大学進学_福島大学2017-7P40のコピー

【大学受験】戦略に欠ける県立高校大学進学指導

先進事例に学び環境整備に努めよ


県内35高校大学進学一覧 


 本誌7月号で、県内主要高校を対象に大学進学に関するアンケートを実施し、その結果を分野ごとのランキングにして紹介した。本稿では、各校からどの大学に進学したのか一覧表で紹介するとともに、今春入試の振り返りや本県が抱える教育の課題について論じていきたい。


 アンケートは6月上旬から下旬にかけて、県内の全日制高校・中高一貫校のうち、今春卒業生が主要大学に合格した高校の進路指導担当者に調査票を送付。7月中旬までに35校から回答をいただいた。各校の担当者には忙しい時期にご協力いただいたことを御礼申し上げたい。

 アンケートでは各校の進路状況を回答してもらうとともに、今春の入試傾向、大学入試改革への対応、教員に求められることなど設問を設け、自由に回答してもらった(自由回答は匿名が条件)。

 通常は大学合格者数が紹介されることが多いが、本誌では各高校の「進路実現力」を比較するため「大学進学者」数に注目して調査している。なお、一般入試、推薦入試(学業成績や課外活動で一定以上の実績を残し、校長の推薦を受けて書類審査や小論文などにより選抜される試験)、AO入試(小論文、面接などが課され、大学が求める学生像に沿って評価される入試)は問わない。

 各校の主な進学大学に関しては、156頁からの表①(2019年度入試国公立大進学者一覧)、158頁からの表②(2019年度入試私大進学者一覧)にまとめた。

 周知の通り、国公立の大学入試は、主に基礎力を問うマークシート式の「大学入試センター試験」と、各大学が独自の記述問題を出す「二次試験」による二段階選抜で行われる。

 今年1月のセンター試験の7科目平均点は主要科目の易化により、文系、理系とも大幅にアップし、ここ数年で最高点となった。

 ただ、そうした中でも、生徒たちは挑戦しようとせず確実に合格できそうな大学を選択するなど、安定志向が目立った。その背景にあるのが私大の定員厳格化の影響だ。

 2016年度から定員規模の大きい首都圏の私大で、地方創生などを目的に定員厳格化が図られている。定員超過した大学は私学助成金が不交付になったり、学部新設が認められなくなるため、各大学とも合格判定をシビアにして入学者数を抑えようとした。その結果、早慶・GMARCHを中心とした私大の難易度が一気に上昇したのだ。

 今年はその余波で1ランク下の中堅私大や地方の国公立大まで倍率が上昇した。

 「国公立大の〝すべり止め〟として受験する人が多い東北学院大も例外ではなく、前期日程でかなり合格者を絞っていた。『まさかここで落ちるとは……』と動揺した受験生も多かったと思います。逆に後期試験では合格者が多かったので、入学辞退者が想定していた以上に多かったのでしょう」(宮城県の学習塾関係者)

 難関国公立大に挑戦できる実力を持っているのに、リスクを避けてGMARCHレベルの大学への指定校推薦を選び、早々と受験勉強を終える生徒も見られたようだ。

 各校の進路指導担当者によるアンケート回答にもその影響の大きさが記されていた。

 「首都圏の中堅私大だけでなく、その次のランクの私大でさえ、一般入試の合格は厳しかった。私大の定員厳格化の影響は地方の私大にも及んでいる。また、推薦・AOで受験する生徒が増えたが、特に首都圏の私大(短大含む)はいままでであれば合格できた大学が不合格となった例が数件あった」(中通り)

 より安全圏の大学を……と考えた全国の受験生が目を付けたのが東北地方の大学だった。

 大手予備校調査によると、県外から東北地方内の大学への出願数は2年前約6100人、昨年約6300人だったのが今春約6700人に急増した。最も増加幅が大きかったのが福島大で、福島大人間発達文化学類は昨年の倍率3・5倍から4・2倍へと上昇したという。

 では、東北地方の受験生はどうしたかというと、競争激化を警戒して同地方内の大学への出願を控えたため、前年より200人以上マイナスとなった。同様の理由で東北大への入学者数も減っており、思いがけず地元で苦戦することになった格好。

 なかなか厳しい入試だったようだが、県内の進学校ではさまざまな対策を講じて、乗り切ったようだ。

 例えば、東大1人、東北大2人、北海道大医学部1人という進学実績を出した白河では、綿密な三者面談、難関大合格に向けた講演会、学習対策面談、個別添削など、プロジェクトチームを組んで組織的に実施。その熱が生徒たちにも広まり、生徒たちが教え合う光景も見られたという。

