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地域への想いを育む『せたがや百景』と成城学園周辺の散策スポット

成城学園がある世田谷区には、『せたがや百景』とよばれる風景や景観があります。昭和59年に区民投票で選定され、時の流れと共に当時と変わってしまった風景もありますが、現在も景観や散策が楽しめるスポットがたくさん残っています。
成城学園の移転、小田急線の開通と共に人々の暮らしが根付いてきた成城。この街の風景や景観も、住民や学園が大切に守っています。

成城学園内の残したい景観

実は、成城学園内にも『せたがや百景』に選ばれた場所があるのは、意外と知られていないかもしれません。
その場所とは、“ドーナツ池”の愛称で親しまれている成城池。
初等学校の子どもたちがザリガニ釣りをしたり、中の島で茶道部がお茶を点てたり、学生たちの伝統も受け継がれる憩いの場所です。

中の島は静かな憩いの場

この成城池は、1927(昭和2)年にグラウンドを造成する際に土砂を採取してできた窪みを利用して造られた人工池。
2012(平成24)年には、池底に防水シートを敷き、中の島に石敷きの浜辺が整えられ、現在の景観に生まれ変わりました。
 
緑豊かな成城池は、鳥たちも羽を休める癒しスポットです。水辺を漂うカモや、じっと佇むサギ、春はウグイスたちの歌声が窪地に響いています。

梅や桜など季節の花が彩りを添える

成城池の東側を流れる仙川沿いの桜並木は『せたがや百景』にこそ選ばれていませんが、学園内の隠れた名所。
第1グラウンドや成城大学スポーツセンターへつながる橋から、景観を眺められます。

橋からの眺め
グラウンドからも桜が見渡せる

成城学園周辺の“せたがや百景”

成城学園から歩いて周れる範囲にも、『せたがや百景』として守られている景観が数多く残っています。
 
正門からまっすぐにのびる成城学園前のいちょう並木も、そのひとつ。秋にはあたり一面が黄金色にきらめき、映画のワンシーンのような風景が見られます。
昭和初期の植樹には成城学園の学生・生徒たちも参加し、学園の歴史と共に成城生を見守っている象徴的な存在です。

正門へ続くいちょう並木

森山直太朗の『さくら』のモデルになった成城の桜並木も、成城を代表する名所。満開を迎えるころは、街のあちこちで立ち止まりカメラを向ける人が見られます。

住宅街の至るところに桜
成城学園沿いにも桜が立ち並ぶ

小田急線上に並んで架かる富士見橋と不動橋は、その名の通り富士山が見える絶景スポット。晴れた日には、国分寺崖線から雄大な富士山が望めます。
富士見橋の案内板には額が設置されていて、ここに富士山を納めたベストショットが撮りたくなる仕掛け。
街の風景は時代と共に変わっていますが、変わらぬ自然の偉大さを感じることができます。

晴れた日にはこの枠の中に富士山が見える

名建築と庭園を楽しむ

成城の街の美しく整えられた生垣も、成城住宅街の生け垣として『せたがや百景』に選定されています。
成城では伝統的な街並みや景観を維持するために『成城憲章』が定められていて、個々の住民が建築や樹木などに配慮して街づくりをしています。成城学園の移転と共に発展した理想の学園都市を、自治体と住民で大切に守っているのです。

長く続く生垣は現代ではなかなか見られない

中でも、成城5丁目猪股庭園の生垣は圧巻。旧猪股邸は無料公開されていて、“近代数寄屋建築の巨匠”と呼ばれる吉田五十八が設計した建築と、銀閣寺の庭師だった田中泰阿弥が作庭に関わった庭園が見学できます。
労務行政研究所の初代理事長を務めた猪股猛夫妻の邸宅として、1967(昭和42)年に建てられ、「貴重な文化財として末長く残したい」という猛氏の長男靖氏の意向で世田谷区に寄贈されました。
1999(平成11)年から一般公開され、近隣住民だけでなく建築好きの間でも愛される場所となっています。

入口から趣を感じる

居間から眺める庭園は、まるで絵画のよう。アカマツやウメ、モミジなどが植えられ、季節ごとに楽しむことができます。初夏には苔が見頃を迎え、青々としげった天然の絨毯が一帯に広がります。
 
また、立川市からはじまり国分寺市などを通り、世田谷区の多摩川と野川に沿って続く国分寺崖線も見もの。多摩川が10万年以上かけて武蔵野台地を削ってできた、貴重な崖の連なりです。その周辺には湧水が数多くあり、自然豊かな環境が育まれています。成城3・4丁目の崖線にも貴重な自然の景観が残り、大切に守られています。
 
成城学園の正門からいちょう並木をまっすぐ歩くと、成城みつ池緑地が見えてきます。ここは崖線沿いの自然を区民ボランティアなどで整備している森林保護区。蛍の自生地としても知られています。

このロータリーの奥に緑地が広がっている

成城みつ池緑地にある旧山田家住宅は一般公開されていて、無料で見学可能です。
当時としてはめずらしい西洋風の建物は1937(昭和12)年頃、実業家の楢崎定吉が建てました。その後、画家の山田盛隆が購入し住居兼アトリエとして長年過ごし、2015(平成27)年に世田谷区に寄贈されました。

写真左のバルコニーの下が食堂

崖線の豊かな自然が眺められる窓辺や、寄木造りの床やフランス瓦など、こだわりが随所に見られます。
かつて食堂として使われていたスペースでは、カフェがオープンしています。当時の面影を感じながら、優雅なひとときをすごせるおすすめのスポットです。

坂のある風景

成城みつ池緑地から不動橋へと向かう途中は、急勾配の不動坂。湧水の小さな不動滝があります。藤が見頃を迎える5月頃がおすすめ。

うっすらと流れる湧水の滝

緑に囲まれた静かな境内には玉姫稲荷、蚕蔭神社、岩屋不動が並び、厳かな雰囲気が漂っています。

階段を登ると見えてくる境内
洞窟のような祠は神秘的な雰囲気

木漏れ日の階段を登ると喜多見不動堂があり、小田急線を眺められる隠れおすすめスポット。散策の休憩にぴったりの、ほっと落ち着ける空間です。

ちらりと見える小田急線

思いを馳せて歩く

成城学園と周辺の徒歩圏内には、たくさんの自然と文化が残っていました。歴史と人々の想いを知ると、美しい街並みと豊かな自然がさらに深みを増して感じられます。
 
この先も大切に守っていきたい『せたがや百景』、そしてまだ選定されていない視点を自分なりに探しながら散策するのも楽しそうです。