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【闇部活】徹底されていない福島市部活動改革

 「休養日無視」の中学校に不公平の声


 教員の働き方改革と併せて、部活動の練習時間に制限を設ける「部活動改革」が全国的に進められており、国はガイドラインを設けて徹底化を図っている。県内の多くの学校でも見直しが進められているが、ルールの順守度合は学校や部活動によってバラつきがあり、その対応に不満を抱く保護者も少なくないようだ。福島市内から届いた投書を基に問題を考えてみたい。

 深刻な過労死事件が起きたのを機に社会全体で働き方改革が進められる中、時間外勤務が多い学校教員の働き方の見直しも行われている。とりわけ問題視されているのが、部活動の在り方だ。

 部活動は当然ながら授業が終わった後に行われるので、顧問を務める教員の終業時間は夜遅くなりがち。さらに大会前や長期休暇中の合宿などで休日出勤も余儀なくされる。一方の生徒も部活動にのめり込むあまり学習に集中できなかったり、過度な練習によりけがをするといった弊害が指摘されている。

 そのため、国は抜本的対策に乗り出し、中学・高校における部活動のルールとして、昨年3月にスポーツ庁が「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」、同年12月には文化庁が「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定した。

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 例えば活動日・活動時間に関しては、中学校の場合、平日週1日、土日いずれかを休養日として、練習時間の上限を平日2時間、休日3時間と定めている。さらには部活動指導員を配置し、教員の負担軽減にも努める。

 スポーツ庁、文化庁では、両ガイドラインを基に都道府県や市町村教育委員会などに方針を策定するよう求めている。そのうえで、学校単位でも毎年方針を定めて、部活動ごとに活動計画や活動実績を作成・公表し、保護者と共有する仕組みを構築しようとしている。

 県でも部活動に関する方針を定めたほか、昨年2月に策定された「教員多忙化解消アクションプラン」でも「部活動の在り方の見直し」を掲げ、休養日や練習時間の上限を明確に定めている。だが、実際にはまだまだ徹底されていないようで、本誌編集部には福島市の中学校においてそのことを問題視する投書が寄せられた。

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 《(前略)中学校によっては、平日の休みは無し、土日も6時間の練習と守られていません。特に運動部は、ルールがあるはずなのに、肝心の練習日はルールを無視しているのが現状。それでは、強いのが当たり前。いつまでも勝利至上主義。とりあえず、一中、二中、三中、四中あたりを調査するとわかります》

 全国的に部活動改革が進む中、同市内の中学校の中にはルールを一切守らず、ひたすら練習させて大会で結果を残そうとしているところがあり不公平だ、と訴えているわけ。消印は6月9日付、福島中央郵便局。おそらく差出人は同市内の中学校に通う子どもの保護者だろう。

 福島市教委に問い合わせたところ、担当者が「具体的な学校名や部活動名を明かした投書であれば調査できますが、この内容では調査しようがありません。昨年7月、県教委が『運動部活動の在り方に関する方針』を策定し、それに基づき学校ごとに方針を定めるよう、校長会などで周知徹底しています。ただ、このような声が上がってきたことは重く受け止め、校長会などで問題提起させていただき、改善に努めていきたいと思います」と説明した。

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 もっとも、よくよく話を聞いてみると、福島市教委にも類似した内容の投書が送られていたという。差出人が同一人物かどうかは不明だが、不満を抱いている保護者は意外に多いのかもしれない。

 投書に記されていた福島第一、第二、第三、第四中学校に確認したところ、各校の教頭が次のように回答した。

 「県の方針に従いルールを順守しており、各部活の活動計画を各顧問が作成して、学内の共有サーバーで管理しています。部活動の主任(主に体育教員)と管理職(校長、教頭)が内容を確認し、管理を行っています」(福島一中教頭)

 「ルールは順守していますし、そもそも本校は他校と比べ生徒数も少なく(224人)、特に際立って強い部活もないので、過剰に指導するということはあり得ません。熱中症が取りざたされたときは、逆に練習時間を短縮したくらいです」(福島二中教頭)