 このように生徒同士で教え合う手法は首都圏の進学校や大手予備校の東大クラスなどで採用されており、知識の定着強化や弱点の確認、勉強法の改善に大きな効果があるとされる。学校がバックアップ体制を充実させ、生徒が自発的に学ぶ雰囲気を生み出したことで好成績を残せたと言えよう。

多すぎる進学校の定員

 同校以外の進学校も保護者と密に連絡を取り合いながら進学対策を講じていたようだが、県外の進学校と比べると、物足りない感は否めない。

 表①、表②に、『週刊朝日』6月21日号掲載の進学実績表を参考に、今春好調だった東北地方の進学校の結果を併せて掲載した。これを見ると、県内トップクラスの実績である安積ですら、難関大合格率で他校に劣っていることが分かる。

 福島県と他県の進学指導はいったい何が違うのか。

 県内外の学習塾関係者などが指摘するのは、進学校の多すぎる定員だ。本県では少子化が進んでおり、中学卒業者数は2014年から2018年の5年間で約11%減少した。にもかかわらず、県内進学校の定員はさほど変わっていないので、従来では入学できないレベルの生徒も入学できるようになっている、と。

 「学年トップクラスと下位クラスの学力差が大きくなると、授業をする際は下に合わせざるを得なくなる。そうすると、トップクラスの学力は思うように伸びなくなってしまうのです」(県内の学習塾関係者)

 象徴的だったのが、会津地区のトップ進学校である会津が定員割れとなったことだ。

 「会津地区には昨春東大理科三類(医学部)に現役合格者を出した中高一貫の会津学鳳があり、会津とトップ進学校の座を争っています。2校合わせた募集定員は480人。人口減少が進む会津地区の中で供給過剰になっています」(同)

 受験勉強しなくてもトップ進学校に入学できることを知った上位層の生徒は勉強に身が入らなくなる。そのため、会津地区の学習塾はこの夏、生徒数減少に苦しんでいるとか。

 市部の進学校の定員を減らそうとしない一方で、定員割れが続く郡部の県立校の定員は容赦なく減らし、統合再編を進めようとしている。子育て世帯は高校が近くにあって教育が充実している地域に住みたいと考えるだろうから、結果的に郡部の人口減少がさらに加速していくことになる。今春福島や福島南などの高校で定員が減らされたが、今後も継続的に見直していくべきだ。

教員のマネジメント力不足

 本県と他県との差ということで、本誌が注目しているのは、教員によるマネジメント力の差だ。

 進学校の生徒の中には、志望校選びや学習方法などについて相談したくても、先生や友人などには腹を割って話せず、学習塾の講師に聞いてくるケースがあるという。「いまの学力でどこに入れるのか」、「まずは何の勉強をしたらいいのか」という点を親身になって、戦略的な視点でアドバイスできる存在が必要とされているのかもしれない。

 誤解しがちなのは、高校受験は県内共通の試験を受けるので、ひたすら勉強をすれば進学校に入れるが、大学はそうはいかないということ。大学ごとに二次試験があり、教科も傾向も異なる。個別の戦略、指導があってしかるべきなのに、県立の進学校において、そうした対応が徹底されているとは言い難い。 

 「多くの県立校では5教科すべてを勉強させ、国公立大を受験させようとする。だが、理数系が極端に苦手だったり、『東京で人脈を作って将来の仕事に生かしたい』というビジョンがあるなら、いっそ理数系を捨てて私大にチャレンジした方が高いレベルの大学を狙えるかもしれない。要するに、生徒の個性や志望に合わせて、受験をマネジメントすることができていないのです」(県内の学習塾講師)

 中高一貫1期生が東大に推薦合格したいわき秀英の髙木千秋教頭によると、東大に合格した生徒は自ら「東大を推薦入試で受験したい」と伝えてきたため、どういう風に合格を狙うか話し合って対策を講じ、見事目標を実現させた。東北大や県立医大に入った生徒も推薦入試・AO入試を活用したという。

 国立大学協会は現在の推薦入試を「学校推薦型選抜」、AO入試を「総合型選抜」と名称変更し、これらを国立大学全体の入学定員の30%まで拡大する方針を示しており、今後はますます合格者が増えることが予想される。それだけにマネジメントを徹底することが今後はより重要になるのではないか。

