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【高野病院】異世界放浪記③

 みなさんこんにちは。私たちが異世界に来てから5年目の春、熊本で大きな地震がありました。その数カ月後には、熊本の医療機関から「補助金はどれくらい経ってから支給されましたか」、「申請はどのようにすればよいのか」等々お電話をいただき、みなさん初めての異世界で大変戸惑っているのを感じました。質問にお答えしながら、私たちがここに来た頃のことを思い出したのです。

 ある日空の上からスルスルと糸電話が下りてきたので、耳にあててみると、「じむちょー、高野病院は潰れちゃだめですよ~。高野病院がもしなくなってしまったら、次に災害があった時に、どうせ頑張っても潰れちゃうんだったら頑張っても無駄だと、後に続いて頑張る医療機関がなくなっちゃうんですよー。だから高野病院はその場所でずっと潰れちゃだめなんですよー」と聞こえてきたのです。さらに「高野病院のような地域の病院が日頃行っている地域医療は、災害の時の災害医療につながるんですよー。だから絶対になくなってはだめですよー」と。どうやら糸電話は、災害医療の神様からだったようです。あまりにも軽く言うので、それなら神様の力で金塊でも出してくださいよぉ~と言おうとしたら糸がぷつりと切れました。熊本の、まったく知らない医療機関からの電話で、あの時の神様の言葉がよみがえりました。実は異世界に飛ばされて2年後、それまでの出来事をまとめた本「高野病院奮戦記」を、原子力発電所の立地地域にある、当院と同じ規模の154の民間病院に贈らせていただきました。異世界では、平時では想像もつかないことや理不尽なことがおきるので、少しでもお役に立てればという気持ちでした。理不尽と言えば、人手が足りなく、職員の休日出勤や時間外費用が多くなり、その費用を東電が負担すると言うので相談したら、「就業規則のような、根拠となる前提資料が必要だ」と言われたのですよ。つまり原発立地地域の医療機関は、就業規則に「原子力発電所の事故がおきた場合、休日出勤と時間外の手当を別途支払う」と事前に記載しておくようにと。いやいやそんなのあり得ないべと思いましたが、東電法務室の弁護士さんが、当然とばかりに返答していましたから、異世界ルール恐るべしです。その後、2つの病院からお返事を頂戴しましたが、当時送付していなかった、熊本の阿蘇にある病院が、熊本地震後に、その本を参考に頑張ったと後日お知らせいただきました。そのご縁で3カ月間、当院の看護師を阿蘇の病院へ派遣したのです。

 とにかく人手が足りない! どんなことをしてでも職員を集めるしかない! そんな先が見えない日々の中で、私が心に強く誓ったことがありました。それは、高野病院に数年間スタッフを派遣してくださった中通りの病院のように、双葉郡の医療機関が再開した時には、必ずお手伝いをする! ということでした。その誓いを心の支えに、各地を放浪し、資格職とみればナンパをしまくっていた毎日でした。しかしその心の支えは、双葉郡内の2つの病院が解体されたことで失われてしまいました。病院の解体工事が行われているすぐ近くで、新しい公的の医療機関の建設が進んでいく様を目の当たりにして、視界が滲みました。阿蘇への派遣は、私をずっと支えてきた誓いを、別の土地で叶えることになったのです。二つ返事で阿蘇へ旅立った職員と、受け入れてくださった病院には感謝しかありませんでした。神様からの糸電話の通り、先を行く私達は、まだまだ頑張らなくちゃと思った、異世界交流のお話でした。

 たかの・みお 1967年生まれ。佛教大学卒。2008年から医療法人社団養高会・高野病院事務長、2012年から社会福祉法人養高会・特別養護老人ホーム花ぶさ苑施設長を兼務。2016年から医療法人社団養高会理事長。必要とされる地域の医療と福祉を死守すべく日々奮闘。家では双子の母親として子供たちに育てられている。2014年3月に「高野病院奮戦記 がんばってるね!じむちょー」(東京新聞出版部)、2018年1月に絵本「たかのびょういんのでんちゃん」(岩崎書店)を出版。



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