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ヘドがでるほどの悪事の数々…超大物R&B歌手、R.ケリーだけじゃない、アメリカの性犯罪事件、その闇

2021年9月27日付けAEP通信によると、数十年にわたり性犯罪組織を率いていたとして起訴された米R&B歌手のR・ケリー(R. Kelly)被告(54)の裁判で、ニューヨークの陪審は27日、組織犯罪を含む9件の罪状すべてで有罪評決を言い渡した。量刑の言い渡しは来年2022年5月4日(※)で、最高で終身刑が言い渡される可能性があるという。超大物の裁判になにを思うか、音楽評論家の藤田正さんに聞きました。
※実際に量刑が言い渡されたのは2022年6月29日/文末参照

――「R.ケリーが終身刑になるかもしれない」。(2021 年)9月末、アメリカから送られてきたトップ・ニュースに、こうありました。

藤田 アメリカのエンタテインメント界では、ブリトニー・スピアーズの「成年後見人問題」と並ぶ、話題のニュースでしょう。「終身刑」という言葉まで紙面に躍っているんだから。

――すみませんが、まずは「R.ケリーって誰?」というところから教えてもらえませんか? 私、ブリトニーやマイケル・ジャクソン、ボビー・ブラウンとかは知っているんですけど…。

藤田 (絶句)…そうかぁ。日本では案外…なんだ。セックス・スキャンダルがなければ、彼は文字通り大シンガーですよ。一時代を築いたボビー・ブラウンには悪いけど、R.ケリーの前では格下。でも、輝かしい経歴の裏側には、鬼畜、化け物、極悪な性犯罪者としての顔があった。ずっと前から、女性関係の暗いウワサから始まって、逮捕状が出て、というスキャンダルが断続的に知られていて、それでも彼は芸能活動を続けていけた。大ヒットを連発しながら。アメリカの司法制度のことは知らないけど、黒人音楽のファンとして、R.ケリーってどんどん奇怪な存在になっていった。

――Amazon プライム ビデオほかに『サバイビング・R.ケリー:全米震撼!被害女性たちの告発』(原題『Surviving R.Kelly』 2019 年)というドキュメンタリー・シリーズがありますね。当シリーズは全米で大きな話題になったそうです。これをきっかけに本格的な捜査がはじまり、ようやく逮捕に。裁判でもかなり影響を与えたとも。

藤田 そうだろうねぇ。このドキュメンタリーは凄まじい証言が次から次へと出てくるから、気軽に鑑賞をお勧めすることにぼくはためらいがあります。「3. テープに映された衝撃の事実」あたりで、もう勘弁してよって。第2部もあるけど、ぼくは観ていない。

『サバイビング・R.ケリー』予告編

――女性は特に…あまりにも辛くなるので気をつけて観ていただいたほうがいいですね。ところで、ミュージシャンとしての R.ケリーですが、どんな人だったんですか?

藤田 1967 年、シカゴの生まれです。彼の名前は有名になる前からぼくは知っていて、ロバート・ケリーは今後の大注目だよとニューヨークの DJ から情報をもらっていました。1980 年代後半のブラック・ミュージックは、ラップの大攻勢は当然として、いわゆるボーカルものも新世代勃興の時期だった。当時は「ニュー・ジャック・スウィング」というリズム&サウンド・アレンジが流行ったけど、この代表がテディ・ライリーであり、アイドル・スターのボビー・ブラウン(元ニュー・エディション)たちだった。R.ケリーは彼らに続いたシンガーです。

ボビー・ブラウンはホイットニー(・ヒューストン)と切り離せないけど、スタイルを応用しているだけの人も少なくない中、R.ケリーの曲作りや歌い方には「正統派ブラック・ゴスペル」が溢れている。それが聖なる歌じゃなくてもね。誤解を恐れず言えば、信頼のブランド。それが R.ケリーをスターダムへと導いた陰の土台の部分、秘密だったと思います。

――もう一方の陰の部分が、子どもへの性的虐待。

藤田 そう。R.ケリーが少女好きらしいことは、アリーヤと結婚した時にファンはなんとなく感じ始めてたんじゃないかな。

――彼女、飛行機事故で亡くなったシンガーですよね。

藤田 22 歳の若さだった(2001 年)。今年はちょうど 20 年。アリーヤというシンガーは、1994 年に R.ケリーが全面的にバックアップして順風満帆のスタートを切った。同時に彼女もまた R.ケリーの毒牙にかかった一人だったとも言えます。さぁこれからという時に、なんと R.ケリーと「結婚」させられたんだから。それも 15 歳を 18 歳と偽ってまで。これはアリーヤを妊娠させたと思った R.ケリーが、ヤベェ、と即座に彼女を「妻」にした。あとでバレちゃうんだけどね。

――未成年と性的な関係を結んだことがわかると刑務所行きだから。

藤田 そのとおり。R.ケリーの女性に対する異常極まりない行為は『サバイビング・R.ケリー』に詳しく紹介されているし、今回の連邦裁判所での関係者の証言でも公にされました。そういった数々の証拠、証言の中から見えてくる R.ケリーという犯罪者の姿は、めちゃくちゃな暴行魔、じゃないんだよ。これが恐ろしい。アリーヤ事件にしても、彼女のために 18 歳(成人)のニセ ID を賄賂を使ってまでして取得している。