 同校は授業スタイルも独特で、中学・高校とも100分授業を取り入れている。

 「50分授業だと、前回の復習をして基礎を教えているうちに、あっという間に時間が来てしまう。100分あるとそこから問題を解かせて、さらに応用問題、受験問題に挑戦させ、その回答についてじっくり解説できる。たとえ途中で分からなくなってもどこでつまずいたか分かりやすいので、先生や友達にも聞きやすい。とは言え、さすがに中学入学直後の生徒は集中力が続かないので、授業中に調べ物をさせるなど、飽きない工夫を凝らしています」(髙木教頭)

 100分授業×4限で夕方5時近くになるため、放課後の補習などは行わず、生徒たちは部活や自習室での学習、学習塾に向かう。

 「一度気持ちをリセットさせるため、極力授業で完結させ、宿題も多く出さないようにしています。それでも首都圏の進学校と比べるとまだまだ負担が大きいようです」(同)

 いわき秀英と同じく、今春東大合格者を出した福島成蹊は、首都圏の中高一貫型進学校に負けないぐらいの圧倒的な学習量が特徴だ(本誌7月号参照)。両校の学校運営は対照的だが、どちらも理想のスタイルを追求した結果と言える。そういう意味では、県立校の進学校は戦略を持たず、どっちつかずの対応に終始しているように感じてしまう。

教員に求められる能力

 「進学実績を伸ばすために教員に求められること」についてアンケートで聞いてみたところ、以下のような回答が返ってきた。

 「求められるのは情熱、指導力、変化への対応力」(中通り)

 「思考力・判断力・表現力を育むための授業改善を実施するには、教育側も努力しなければならない。しっかりとした知識、技能の習得があってこそできる。ただ、自らの興味・関心から学問を深めていくのは本来大学で実践されるべきことであり、高校生への要求があまりにも多くなっているように感じる」(中通り)

 「教科・科目の内容を教えるのに加え、『自ら学んでいける生徒=学びの主体』となれるような生徒を育てるコーチとしての力も求められる。討論をさせたり議論をまとめるファシリテーターとしての力も必要であると考えている」(会津)

 「AI時代において、難関大が育てたいのは①創造的な仕事を楽しむ、②問題解決能力が高い、③リーダーシップを有する、④専門性が高い――といった能力を有している人材であり、そのような能力を身に付けさせていくことを目標に、授業に臨んでいく姿勢が必要」(会津)

 「専門性の高さ(修士程度の人がなるべき)と専門分野について研究し続ける姿勢」(浜通り)

 中には「驚く力、知りたいと思う心、追及する粘り強さ、考える力。これは学校の勉強だけではなく、読書や旅をしたり、音楽や美術に感動したり、多様な人と会うことで養われる。学校教育に期待しすぎるべきでない。学校ができることとできないことを相対化する必要がある」(中通り)というものもあった。

 そうした考えも一理あるが、少なくとも大学進学を目指している生徒のために、教員がやるべきことは、確かな学力を身に付けさせ、希望の進路を実現させることだろう。

 7月号でも触れた通り、大手企業や中央省庁など難関大に入ったからこそ見えて来る〝夢〟もあるはずで、そうした生徒の進路希望に応えるため、難関大進学の可能性を高めてあげるのも教員の使命だ。

 県職員約2万6000人の主な内訳は知事部局約5500人、警察本部約4000人、県教委約1万6000人。教員の人件費には多くの税金が投じられている。県民として、他県と同じぐらいのレベルの教育を提供してほしいと教員に望むのは当然のこと。大学進学実績は義務教育からの積み重ねが反映されるものであり、今後も一つのバロメーターとしてチェックしていく必要がある。

大学入試改革で混乱

 教員の真価が問われるのはこれからだ。現在の高校2年生が受験する2年後の冬からは、大学入試改革が本格的にスタートする。

 最も大きなポイントは、従来の大学入試センター試験に代わり、大学入学共通テストが導入されること。マークシート方式だが、知識の理解の質や思考力、判断力、表現力を問う問題が増え、数学と国語では記述式問題が導入される(数学は初年度に記述式を導入しない方針)。センター試験は平均得点率6割になるように作問されていたが、共通テストでは5割に下げられる見込みだ。

 「得点が下がる分、滑り止めの私大を多く受けるようになり、志望校のランクを下げる人も続出すると予想されます。センター試験の配点が高かった福島大、山形大などの地方国立大は合格ラインが読めなくなりそうです。共通テスト導入後も同じ配点でいくのかまだ分かりませんが、県内からの進学者が非常に多いので、その影響は大きい。今後私大定員厳格化の影響はひと段落しそうですが、不確定要素が多くなった分、いまの高校3年生は浪人を避け、安定志向を求める傾向が強まるでしょうね」(前出・大手予備校関係者)

