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短歌人の誌面より

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誌面に掲載された短歌人の方々の歌を紹介します。
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記事一覧

「夜ノ森」(第二十回髙瀬賞佳作)

「夜ノ森」(第二十回髙瀬賞佳作)

駅名を綴る柳美里のツイートに衝かれるように北へ向かった

土浦のホームに啜る あたたかいうどん できるだけ声をひそめて

港をのぞむプレハブ小屋にかけられた孫請け曾孫請けの家系図

復旧をまたず自粛を決めていた廃炉資料館には入れずに

路地裏の林道をあるく 饐えた土が帰宅困難区域を分かつ

満開の桜は生徒をむかえずに線量計とともにたたずむ

夜ノ森は闇の入口 名のごとく駅舎のみ場違いにかがやいて

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短歌人 2019年4月号 会員2欄

こんにちは、短歌人の太田青磁です。今月の短歌人の誌面から、心に残った歌を紹介します。

五杯目のコーヒーの夜 カフェインはいつしか私の葉脈となる/千葉みずほ

カフェインが全身のなかを徐々に伝わっていき、手の甲のあたりに見えない葉脈のように溜まっていく姿が浮かぶ。見えないものの感覚が、実際はともかくそこにあるのだという体感として感じられる。

人が来ない静かな場所で電話したい人の集まってく

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座談会「これからの短歌、これまでの短歌」雑感①

短歌人2019年4月号は80周年記念号ということで、さまざまな特集があるのですが、目玉企画と言うべき座談会「これからの短歌、これまでの短歌」がとてもおもしろかったので感想を書きます。
ネタバレは意識しないので、未読の方で本誌を先に読みたい方はスルーしてください。

---ここから---

‪最近の歌でハイライトされた部分を読むように誘導される歌が多いのは、穂村さんの影響がけっこうあると思う。ここが

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短歌人2018年4月号 同人1欄(3)

江東区内循環バスの「しおかぜ」は都バスとおなじ車体走らす
「雪降る街で」/柏木進二

わたしだけにわかる匂いの記憶撒く風はわたしの知っているひと
「雨でよかった」/高田薫

ことばといふあなたがいなくなつたならわたしもいなくなるのだらうか
「といふ」/西村美佐子

アマゾンでCDひと組買いたるを近頃最大の贅沢として
「さぼうる」/西勝洋一

草を踏んだ感触のこる足裏のどこだらう夢で歩いた土手は

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短歌人2018年4月号 同人1欄(2)

浅草にかつてありたる大塔の基礎がみつかる 第一報はさへづり
「二月の六日間」/花笠海月

こめかみに眼鏡のつるを沈ませて核のボタンをまさぐりやまず
「酒、雪」/栗明純生

はねられしイタチの前にかがみゐる鼻にピアスのをとこ三人
「黙祷」/原野久仁子

耳に蓋はないはずだけどとある午後みんなの声が遠ざかりゆく
「耳に蓋」/砺波湊

望月がのぼりて月蝕たのしみと待つ間に雪のおそいて終る
「雪の緞道」/

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短歌人2018年4月号 同人1欄(1)

漱石の齢を越えて黒板に今日も「こころ」と書きて振り向く
「こころ」/岩下静香

南低く天づたふ日に向きて歩む眩しよ真直ぐなる道の果てまで
「雪後」/酒井佑子

薄氷のかすかな鳴りは水の声、氷の声のどちらだろうか
「潜る」/猪幸絵

断面は台形である川土手の土の塊量、草枯れの脚(きゃく)
「砂の感触」/大室ゆらぎ

ミルク飲み人形のごとき一本の管なりわれは白湯を飲む
「蝕の月」/有沢

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短歌人2018年4月号 同人2欄(2)

