昨年開庁した大熊町役場

原発避難区域 度が過ぎる復興事業

 税金投入「数千億円」に見合わない帰還者数

 本誌12月号に「双葉町復興拠点づくりは税金のムダ遣い 10%程度に過ぎない帰還希望者」という記事を掲載した。今回は「復興拠点」だけでなく、避難解除された地域も含めて、復興事業の是非について検証してみたい。


別表は原発事故に伴う避難指示区域の全体像を整理したもの。

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 当初、避難指示区域は11市町村にまたがり、対象面積は約1150平方㌔、対象人口は約8万4000人だった。ただ、順次、避難指示が解除され、この間の解除済み区域は約810平方㌔、対象人数は約5万8000人。現在も避難指示が続くのは主に帰還困難区域で、対象面積は約339平方㌔、対象人口は約2万5000人となっている(人口は発災時点)。

 避難解除された区域では、戻って住むことが可能になっている。もっとも、住環境的には決していい状況とは言えない。解除済みの区域では、現在も家屋解体や各種環境整備が実施されている。

 一方、帰還困難区域は2017年5月に「改定・福島復興再生特別措置法」が公布・施行され、その中で、同区域の対応が具体的に示された。

 それによると、①帰還困難区域のうち、比較的放射線量が低いところを「特定復興再生拠点区域」として定め、同区域整備のための計画を策定して国に申請する、②その計画が国に認定されれば、除染や廃棄物処理、家屋解体、各種インフラ整備などが全額国費で実施される、③同計画の進捗を見ながら、5年をメドに避難指示を解除し帰還を目指す――とされている。

 これに従い、帰還困難区域を抱える6町村では、特定復興再生拠点区域を設定し、「特定復興再生拠点区域復興再生計画」を策定した。なお、南相馬市では対象人口が少ないこともあり、復興拠点区域を設定していない。

 「特定復興再生拠点区域復興再生計画」は、双葉町が2017年9月、大熊町が同年11月、浪江町が同年12月、富岡町が2018年3月、飯舘村が同年4月、葛尾村が同年5月に、それぞれ国から認定を受けた。以降、同計画に基づき、復興再生拠点区域内の除染や各種環境整備が進められている。

 帰還困難区域は全体で約337平方㌔で、このうち復興拠点区域に指定されたのは約27・47平方㌔(約8%)。JR常磐線の駅周辺は、同線開通に合わせて今年3月末まで、そのほかは2022年から2023年を目安に避難指示が解除される予定で事業が進められている。

 整理すると、解除済み区域では、住民が戻って生活している実態がある一方で、並行して家屋解体や各種環境整備が進められており、帰還困難区域では「復興拠点区域」が設定され、同区域の避難解除を目標に、除染や家屋解体、各種環境整備が進められている――という状況。それが旧・現の避難指示区域の「復興」の現状なのである。

 その詳細について検証していく中で、問題にしなければならないのが財政投資額について。

 まず除染だが、これには約4兆円の費用が投じられた(汚染廃棄物処理費用を含む。中間貯蔵施設整備費用等は含まない)。ただし、これは国直轄と市町村が実施したものの合計額である。

 国直轄除染は避難指示区域(帰還困難区域を除く)が対象で、環境省が除染を担った。市町村実施は、避難指示区域以外で「汚染状況重点調査地域」に指定された市町村が実施したもの。避難指示区域以外の浜通りや中通りなどの市町村で実施された除染がこれに当たる。県内のほとんどの市町村が「汚染状況重点調査地域」に指定されたほか、県外でも指定されたところがある。

 これらすべての除染費用が約4兆円で、環境省環境再生・資源循環局によると「国直轄と市町村実施の比率はほぼ半々」とのことだから、避難指示区域の除染費用は約2兆円ということになる。なお、これには帰還困難区域(復興拠点区域)の除染費用は含まれていない。

 原発事故直後、避難指示区域の関係者が「避難指示区域に設定されたのは約3万世帯で、1世帯1億円を払えば3兆円で済んだ」との見解を示していた。

 「1世帯1億円」が妥当かどうかはともかく、前述した避難指示区域の除染費用2兆円に、避難指示区域内の各種環境整備費用、中間貯蔵施設の用地取得・借り上げ費用、いま実施中の復興拠点区域(帰還困難区域)の除染費用などを加えれば、3兆円程度になるのは確実で、金額的にはそういった対応が可能だった。

 事故当初は、多くの住民が「戻りたい」との考えだったが、9年近くが経ったいまからすると、「除染をしなくてもいいから、そういった対応をしてほしかった」という人の方が多いのではないか。

除染費用の仕組み

 もっとも、除染費用は、法律上は国費負担(税金)ではない。

 放射性物質汚染対処特措法(平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法)では次のように規定されている。

 《事故由来放射性物質による環境の汚染に対処するためこの法律に基づき講ぜられる措置は、関係原子力事業者が賠償する責めに任ずべき損害に係るものとして、当該関係原子力事業者の負担の下に実施されるものとする》(44条)、《関係原子力事業者は、前項の措置に要する費用について請求又は求償があったときは、速やかに支払うよう努めなければならない》(44条2項)

