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地形と自然が生かされた街づくりを歩いて学ぶ

100年前に想いを馳せる講義

成城の街づくりにも深く関わってきた成城学園では、学園の理念や関係する人々の業績や思想への理解を深めるため、『成城学園を知る』という講義があります。
座学の講義以外に、学園内や地域に出てフィールドワークも行われ、通学路だけではなく街全体を通じて“みずからの学ぶ場を知る”貴重な機会となっています。
 
成城学園が1925(大正14)年に東京府北多摩郡砧村(現在の東京都世田谷区成城)に移転してきた理由は、土地の視点から紐解くと大きく3つ挙げられます。
まず、小田急線の開通予定地であったこと、次に第一回神奈川県会議員だった鈴木久弥という大地主から、一括で買収交渉ができたことが大きく影響しています。
そして、富士山や多摩川が見渡せる高台という立地条件も、この地を学園都市に選ぶ所以となったといわれています。
 
駅と学園の往復ではなかなか感じることができませんが、実は成城はアップダウンが激しく坂が多くある街です。
というのも、高台の縁に位置する成城の西側には国分寺崖線と呼ばれる崖の連なりがあります。国分寺崖線は多摩川が10万年以上かけて武蔵野台地を削ってできた段丘で、その周辺には湧水や植物が多く、生き物も数多く生息していることから『みどりの生命線』とも呼ばれています。
 
今回、5月11日・18日(土)に実施された学外のフィールドワークでは、講師に世田谷トラストまちづくり評議員の中川清史さんを迎え、成城の街と国分寺崖線沿いを歩き、お話を伺いました。
一般財団法人世田谷トラストまちづくりは、区民主体によるみどりを中心とした良好な環境の形成、参加・連携・協働のまちづくりを推進し支援するために設立されました。中川さんは企業退職後、みつ池を育てる会での活動など、長年街づくりや環境保全に尽力されています。

講師を務められた中川清史さん

いざ、成城の街へ

スタート地点の成城学園の正門は、栃木県宇都宮市大谷町で採掘される大谷石でつくられています。
この大谷石は成城の住宅の生垣にも使われ、成城の歴史を感じる風景のひとつ。

大谷石でつくられた正門
成城の住宅街の特徴でもある生垣

学園を出て散策をはじめると、角切りがされている交差点を目にします。角地の土地の角を取って見通しをよくし、出会いがしらの衝突を防ぐための工夫です。安全な街づくりを掲げ、住民と交渉して整備された成城の特徴です。

宅地の角の土地を切り取り見通しのよい道路に

学園都市として整備されたまっすぐな道を進むと、途中で木陰になっていた並木道がなくなり、街の雰囲気が少し変化することに気づきます。
この景観の違いには、成城学園のすぐ西側の住宅地など最初に開発された地域と、それ以外の後から開発された住宅地という、成り立ちの歴史が関係しています。ひとつの道を東西に歩くだけでも、歴史的なコントラストが感じられます。

木陰か涼しい新緑の桜並木

成城の街には雨水を有効利用するため、雨水タンクが設置されている家庭があります。雨水を貯めて再利用したり、大雨時に下水道管や河川へ一気に雨水が流れ込むのを抑制したりと、さまざまな役割を担っているのです。
この雨水タンクの普及が、国分寺崖線の湧水の保全や高台にある成城の街を水害から守るために大切だと中川さんが話してくれました。

雨水タンクについて解説してくださる中川さん

歴史的に価値のある邸宅が多い成城。今回、文化勲章を受章した吉田五十八氏が設計した成城五丁目猪股庭園と、アメリカで事業を成功させた実業家が建てた旧山田家住宅を二手に別れて見学しました。どちらも無料で公開されている、貴重な文化財です。

1967(昭和42)年に建てられた旧猪股邸は建物と庭園の一体感が魅力

旧山田家住宅は中川さんが子どもの頃、英会話を習いに通っていたという裏話も。外観は洋風ですが、日本人が住みやすいように部屋の配置や和室が設計されています。

1937(昭和12)年頃に建てられたとされる旧山田家住宅はステンドグラスや寄木張りの床など細部までデザインにこだわっている

国分寺崖線の自然とこれからも続く街づくり

いよいよ成城の最西端、環境保全のため立ち入りが制限されている成城みつ池緑地の公開エリアを歩き、国分寺崖線を下ります。
エントランスに立ち並ぶ印象的な大きなヒマラヤスギ。開拓当時、洋風の家にはヒマラヤスギ、和風の家には赤松が植えられました。成城の景観を保つ取り組みのために植えられた木々が、今も残っているのだそうです。
 
緑が広がり鳥の鳴き声が響く散策路には、散歩をする人やベンチでゆっくり過ごす人の姿があり、区民の憩いの場になっていることが窺い知れました。

心地よい風が抜ける成城みつ池緑地の公開エリア

整備された階段で国分寺崖線を下り、最終目的地の世田谷トラストまちづくりビジターセンターに到着。
館内には資料や展示があり、身近な自然についての情報を知ることができます。

緑地内の階段で崖線を下り最終目的地へ
崖線の下も緑豊かでさわやかな風が感じられる

ビジターセンターがある野川沿いの地域も、開発が進む際に住民と世田谷区、企業が何度も協議を重ねてきたと中川さん。
この土地を愛する住民の想いや、学園都市として自然と共存してきた成城学園の街づくりが今につながって、新しい環境づくりもいい関係が築けていると話してくれました。

自然や歴史的遺産の保全活動やボランティア活動の拠点となっている世田谷トラストまちづくりビジターセンター

半日成城の街を学生たちと共に巡り、豊かな自然と見晴らしの良いこの土地だからこそ実現できた、街づくりの歴史と今を体感できたフィールドワークでした。

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