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【福島県】コロナ禍でも改まらない虚妄の人事院勧告

申し訳程度の公務員ボーナス引き下げ


 人事院は10月7日、国家公務員一般職の今冬のボーナス(期末・勤勉手当)を0・05カ月分引き下げるよう勧告した。ボーナス引き下げはリーマン・ショックの影響を受けた2010年度以来10年ぶりというが、この引き下げ幅が社会実態を反映させたものとは到底言えない。


 本誌6月号に「許されない公務員ボーナス通常支給」という記事を掲載した。新型コロナウイルス感染拡大による景況悪化で、今夏の民間企業のボーナスは昨夏と比べて大幅な減少になる中、公務員は何事もなかったかのように、ボーナス(期末・勤勉手当)が支給されるのは許されない、と指摘した。

 その中で民間シンクタンクのリポートを紹介した。日本総研が4月10日に発表した「2020夏季賞与の見通し」によると、「今夏の賞与を展望すると、民間企業の1人当たり支給額は前年比▲6・4%%と、リーマン・ショック以来の大幅なマイナスとなる見込み」と予測していた。さらに、みずほ総合研究所が5月25日に発表した「2020夏季ボーナス予測」では、「2020年夏の民間企業の一人当たりボーナスは、前年比▲9・2%とリーマン・ショック後以来の大幅マイナスを見込む。新型コロナウイルス感染拡大による企業収益・雇用環境の急速な悪化が背景」としていた。

 これは全国的な傾向だが、とうほう地域経済研究所(福島市)が6月1日に発表したリポートは県内の実態を分析している。

 同リポートでは、「民間企業では、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的とした休業要請や外出自粛による業績悪化などの影響から、ボーナスの支給月数が減少するだけではなく、ボーナスの支給自体を見送る企業もあるとみられることから、前年比で総支給額が▲16・1%、1人当たり支給額が▲15・5%となり、いずれもリーマン・ショック後における2009年夏季ボーナス支給額の減少率を上回る大幅な減少が予想される。尚、経済情勢の急変によっては、さらに下振れする可能性もある」と指摘していた。

 このほか、県内ではラーメンチェーンの幸楽苑ホールディングスが1997年の上場後初めてとなる、今夏ボーナスを無給としたほか、新型コロナウイルス感染拡大の影響をモロに受けている業界や、中小・零細企業などでは、ボーナスの大幅カット、あるいは支給しない(できない)というところも相当数あった。

 一方で、日本経済新聞(8月6日付)によると、大手企業の今夏ボーナスは前年比2・17%減だったという。以下は同記事より。

 《経団連は(8月)5日、大手企業の2020年夏賞与(ボーナス)の最終集計結果を発表した。回答した153社の妥結額は加重平均で90万1147円と19年夏から2・17%減った。2年連続で前年を下回った。新型コロナウイルス禍による収益の悪化が響いた。

 (中略)業種別で最も下落幅が大きかった鉄鋼は前年比24・8%減の57万1027円となった。(中略)素材産業は7・57%増の紙・パルプを除いて軒並み下落した。化学は6・12%減、非鉄・金属は3・51%減だった。(中略)自動車はほぼ横ばい(0・01%増)の97万8098円だった。非製造業は2・79%減で製造業の1・78%減より落ち込みが大きい。観光関連は特に厳しく、鉄道は9・55%減の82万5747円となった。

 (中略)経団連の集計は外食を含んでいない。ある大手居酒屋チェーンは夏のボーナスを前年比3割減とした。業績連動で賞与を決めており、5年ぶりに前年の水準を割った。政府の緊急事態宣言を受けて直営の全店で臨時休業するなどして売り上げが激減した。

 冬のボーナスはさらに縮小するとの声も出ている。大手企業の約6割は春の時点で前年の業績に基づいて夏の賞与額を決める。コロナの流行が長引いている影響を織り込み切れていない。

 既にJTBは社員約1万3000人に冬のボーナスを支給しない方針を決めた。1989年以降で初の事態となる。日本航空(JAL)の赤坂祐二社長は7月、冬のボーナスについて「未定だが、非常に厳しい」との見方を示した。一般社員向けの夏のボーナスは前年比50%減。現在も国際線の9割を減便しており、キャッシュの流出が続く》

 こうして、新型コロナウイルスの影響を受け、厳しい経済情勢にある中、公務員には通常通りに支給された。本誌は6月号記事で《公務員の給与は「民間準拠」が原則とされるが、県内経済がかなり深刻な影響を受けている中、平時と同じようにボーナスが支給されるというのは理解できないし、許されることではない》、《思えば、東日本大震災・原発事故のときもそうだった。首長判断で、あるいは職員団体などが呼びかけ、自主的にボーナスの一部を返上し、被災地・避難者に寄付する、復旧・復興に充てるといった動きがあってもよさそうなものだが、そうした動きは全く見られなかった》、《いま求められているのは、ボーナスに限らず、議員や公務員の人件費をカットして、予算を捻出し、コロナ問題に立ち向かうことだ》と指摘。特別職や議員に関しては一部カットするところもあったが、全体的にはそうした動きは見られなかった。