――莫大なおカネを持っているし、そのおカネの「使い道」を知っている。

藤田 ブラック・コミュニティでは成功者の道を突っ走っている若きヒーロー。そんな男から声をかけられると、この男の性暴力の対象である未成年の少女たち(多くは歌手・ダンサー志望)は、夢見心地になってしまう。そんな彼女たちに卑劣なことをしても、こうすればこう手なずけられる、こう叱り、殴りつければ誰にも口外しなくなる、とか、本当に恐ろしい奴です。

さらには、R.ケリーは自分が社会的にどんな存在であるかを冷静に理解しているし、自分の行為が公になりそうになったら、弁護士、賄賂、脅迫など、どのように対処すべきかをも計算に入れながら行動している。女の子たちは何人も、スタジオやら自宅やらいろんな所に囲われていて、その「飼われ方」は、犬猫以下。でも彼女たちは自らの意志では R.ケリーの呪縛から抜け出せない。まさに性奴隷。R.ケリーは悪魔ですよ。

――女の子の一人が、R.ケリーが撮影していたセックス・テープの1本を盗んで、それが世間に出回った。

藤田 以前、R.ケリーのヤバいコピー動画がアメリカで売られていることは日本にも伝わった。彼はセックス丸出しの歌で有名だったから、その動画はキム・カーダシアンの流出動画なんかと同じなのかなぁなんて想像していたけど、まさか 12 歳の少女にまでヒドいことをして、それを撮影していたなんて。

――何度か逮捕状が出されたようですが。

藤田 例えば 2002 年6月5日、シカゴ警察が子どもへの性的虐待に関する事案 21件で起訴し、逮捕状が出た。でもすぐに高額な保釈金を支払い、その足で、教会へうたいにでかけて平然としている、そんな男です。女性からの訴えの多くは示談で済ませているから、大事件に発展しそうでいながら決め手に欠ける事案が大半だった。

――ゴシップとしては騒がれても、長い間、歌手・作詞作曲家・プロデューサーとしての評価は高まるばかり。

藤田 共演や新曲の依頼は大変な数です。一例だけど 1995 年にリリースされたマイケル・ジャクソンの「ユー・アー・ナット・アローン(You Are Not Alone)」を聞いてみてください。このメロディ・ライン、温かく包み込むような音楽空間は良質なモダン・ゴスペル。R.ケリーは、自分がボロくずのように捨てた女の子をイメージして書いたとも言われているけど、歌そのものは非の打ち所がない名作です。

――自作自唱の「アイ・ビリーブ・アイ・キャン・フライ」(1996 年)は?

藤田 それ、言いますか! 日本では 1997 年に公開されたアニメ映画『スペース・ジャム』のサントラに収録され、全世界でヒットした歌。「クリーンな R.ケリー」を代表する大名作で、「フライ(跳ぶ、飛ぶ)」はもちろん映画の中心であるマイケル・ジョーダンをイメージさせている。この歌はゴスペル教会はもちろん、今や幼稚園みたいな所でも愛唱歌として広く定着しているわけで、R.ケリーはそういう点でも重い罪を犯してしまった。

スペースジャム


――性奴隷の一人だった元妻(アリーヤとは別の元ダンサー)は、世の中には3つのドラッグがある。それは「クラック、ヘロイン、R.ケリー」だと、『サバイビング・R.ケリー』の中で、怒りを込めて語っています。

藤田 もちろん R.ケリーはちゃんと裁きを受けるべき。ただこういう性犯罪は至る所で発生していて、例えば、ネットフリックスの4回シリーズ『ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者』(2020 年)には、アメリカの政治経済の中枢にうごめく悪徳のほどがドキュメントされている。エプスタインは 2019 年に拘置所で首つり自殺を遂げたと発表されたけど、エプスタイン関連のスキャンダルは海を越えてヨーク公アンドリュ―英王子にまで至っている。年端もいかない若い女性、女の子、あるいは男の子は、黒人・白人とか人種に関係なく(一部の)権力者の餌食に今もなっている。

『ジェフリー・エプスタイン:権力と背徳の億万長者』予告編

――#MeToo(Me Too 運動)の始まりである、ハーヴェイ・ワインスタイン(米映画界の大プロデューサー)による女優ほか映画関係者に対する性的暴行の告発も、同じ時期に、アメリカで浮上してきましたよね。

藤田 同じ流れでしょう。人権意識のさらなる高まりです。特に女性ほか弱者の。R.ケリーで言えば、2017 年夏から、彼の作品やライブに対するボイコット運動がアトランタから始まった。「#MuteRKelly」が旗頭ね。これって、BLM 運動(ブラック・ライヴズ・マター運動)とも絶対にリンクしている。「BLM」も、女性が言い出したんだから。このあたりのことは、私の『歌と映像で読み解くブラック・ライヴズ・マター』(シンコーミュージック・エンターテイメント刊)をお読みください。

――R.ケリーの犯罪は彼一人だけの問題じゃないはずです。周囲の御付きの男たちが、見て見ぬふりしていた。あるいは暴行を手伝っていた。こういう一種の組織だった暴行のシステムは、これからどんどん告発されていくべきです。

藤田 R.ケリーは、2021 年 9 月 27 日、恐喝罪 1 件、マン法違反 8 件で有罪判決に。マン法とは"不道徳な目的 "のため州境を越えて人を運ぶことを禁止する法律。彼は、いよいよ窮地に立たされた。

詳しくはこちらも(英語)※トップ画像は本ユーチューブより引用
Everything  We’ve Learned So Far From The R.Kelly's Trial |Complex News 

2021.10.9 追記

2022.7.1 追記




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