南天の目を入れやるに雪うさぎ汝がふるさとの空をあふげよ
「十日目の雪」/池田弓子

初春の富士の頂きつやめきてめうにうれしいね ともかく生きろ
「とにかく生きろ」/田上起一郎

栓をするのを忘れてしまい排水口に金魚をすべて流した記憶
「厳冬の日日」/桑原憂太郎

ふたをあけたグランドピアノから音は降る 風雪の中にゐるやうに酔ふ
「ポーランドにて 2」/如月佳

京都府から葉書来ており漢字ばかり十八

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短歌人2018年4月号 同人2欄(1)

ややきつき靴はきたれば背筋のびいざ行かむ冬の風に向かひて
「冬」/小出千歳

みづからの「死の哲学」ゆゑ冬川に入りにし人をおもひて眠る
「若鮎のをめ」/岩崎堯子

加湿器にみづの減りつづける音がつづくあひだを夜の量の減る
「冬の量」/角山諭

内にあればころっと本音出てしまう「戦力」を「実力」と言い直す
「本音」/謝花秀子

ネヴァ川は凍てついており 宮殿の窓から見ている真白き川面

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短歌人2018年4月号 会員1欄(2)

にんげんがいない よ みちにめがね屋のナイロン製のはたのはためき/鈴木杏龍

「目的地が見つかりません」冷たくてはっきり喋るカーナビの人/鈴掛真

『真砂集』の兎が二十二羽をりて四十四の瞳でありぬ/ 萩島篤

文字は打つものではなくして書くものだペン無き部屋に苛立ち募り/黒田英雄

入浴をしたくない訳たずねると「誰も褒めてくれないんだもの」/笠原宏美

春は相撲、冬はアルペンにクロカンと義務教育時

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短歌人2018年4月号 会員1欄(1)

真夜の空先ずオリオンを見上げればかたくするどく瞬いており/籠房代

いつだつて無断欠席するくせに要求するときだけ電話くる/さつき明紫

住職と話しながらの拝観は試されているような緊迫/上村駿介

全身で婆娑羅(ばさら)の如く入浴を拒否していたり米寿の母は/芦田一子

チョコボール好きでエンゼルも集めつつ机にチョコボールの箱の山/來宮有人

落日は半熟卵の黄身みたい大きくゆがみ溶

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短歌人2018年4月号 会員2欄(2)

ギャグと思う職場に届いた還暦の祝い真紅の薔薇六十本/亀尾美香

人殺しをしたことのなきわたくしと思ひをりしがまことにさうか/冨樫由美子

トイピアノ叩く童に乗り移るセシル・テイラー、グレン・グレード/いなだ豆乃助

高校は行きたいところへ行きなさいと言ってやれずにつま先を見る/蒼あざみ

初春を詠みたる賀状いただきぬ妙に気になる結句の五音/杉本玲子

半時間はやく終わりし手術な

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短歌人2018年4月号 会員2欄(1)

珈琲の湯気のゆたかにのぼるときしづかに雨は降りはじめたり/桐江襟子

リフトから見おろす白と深緑、ストックを振っているいとこたち/相田奈緒

ただ一人談志を看取りし談吉の弟子たる矜持を口跡に見ゆ/高橋道子

洗顔パウダー泡立てながら「あ、髪切ったからだ」と答えが出る/加藤真弓

本格カレーが腸に及ぼす影響について知らぬ存ぜぬ朝/国東杏蜜

八年の叔父の余命を言い当てた病院前を黙

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春のプロムナード(短歌人2018年4月号)

こんにちは、短歌人の太田青磁です。
短歌人4月号の特集「春のプロムナード」から5人の歌を紹介します。

炎症の喉もてあます食卓にコップに満ちる水たくましい
かんたんに雪道の道消していた北風よ今わたしに吹けよ
今の不安が先の不安へつぎつぎとかわる夜の果て、肩を冷やして
「 雪あかりになって」/黒崎聡美

ロロロッサ真白き皿に散らしつつ行方知らずの春を待ちをり
裏窓のしたテラコッタを洗ひ

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