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生き物関連の書籍の常識を覆したミリオンセラーは、逆転の発想と、成城大時代に養われたガッツから生まれた_MADE IN SEIJO~『ざんねんないきもの事典』シリーズ~

『sful-成城だより』では、私たちの身近にあるものやサービスなどの中から、成城学園の卒業生が企画・制作にかかわった事例を紹介する「MADE IN SEIJO」という企画を連載しています。今回のテーマはVol.17で掲載した『ざんねんないきもの事典』シリーズ。発刊から約7年で480万部を発行する大ベストセラーに成長した同シリーズの編集者である山下利奈さんのお話を、誌面の都合で載せられなかった内容も含めて再編集しました。人気書籍誕生の裏側、山下さんが編集者として大切にしていることなどをお伝えします(取材は2022年9月に実施)。

編集者 山下利奈さん
やましたりな/1986年神奈川県生まれ。2008年に成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科を卒業後、高橋書店に入社。販売部を経て書籍事業部に異動し、児童書や生活実用書を担当。累計480万部突破(2022年10月時点)の『ざんねんないきもの事典』シリーズ、累計70万部を突破した『親子であそべる おりがみ』シリーズなどの担当書籍がある。

人を笑顔にできる職業に憧れて

「敵に襲われそうになると、眠ったふりをするオポッサム」「自分も感電してしまうデンキウナギ」……そんな生き物のユニークかつ、愛らしい生態を紹介する『ざんねんないきもの事典』。2016年の発刊以来、アニメ化や映画化もされるなど生き物関連の書籍として異例の旋風を巻き起こしています。

現在、第7弾まで発刊される同シリーズの多くに編集者として携わってきたのが、卒業生の山下利奈さんです。

「高校時代から多くの人を笑顔にする情報を届けられる出版やテレビの仕事に興味があった」と話す山下さんは、成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科に入学しました。

全国制覇を目指してボールを追いかけた日々

同学科ではインタビュー体験や海外のコマーシャルの分析といった「実践的な講義が多く、興味深かった」と振り返る山下さん。また、文芸学部のカリキュラムの中で取得できる「社会調査士」の資格が、現在の仕事に役立っているといいます。

「インタビューやアンケートなどを使った調査の方法や、統計や世論調査の結果を検討する方法などを学びました。『ざんねんないきもの事典』シリーズでも読者から多くのご意見や感想をいただくのですが、アンケート作成や調査分析をする際に社会調査士の資格で身につけたスキルを活用しました」

また、部活動では関東1位の実力を誇った女子タッチフットボール部に所属。全国優勝を目指して、週4回の朝練や自主練など、厳しい練習に耐えてきました。その日々が社会人となった今、仕事に向き合う糧にもなっているそうです。

「大学4年間、チームメイトとともに『あと、もうちょっとがんばろう』を合言葉にして、泥まみれになりながら練習してきました。あれ以上つらいことはなかなかないと言えるほど生半可ではない練習を乗り越えてきたので、社会人になっても少々のことではへこたれないという自信になりました」

全国大会での優勝を目指した成城大学在学中の女子タッチフットボール部での思い出の写真。「つらい練習を乗り越えられたのは、チームのメンバーと励まし合えたから」と山下さん。

逆転の発想から生まれた「正統派ではない」動物図鑑

2008年に成城大学文芸学部を卒業後、高橋書店に入社。入社後は、女子タッチフットボール部での経験を生かした筋トレ本をはじめ、子ども向けの折り紙の本や冠婚葬祭のマナー本などさまざまな書籍を担当します。そんな山下さんが生き物の本の編集に関わったのは自社で発行する正統派の生き物図鑑が売れたことがきっかけでした。

「生き物のすごさを伝える王道の生き物図鑑とは逆に、生き物たちのちょっと残念でツッコミたくなる面にスポットを当てても面白いのではという発想が『ざんねんないきもの事典』の始まりでした」

