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民俗学は成城で花開く

民俗学は、人々のあたりまえの生活を研究対象とする学問です。その民俗学の知の拠点が成城大学にある「民俗学研究所」です。その誕生の背景と実績を、2018年発行『sful-成城だより Vol.12』の特集記事を再編集してお届けします。

柳田國男と成城学園

成城大学の民俗学研究所の設立は民俗学の創始者、柳田國男と深く関係しています。柳田は長男を、東京市牛込区(現在の東京都新宿区)に創設された成城小学校に入学させます。創立者・澤柳政太郎の教育理念に共鳴したからではないかと、柳田の親族は伝えています。

その後、成城学園は北多摩郡砧村喜多見(現在の世田谷区成城)に移転しますが、その2年後の1927 (昭和2)年に、柳田もこの地に転居します。膨大な書籍や資料を収めた書斎がある自宅を研究拠点とし、ここで講義を行うこともあったそうです。

晩年、2万冊もある柳田の蔵書の管理が課題となります。柳田の希望は、自宅の書斎と同じレイアウトで保管し、自分が必要な際に自由に閲覧できることでした。当時、図書館を建設中だった成城大学がそれに応え、蔵書は成城大学図書館に「柳田文庫」として、寄託されました。

成城学園の保護者である柳田は、 そのつながりで成城学園で講演をすることもあった

蔵書のほかにも貴重な品が

柳田が残した膨大な資料や貴重書は、現在でも研究者の財産として、民俗学研究所に保管されています。また、蔵書とともに、柳田が利用していた書見台や旅行カバンのほかに、食器類など、柳田家の品々も民俗学研究所に譲渡されました。

日本全国を旅する柳田にとってカバンは必需品。 旅先で購入した大量の書籍類はとても入りきらず、郵便で送っていた
愛用していた書見台は、講演などでも使われていた
昭和らしいデザインが新鮮に感じられる食器類。 お菓子皿(上)はハイビスカスの花があしらってある。 沖縄研究に尽力した柳田の好みだろうか

成城の民俗学はフィールドワークが基本

柳田の蔵書が成城大学図書館に寄託され、「柳田文庫」となったその経緯で、柳田は文芸学部の顧問に就任。柳田を成城に迎えるにあたり、民俗学専門のコースを立ち上げるべく、1958(昭和33)年に文化史コース(現文化史学科)が設置されました。

フィールドワークを重視した柳田と同じく、文化史学科では、講義や演習を通して得た知識をより確かなものとするために、現地調査をともなった「文化史実習」を必修としています。実習は現代社会が直面するさまざまな課題を体感できる重要な機会でもあり、文化史学科で学ぶ意味を明確にする契機にもなっています。

民俗学に興味があるならまずはここから

人々の暮らしや慣習を扱い、多様な視座を持つ民俗学は物語の素材にされることも多く、民俗学を背景に、読み手を異世界に誘うさまざまな作品が生まれています。その中から数点を紹介します。

<書籍、マンガ>
柳田國男の代表作『遠野物語』は難しいと思われがちですが、現代語訳や水木しげるのマンガもあり、やはり読んでおきたい一冊。柳田作品では『明治大正史世相篇』もお勧めです。民俗学者・宮本常一の『忘れられた日本人』は、私たちが「忘れてしまった」生活を、リアルに描写。話口調で書かれる人々の言葉なども読みやすく、入門にはうってつけです。

左:水木しげる『水木しげるの遠野物語』(小学館) 
右: 柳田國男『明治大正史 世相篇』(講談社)
宮本常一著『忘れられた日本人』(岩波書店)

<映像>
『平成狸合戦ぽんぽこ』(スタジオジブリ)
都市民俗学的に面白く、また民俗学の調査データが使用されているシーンもあります。

『NHKスペシャル クニ子おばばと不思議の森』(NHKエンタープライズ)
宮崎県椎葉村で暮らす椎葉クニ子おばばと焼畑を追ったドキュメンタリー。

『男はつらいよ』 シリーズ(松竹)
寅さんが各地で巻き起こす騒動は、来訪者が地域にもたらすインパクトとそれによって起こる解体と再編といった民俗学のテーマとも関わっています。

<成城大学教員が関係している作品>
最後に成城大学の教員が関係している作品を2つご紹介します。

『クダンノゴトシ』
卒業旅行帰りの大学生7 人が起こした事故をきっかけに始まるホラーストーリー。「件(くだん)」という妖怪を題材にしており、成城大学の民俗学専門の教員が取材を受けたマンガ作品です。

『クダンノゴトシ』(渡辺潤、講談社)全6巻

『心霊スポット考――現代における怪異譚の実態』
成城大学で民俗学を教える教員の最新刊。心霊スポットを民俗学的な視点で分析している類を見ない一冊。(及川祥平、アーツアンドクラフツ

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文=sful取材チーム 写真=田尾沙織、成城学園
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