 一方、今冬のボーナスについては、民間シンクタンクの予測リポートなどはまだ発表されていない(10月26日時点)が、先に紹介した夏ボーナス前にまとめられたリポートでは「大手企業では、3月以降の情勢悪化の影響が反映されるのは年末賞与となる見込み」(日本総研リポート)、「2020年冬はさらに落ち込むとみられる」(みずほ総合研究所リポート)とされていた。

 日経新聞記事に「大手企業の約6割は春の時点で前年の業績に基づいて夏の賞与額を決める」とあるように、大手企業の場合は、緊急事態宣言前後のマイナス影響が及ぶのは今冬ボーナスになるようだ。さらに同記事では、「JTBは冬のボーナスを支給しない方針を決めた」、「日本航空(JAL)の赤坂祐二社長は冬のボーナスについて『非常に厳しい』との見方を示した」などとあるほか、それ以外の大手企業でも無給・大幅減が予測されるとの報道もあり、今冬のボーナスが厳しい状況になるのは間違いない。

人事院勧告の中身

 これに対し、公務員はどうか。

 冒頭で紹介したように、人事院は10月7日、今冬のボーナス(期末・勤勉手当)を0・05カ月分引き下げるよう、内閣・国会に勧告した。ボーナスの引き下げはリーマン・ショックの影響を受けた2010年度以来10年ぶりという。

 人事院が実施した職種別民間給与実態調査によると、民間のボーナス支給額は4・46カ月分だった。一方、2019年度の国家公務員のボーナスは4・5カ月分だったことから、民間の支給割合との均衡を図るため、今回のボーナスを0・05カ月分引き下げ、年間で4・45カ月分とするよう勧告した。

 人事院勧告は例年8月に実施されてきたが、今年は新型コロナウイルスの影響で調査が遅れ、10月7日にボーナスに関する勧告を先行して行った。今後は通常の給与部分に関する勧告も行うことになる。

 基本的には、地方公務員もこれに倣うことになる。参考までに昨年12月6日付の福島民報から、その前日に支給された昨年の県内8市のボーナスを別表にまとめた。前述の人事院勧告(0・05カ月分引き下げ)に倣うと、これよりは減少することになりそうだが、「0・05カ月分引き下げ」が実態に見合っているとは到底思えない。なお、福島県人事委員会による「職員の給与等に関する報告及び勧告」は10月25日時点ではまだ行われていない。

こここk

 こうした実態乖離が起きるのは、人事院・人事委員会が実施する「給与実態調査」にカラクリがあるから。

 人事院は「公務員給与実態調査」と「民間給与実態調査」を行い、職種、地域、学歴、役職、年齢などを加味して両者を比較し、給与勧告を行う。この勧告は一般職の国家公務員が対象となる。

 都道府県・政令指定都市の実態調査は各自治体の人事委員会が実施する。福島県人事委員会では毎年、県職員と民間の給与実態調査を行っている。民間の調査対象は企業規模50人以上・事業所規模50人以上の県内事業所(母集団事業所)で、昨年は851事業所のうち、層化無作為抽出法によって抽出した187事業所を対象に調査した。それに基づき、知事と県議会に対して「職員の給与等に関する報告・勧告」を行う。

人事院調査の問題点

 ここで問題になるのは、人事院・人事委員会の調査対象が「企業規模50人以上・事業所規模50人以上」とされていること。実は、これを満たすのは国内全事業所のわずか数%しかなく、大部分が調査対象に入っていないのだ。

 加えて、人事院・人事委員会の調査では非正規従業員は含まれない。総務省の労働力調査(今年8月分)によると、全体の約37%が非正規従業員で、かなりの割合になっているが、これらは対象外なのだ。

 そうした事情から、人事院・人事委員会の調査・勧告は、社会実態とかけ離れたものになっている。しかも、調査対象の事業所は公開されていない。これでは、調査結果の妥当性を検証する余地は最初からなく、「優良企業」だけをピックアップしていても外部からは分からない。何らかの〝手心〟を加えていても、暴きようがないのだ。

 詰まるところ、公務員の給与は「民間準拠」ではなく「優良企業準拠」なのである。

 こうした事情から、公務員給与(今回のボーナスに関する勧告)が実態とかけ離れたものになっているわけだが、100歩譲って、いや1万歩譲って平時ならまだしも、今回のような非常時でもそれが続けられるのは到底許されることではない。


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