど休むんですか?」「せっかく来たのに」なんて言われたこともあったなぁ。異世界の暦は、どうやら別だと思われていたようです。医療機関だからなのかもしれませんが、自分達は休みでも、異世界の人間は働いている。突然訪ねても絶対に断られないと、外の世界では思われていたようです。異世界に関心を持っていただけることは大変ありがたく、現地で聞いた話や感じたことを、また誰かに伝えて欲しいとお願いしていたのですが、「異世界ツアーに参加した」だけで終わってしまう人達も多かったのです。

 少しでも異世界の苦境が伝わるならと、伝えることを諦めない日々を過ごしてきた私達が願うこと、それは災害の時に、視察や支援、報道という名で、渦中の人達を疲弊させないで欲しいということです。誤解しないでいただきたいのですが、支援がいらない、来ないでくれ、というわけでは決してありません。ただ、その場所が今どんな状況で、何を必要としているのかを、まず想像して欲しいのです。「せっかく支援に来たのに、自分のやりたいことをやらせてもらえない。自分の話を聞いてもらえない」と、不満を持つ方もいるかもしれません。その時は、もしかしたら、今は説明する人員も、時間もない状態かもしれないと想像してください。異世界の人達も、来てくださる人達に心から感謝はしても、自分達の健康や精神状態を損ねてまで対応する必要はないのですよ。

 今日もどこかで、頑張っている異世界の人達が、誰に責められることなく、お休みできているといいなぁ。

たかの・みお 1967年生まれ。佛教大学卒。2008年から医療法人社団養高会・高野病院事務長、2012年から社会福祉法人養高会・特別養護老人ホーム花ぶさ苑施設長を兼務。2016年から医療法人社団養高会理事長。必要とされる地域の医療と福祉を死守すべく日々奮闘。家では双子の母親として子供たちに育てられている。2014年3月に「高野病院奮戦記 がんばってるね!じむちょー」(東京新聞出版部)、2018年1月に絵本「たかのびょういんのでんちゃん」(岩崎書店)を出版。


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