 「ルールは順守しています。私は4月から本校に赴任しましたが、福島市は部活動の事後報告書を提出させるなど、他地区より徹底しているように感じます。ただ、他校では部活動を、ルールが適用されない『スポーツ少年団』という形にして休養日に練習している事例もあるようなので、まだまだ課題はあるかもしれません」(福島三中教頭)

 「本校校長は県校長会会長を務めており、県が示したルールを率先して周知していく立場です。ただ、そのような投書が来るということは、保護者と顧問の間でコミュニケーション不足があり、認識の相違があるのではないでしょうか」(福島四中教頭)

 要するに、4校ともルールを順守していると主張しているわけ。

 もっとも、各校に実際の運用状況を確認したところ、ルールの抜け道が複数あるように感じられた。

ルールの抜け道

 例えば、顧問が作成した年間活動計画・月間計画は生徒と保護者に共有され、変更がある場合はその都度保護者に知らせている。ただ、休養日や練習時間が守られているかどうかのチェックはその都度行われておらず、基本的に顧問任せとなっているようだ。顧問が虚偽の報告をしていた場合は確認しようがない。

 前出「教員多忙化解消アクションプラン」の目的は「教員が自ら学び、児童生徒と向き合う時間を確保するため、長時間勤務を改善します。それにより、学校のチーム力や教員の指導力を最大化し、豊かな教育環境の形成を目指します」とされている。しかし、顧問の意識が低ければ不正もあり得る。そうした点を踏まえ、部活動ルール違反校は大会に参加できないペナルティーを科すなどの仕組みを設けるべきではないか。

 また、福島三中教頭が指摘していた通り、スポーツ少年団など学校外での活動という形で練習する抜け道もあるようだ。いわば看板の掛け替えで、平日の夜間や土日の活動に関しては、保護者やOBが主催する任意の活動として練習を行うという。顧問が指導に関わることもあれば、ほとんど関わらないこともあるようだ。

 あるいは、地域住民が学校施設を借りてスポーツに取り組むのと同じように、社会教育(学校以外で行政がかかわる教育活動)の一環として活動するという方法もある。顧問や保護者が一人の住民として学校施設を借りてスポーツするのであれば、責任を問われることはない。

 にわかに信じがたいが、こうしたケースは全国で報告されており、複数の保護者によると、実際に県内でも行われているようだ。少しでも練習量を増やすため、準備や後片付け、ミーティングの時間を「活動時間外」としてみなす裏ワザも取り入れられているという。

 投書の指摘がどこまで正しいか分からないが、おそらく部活動の現場ではこのような抜け道を使っている学校がいくつもあり、保護者にはそうした情報が入ってくるのだろう。

 教員の多忙化解消のために作られた部活動ルールなのに、それを自ら破って活動している教員がいるというのも本末転倒な話だが、裏を返せば、それだけ部活動の問題は解決が難しいということ。部活動顧問にやりがいを感じている教員は多く、部活動を切り口に担任クラスの生徒指導を円滑に行っているケースも多く聞かれる。

 ただ、いずれにしても、練習量などが不公平な状況になるのは避けるべきであり、部活動ルールが徹底されるまで、市教委や学校は厳しくチェックすべきだ。

 同プランでは、「パソコン入力等による出退勤時間の管理」により、教員の多忙化解消につなげる案が記されていたが、こうした仕組みを部活動の時間管理にも活用してはどうか。一般企業などで積極的に行われている定時消灯や勤怠管理システム導入を進め、児童や保護者に可視化することで信頼関係も築きやすくなるはずだし、短時間での練習により集中力が身に付き、練習効率も上がるはずだ。

ニーズの多様化 

そもそも、そこまで部活動にのめり込むこと自体がナンセンスだ。

 例えば、サッカーは高校の部活動のほかに、クラブチームからプロ選手になる仕組みがある程度確立しており、全国の部活動チーム・クラブチームの頂点を決める「高円宮杯」というリーグ戦まである。公立小・中学校には基本的に学区が存在しており、特に本県においては〝部活動が強い学校〟を選べる選択肢はないに等しい。そうした中で、部活動にこだわるのは無意味だ。