当初は社内で「ざんねんな」という言葉への反対意見もあったといいます。

「しかし編集部では『ざんねん』を否定的なワードではなく、愛情をもっているからこその言葉と捉えてタイトルを決定しました。ですから、生き物をバカにするような表現や言い回しは使わない、いじめを連想させるような表現はしないといったルールを設けています。あくまで楽しく生き物のことを伝えていることが、読者の方々に受け入れられたのかもしれませんね」

幅広い年齢層の読者が人気を後押し

1冊の中で約100種類の生き物を紹介する本だけに、最も苦労するのが「ネタ探し」です。「面白そう」なネタを出しても、信憑性のあるものだけを掲載しているため、事実調査の結果、大半が不採用になります。粘り強くネタを集め調査に徹してきたからこそ、掲載した生き物の一つひとつに思い入れがあるそうです。

「例えば、世界一幸せな動物と言われているクアッカワラビー。カメラを向けると寄ってくる人懐っこさとは裏腹に、それがストレスになってしまう『ざんねん』な面を第4巻で紹介しました。自分が好きなクアッカワラビーを登場させるために、なんとかして残念な生態を探し出して提案したんです。採用された時はうれしかったですね」と、笑顔で語る表情から生き物への深い愛情があふれ出します。

発刊後、山下さんや編集チームが驚いたのは、売れ行きだけではありません。2歳から95歳までという幅広い読者からの反響は想定外でした。編集部に寄せられる読者からのハガキの中には「孫との良いコミュニケーションツールになっている」といった感想も寄せられたそうです。

「この本をきっかけにして、『三世代でクイズを出し合って楽しんでいる』『家族で動物園に行き、本当かどうか調べている』など、さまざまなお手紙をいただきました。読んで終わりとなる本が多い中で、このシリーズは読後も幅広く楽しんでいただけるものになっていたことを実感できたのが、私にとって一番の感動でした」

世代を超えた読者に支持される『ざんねんないきもの事典』は、現在も年に1冊のペースで新たなシリーズが発行されています。

既成概念にとらわれない本作りを信条に

また、思いのほか広い年代に支持されたことで、山下さんは編集者として大切なことにも気づかされたそうです。

「生き物関連の本は、だいたいファンがこのぐらいいて、この程度の発行部数になるだろうと想像していましたが、予想をはるかに超える100万部という数字が出たことで、決めつけは良くないと痛感しました。どのジャンルの本に関わる時も既成概念にとらわれず、読者にとって本当に有益なもの、面白いものは何かを考え抜くことが大切だと感じました」

今後は、『ざんねんないきもの事典』シリーズ以上に愛される本を世に出すのが目標だと熱く語る山下さん。

「同じ学部の友人がアナウンサーとして活躍するなど、成城大学の卒業生がさまざまなフィールドで自分らしく活躍している姿にいつも刺激を受けています。そういった人たちを誇りに思いながら、自分もその一人として、これからも編集者として成長していきたいと思います」

これまで山下さんが手がけた書籍。「出産を機に、未来のある子どもたちの知識に結び付いたり、刺激になったりするような児童書を作りたいという気持ちがますます強くなりました」(山下さん)

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編集の仕事をしていると、さまざまな職種の人に取材をさせていただくのですが、実は編集者の方を取材するケースは多くないため、少し緊張していました(手の内を見られるような気恥ずかしさがあり)。ただ、お話をさせていただくと、とても朗らかな方で、そんな緊張は杞憂に終わりました。学生時代の思い出から、『ざんねんないきもの事典』の生みの苦しみまで、なんでも気さくに笑顔で答えてくださった山下さん。なによりも仕事を楽しんでいる姿が印象的でした。こういう姿勢があるからこそ、誰もが楽しめる作品を生み出せるのだという編集者にとって大切な基本を、再認識させていただきました。(編集担当)

文=sful取材チーム 写真=佐藤克秋
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