 さらに、共通テストの英語の問題ではマークシート式の問題に加え、4技能(聞く、読む、話す、書く)を評価するために民間の資格・検定試験も併せて活用する「大学入試英語成績提供システム」が導入される。国公立大ではマークシート式と民間の資格・検定試験、両方で評価する方針を打ち出しており、各学校では対応を迫られている(初年度入試では民間の資格・検定試験の成績を活用しない大学もある)。

 「首都圏の中高一貫校などでは高校3年4月の時点で英検かGETCを受検させ、多くの大学が出願資格とするCFERレベル『A2』を取得した後、本格的な問題演習に入るスケジュールで進めている。ただ、福島県内の多くの生徒は4月と言えば部活動を現役でバリバリやっているころ。いつ受検させるか、学校で受検する場合は機材やインターネット環境がそろっているのか、話し合わなければならない。これからが大変だと思います」(同)

 実際、アンケートの回答には大学入試改革について、「情報が全く入ってこず、情報収集に努めている」、「手続き・登録など不安要素が多い」、「実質受験の前倒しとなり、リスニング力などの英語の学力アップをかなり早めに準備しなければならなくなった」などの回答が寄せられた。

 記述式問題が増えることについては主に進学校から「思考力などが問われる二次対策をやっているので問題ない」、「アクティブラーニング形式の授業や総合学習での探究活動で力を付けてきた」、「1年次から新聞記事を読んで、考えをまとめさせるなどのトレーニングを積ませている」という回答があった。その一方で、「中学生のころから意識して力を付けさせないと対応は難しい」、「記述問題は自己採点と結果が一致しないことが多く、出願の参考になるかどうか不安」と嘆く声も聞かれた。

 大学入試改革では「主体的に学ぶ態度」が重視されていることから、高校での学習や部活動の記録を生徒自身が電子データにまとめる「eポートフォリオ」の導入も各校で進んでいる。だが、これに関しても「高校3年間の活動をしっかり記録できるのか、記録することがあまりない生徒はどうするか、など課題が多い。そもそも大学側がどの程度評価するのかもあまり見えて来ない」といった意見が寄せられた。

 総じて大学入試改革に関してはまだまだ情報不足であり、ふわっとした状態のまま進んでいるようだ。県レベルで早いうちに情報共有・意思統一しておかないと、他県に取り残されてしまうのではないか。

教育充実か負担軽減か

 志望校に合格するためには、基礎学力に加え、思考力、判断力、表現力、英語4技能もバランス良く伸ばさなければならない。そのために学校・教員の役割がこれまで以上に大きくなるわけだが、最後に触れておきたいのが教員の負担軽減の問題だ。

 アンケートで意見を聞いたところ、「負担は軽減されていない」、「アクティブラーニングを取り入れた授業やきめ細かな個人指導を徹底しようとすると、どうしても勤務時間が増えてしまう」、「教科指導の準備に充てるためにも負担軽減は必須」という意見が相次いだ。現場の教員としても「進学実績向上のためいろいろやりたいけど時間が足りない」というジレンマを抱えているようだ。

 こうした問題は個人で解決できる問題ではないので、現在の校務分掌を整理したり、事務職員を増やしたり、部活動指導員に任せるなど、組織的・制度的に見直しをかけ、負担を軽減すべきだ。国でも負担軽減を打ち出しているが、それでも不十分ならば県教委が先頭に立って独自策を始めればいい。

 全国の公立小中学校では学習指導要領改訂に伴う授業時数増加に対応するため、夏休みを短縮する動きがみられる。県立高校でも夏休みを短縮し、平日の授業時間を少なくすれば教員負担を軽減し、授業の準備や研究をする時間的余裕も生まれるのではないか。もちろん、生徒や保護者の同意を取る必要はあるが、アイデア次第でいくらでも負担軽減は可能だし、教育充実と両立できる。

 いずれにしても、学力向上のために必要な対策を現場の教員の声も踏まえて検討し、内堀雅雄知事や鈴木淳一教育長が指示を出して予算を伴う計画を策定すれば、必ず効果が出るはずだ。

 大学入試改革前の最後の入試となる来春、本県勢が他県を上回る好調な実績を残すことに期待したい。


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