 それに、生徒のニーズは多様であり、競技志向の生徒、一定のペースでスポーツに親しみたい生徒、暇な放課後を有意義に過ごしたい生徒、信頼できる友達を作りたい生徒などさまざまだ。社会人がジムなどに通う際には熟練度や競技意識によって当然のようにコースが定められているのに、部活動においてはその選択肢がなく、顧問任せになっている。この機会にそうした仕組みも考え直すべきだ。

 「俺たちの時代は、水も飲まずにひたすら練習したからこそ根性や協調性が培われた」、「甘やかしたりするから腑抜けた子どもができ、すぐに会社を辞める若者が出てくるようになった」――かつてはこんな声もよく聞かれたが、部活動を根性論で語れる時代は終わった。

 前出「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」でも、「運動とは過負荷(オーバーロード)の原則に基づき適度な時間のトレーニングを行い、その後適切な休養と栄養を補給した状態で次のトレーニングを行うのがもっとも効果的である」と推奨している。

 また、トレーニングの5原則として①全面性の原則(様々な体力要素をバランスよく行う)、②意識性の原則(自らの意思で行っていることを自覚すること)、③漸進性の原則(体力の向上に従って、負荷も徐々に上げていく)、④個別性の原則(体力などの個人差に応じて負荷をかける)、⑤反復性の原則(繰り返し行うことで効果が表れる)――が知られており、合理的でかつ効率的・効果的な指導が求められているので、教員も常に学び続ける必要がある。

 今夏の高校野球岩手県大会において、大船渡高校・佐々木朗希(ろうき)投手の決勝登板回避が日本中で議論を巻き起こした。球数制限導入など、高校野球の在り方が問われる事態へと発展し、元プロ野球選手の張本勲氏と米大リーグカブス・ダルビッシュ有投手との舌戦も繰り広げられた。高校スポーツ・部活動ルールが大きく変わりつつある中で、本県の学校においてもその対応が問われることになる。

文化部の方がエグい⁉

 運動部ばかり取り沙汰されているが、実は文化部の休養日無視や長時間活動も問題視されている。

 2018(平成30)年10月14日付の福島民友によると、文化部活動が盛んな中学校・高校を対象にした文化庁の抽出調査で、練習が長時間に及んでいることが分かった。

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写真はイメージ

 目立った活動実績がある国公私立の中学・高校を抽出し同年8~9月にアンケートを実施したところ、学校が休みの土曜日に活動している部は全体の約半数だった。「中高生の土曜の平均活動時間が5時間以上の割合」は吹奏楽部で48・1%、演劇部で15・3%、美術・工芸部で9・7%、合唱部で5・9%だった。特に吹奏楽部の割合の高さが目立ち、コンクールに向けた準備などで練習時間が多くなるのが理由とみられる。

 アンケートはガイドラインが策定される前に実施されたもので、現在は改善されていることを願うが、ガイドラインの策定が運動部より遅れていることもあり、顧問の意識に差があるようだ。

 屋内の運動部であれば、部活ごとに体育館を交代で使用する場合が多いので練習時間に限りがあるし、屋外の運動部も、校庭の広さによっては同様に練習に制限がある。一方で吹奏楽部などは、教室(音楽室)があれば練習が可能なため、練習時間に制限がない場合が多い。そのため、文化部は運動部よりもチェック機能が働かない危険性がある。

 音楽もスポーツと同様、「1日休むと取り戻すのに3倍かかる」という繊細な世界だ。科学の進歩で効率的な練習法が日々進化しているスポーツより、いかに時間をかけて練習するかが重要視される音楽の方がむしろ問題を抱えているのかもしれない。運動部同様、こちらも生徒に合わせた「生徒ファースト」の指導を心がけることが重要ではないか。

 福島県は、全国学力テスト中学生正答率(2018年)都道府県別35位、18歳人口1000人あたり東大合格者数(2017年)都道府県別43位で、教育に関するデータは軒並み下位に低迷している。本県は部活動参加率が全国トップクラスで、一部の教員からはそのことが学力向上を妨げているという指摘も出ている。もちろん、仲間との連帯感や精神力の向上など部活動で得られるものは多いが、部活動にのめり込んでバランスを崩している状況は改善しなければならない。そういう意味では、部活動の問題は、福島県の教育実態を映し出しているとも言える。

 これを機に、福島市のみならず、県内各市町村の学校で部活動の在り方を考える必要がある。


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