 当然、ここで言う「関係原子力事業者」は東電を指し、「東電の負担で実施」、「東電は求償があったら速やかに支払う」と明記されているのだ。

 別図は除染費用のイメージ。

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 同特措法に基づき、環境省が東電に除染費用を請求(求償)する(イメージ①)わけだが、その資金は、国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構に国債を交付(同②)し、支援機構はそこから東電に資金支援する(同③)。これを元手に東電は環境省に除染費用を支払う(同④)――というシステム。

 原発賠償についても同様の仕組みになっており、イメージ上の「環境省」のところが「被害者」(賠償を受ける個人や企業)になる。

 返済は、支援機構が東電をはじめとする原子力事業者から毎年「負担金」を徴収(同⑤)しており、それを国に返す(同⑥)ほか、支援機構は東電の株式を所有(今回の原発事故後に発行されたものを取得)しており、いずれはそれを売却し、それで得た利益(同⑤)を国への返済(国庫納付)に充てる(同⑥)。

 ただ、国は国債交付による利息分の負担は求めない方針で、東電の株価の推移によって全額回収までの期間に開きが生じるが、数十年かかるのは間違いない。その場合の利息分は2000億円程度になると推測されている。少なくとも、その分は国庫負担(税金)になる。

国費で行う帰還困難区域の除染

 このほか、帰還困難区域の除染は東電に請求しないことも決まっている。2016年12月に閣議決定された「福島復興指針」には次のようにある。

   ×  ×  ×  ×

 ・平成23年12月に警戒区域と計画的避難区域の見直しを行った際、避難指示解除準備区域や居住制限区域は、住民の帰還を目指すことを目標として設定されたのに対し、帰還困難区域は、「将来にわたって居住を制限することを原則とした区域」として設定された。

 ・こうした政府方針や、それに基づき原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針などを踏まえ、東京電力は帰還困難区域の全域・全住民に対して、当該区域での居住が長期にわたってできなくなることを前提として、賠償を既に実施してきている。

 ・こうした中、本(※2016)年8月、当該区域内で放射線量が低下していることや、帰還を希望される住民の強い思いを背景とする地元からの要望、与党からの提言を踏まえて、政府は今まで示してきた方針から前に踏み出す形で、新たに住民の居住を目指す特定復興拠点を整備する方針を示した。

 ・特定復興拠点の整備は、こうした国の新たな政策的決定を踏まえ、復興のステージに応じた新たなまちづくりとして実施するものであるため、東京電力に求償せずに国の負担において行うものとする。

   ×  ×  ×  ×

 政府が帰還困難区域の扱いについて方針転換したこと、帰還困難区域の復興拠点区域の整備は「まちづくりの一環」として実施すること――等々から、帰還困難区域の除染費用は東電に求めないというのだ。除染を含む復興拠点区域の整備費用は、3000億円から5000億円と見込まれている。

 先の利息分と合わせると、国庫支出は5000億円から7000億円になる計算。

 そのほか、各町の予算もかなり膨れ上がっており、そこにも国庫支出がある。主要4町の原発事故前と直近3年の当初予算額を別表にまとめた。それを見ると、各町の予算額は原発事故前の3倍から5倍になっている。言うまでもなく「福島再生加速化交付金」や「震災復興特別交付税」など、復興関連予算があるためだ。

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予算の大半は〝場所〟の復興に使用

 問題はその使い道だが、多くは〝場所〟の復興に投じられている。

 例えば、双葉町の今年度の主な事業は「中野地区復興産業拠点整備事業」(約29億円)、「常磐自動車道追加インターチェンジ整備事業」(約20億円)、「双葉駅西地区住宅団地等整備事業」(約15億円)、「双葉駅自由通路等整備事業」(約15億円)、「産業交流センター建築工事」(約7億円)など。

 浪江町であれば「産業団地整備事業(北・南・棚塩)」(約49億円)、「ため池等の放射性物質対策事業」(約37億円)、「木材製造拠点整備事業」(約33億円)、「道路整備事業」(約14億円)、「交流・情報発信拠点整備事業」(約11億円)、「請戸住宅団地整備事業」(約7億円)、「町内防犯体制強化事業」(約7億円)、「営農再開支援事業」(約5億円)など。

 問題はこれだけの費用を投じて、どれだけの人が恩恵を受けるかだ。住民登録者・帰還者と、復興庁・県・町が定期的に実施している意向調査(帰還意向)の結果をそれぞれ別表にまとめた。

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 大熊町は全体の約96%が避難指示継続中であるほか、一部地域で実施された解除自体も昨年4月でそれほど時間が経っていないため、帰還者数は少ない。

 一方、富岡町、浪江町は帰還困難区域の割合(人口ベース)は15%から30%程度で、70%から80%は解除済み区域に当たり、避難指示解除から3年近くが経つが、帰還率は富岡町が9・2%、浪江町が6・8%にとどまっている。

 意向調査を見ても「戻らない」が半数からそれ以上に達しており、「すでに戻っている」「戻りたい」は10%から15%程度に過ぎない。

 しかも、調査回答者は40%から50%程度にとどまる。これまでの本誌取材では、未回答者は「自分は戻らないことを決めたから意向調査に回答する意味を感じない」といった考えの人が多いことが分かっている。すなわち、未回答者の多くは「戻らない人」に当たる可能性が高く、そう考えると戻らない割合はさらに増えることになる。

 莫大な費用(税金)を投じて〝場所〟を復興させても、その恩恵を受ける人はわずかに過ぎない、ということがお分かりいただけよう。

廃炉作業員のための「復興」

 ある研究者は次のように話す。

 「いまの『復興』はハード中心で、これは戻った人、戻りたい人のためのもの。県外にいる人(戻らない人)は地域が復興しても恩恵はありません。県外避難者への対応といえば、相談センター・サポートセンターのようなものがあるくらい。そういう意味では、(被災事業所を支援する)官民合同チームの世帯版(事業者向けではなく個人版)が必要だと思います。もう1つは、各自治体の復興計画に避難者(戻らない人)の意見が反映されてないように感じます。それも問題だと思います」

 避難生活の長期化に伴い、復興計画が策定された時期と、実際に避難解除や復興事業が実施された時期では、時間差が生じた。その間に住民が心変わりした、というケースも多々もあろう。そのため、現在行われている復興事業と住民のニーズに齟齬が生じてしまった。その結果、戻った人、戻りたい人だけが恩恵を受けるハード中心の「復興」になってしまっていることが課題として挙げられる、というのがこの研究者の見解だ。

 一方で、別の研究者は次のように話す。

 「いま進められている『復興』は住民(住民登録者)のためというより、廃炉関連等で働く人のためのものになっています。それが『復興』と言えるのでしょうか」

 確かに、そういう側面は強い。例えば、大熊町には東電の寮があり、実際の町内居住者は725人に上るという。これは、町が推計で発表している数字で、前述の一覧で示したように、住民登録がある人の町内居住者は129人だから、そのほかに600人近くが同町に住んでいる計算になる。

東京電力寮(大熊町)

東電の社員寮(大熊町)

 つまりは「復興」と称して外部から人を呼び込むための「新たなまちづくり」が行われているということだが、それよりも町外にいる住民の「生活再建」への支援こそが当該自治体(行政)の役割ではないかというのが、この研究者の見解である。

 もう1つは、廃炉作業はこれから何十年と続き、その過程で事故やミスが起こらない保証はないほか、放射線量が高いところに、まちをつくる意味があるのか、といった問題も当然ある。この点については、本誌前号の「双葉町復興拠点づくりは税金のムダ遣い」という記事でも指摘した通り。

最低限の環境が整えば十分

 一方で、これら自治体の場合は、まちを破壊した加害者が明確になっている。とするならば、まちを元どおりにするのは加害者である東電の責任だが、なぜかそのために税金が投じられている。国にも責任の一端があり、救済義務はあるものの、その辺があいまいにされていることも問題だ。当然、加害者責任で対応するとなれば、「現状復帰」が大原則で、現在行われているような過剰な環境整備はなじまない。

 対象地域の住民の中には、こんなことを語る人もいた。

 「国か県に、いったん町を預かってもらうような形を取り、数十年後、放射線量などの問題がなくなってから、町を再興すべきだと思う。もちろん、一時的に町がなくなるのは切ないが、いまの状況ではやむを得ないと思います」

 そういった大胆な発想も必要だったように思う。

 一方で、対象地域の住民の中には「どうしても帰りたい」という人が一定数おり、その意思は尊重されるべきだ。今回の原発事故で、避難指示区域の住民は何の過失もない完全なる被害者だから、元の住環境に戻してほしいと願うのも当然のこと。

 本誌がこの間、取材した人(とりわけ年配の方)の中には「元の住まいに戻ったら、生活する中で不便が生じるのは間違いない。それでも自分の生まれ育ったところで最期を迎えたい」と語る人も少なくない。そうした思いを叶えられるようにするためには、ある程度、自由に行き来できる環境も必要だろう。

 結論を言うと、そうした人たち、あるいはそこで生活しないとしても「たまには生まれ育ったところに立ち寄りたい」といった人たちのための必要最低限の環境が整えば十分だということ。

 ここで述べてきたように、除染・賠償費用の〝立て替え〟に伴う利息分、復興拠点区域の整備費用、そのほか各自治体が行っている各種事業を含めるとその費用は数千億円に上り、それによって恩恵を受ける人数を考えると、それだけの税金を投入することが妥当とは到底思えない。

 そもそも、各自治体がそれぞれに何億、何十億円をかけて、商業施設や交流施設などを整備するのは過剰投資もいいところ。前述のようなニーズに対応できるように、例えば浪江町であれば南相馬市にちょっとした拠点があり、そこから浪江町に入る、あるいは浪江町で最期を迎えたい人は生活インフラで南相馬市に依存できるような環境を整える、双葉郡南側もまた然り、といった広域的な視点で必要最低限の環境を整えるのが現実的だろう。


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