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一期一会

一期一会(いちごいちえ)とは、茶道に由来する日本のことわざ・四字熟語。茶会に臨む際には、その機会は二度と繰り返されることのない、一生に一度の出会いであるということを心得て、亭主・客ともに互いに誠意を尽くす心構えを意味する。茶会に限らず、広く「あなたとこうして出会っているこの時間は、二度と巡っては来ないたった一度きりのものです。だから、この一瞬を大切に思い、今出来る最高のおもてなしをしましょう」という含意で用いられ、さらに「これからも何度でも会うことはあるだろうが、もしかしたら二度とは会えないかもしれないという覚悟で人には接しなさい」と戒める言葉。
ーWikipedia より 


 一度の出会いが人生の行く末を大きく変えてしまうことがある。そんな出会いに恵まれることは人生の一つの醍醐味だと言っていいだろう。


 時は大学卒業を控えた2003年の冬。僕は人生に迷っていた。その前年の秋に体育会の庭球部でチームとしての目標達成に貢献することが出来た僕は、その喜びに浸ることが出来たが、その喜びに実は勝ってしまっていた肩の荷が降りたという安堵感とまた目標を設定してそれに向かって懸命に努力するという競争社会での生き方に対して心が折れてしまっていたことに薄々と気付いていた。けれども、そのやり方と違った生き方は周りにまだ見当たらなかった。アメリカに留学することだけは決まっていて、行くからには英語を取得することに加えて何かを学ぼうということで、法学部だったから安易にその延長線にあるように思えたロースクールを目指すということにしていたが、その目標設定に心はついていってなかった。


 アメリカ東海岸のロースクール入学を見据えての語学留学が迫る中、日増しに不安の気持ちだけが強まっていった。ある日、その不安の高まりに耐えきれず、父にその気持ちを吐露すると、仕事の取引先を通じて留学カウンセラーを見つけてきてくれた。それが当時ザ・プリンストン・レビューにいらっしゃった折原隆さんだった。そのミーティングの全容は覚えていないが、三つだけ覚えていることがある。一つは、その頃僕が李登輝著の”武士道「解題」”なんかを読み込んでいて、日本に貢献したいという熱い気持ちを持っていてそれを伝えたということ。もう一つは、折原さんがナイーブだったかもしれない当時の僕の想いを無下にしたりせずに、何度か「おもしれー」と言いながら心からの興味と笑顔を持って聴いてくださったということ。そして、話を一通り聞き終えると、僕に合うであろう大学院としてクレアモント経営大学院とカリフォルニア統合学研究所(CIIS)を紹介してくださったこと。


 折原さんとはそれ以来一度も会うことはなかったが、その出会いを契機として僕は東海岸への留学を取りやめて専攻も変更し、西海岸のサンフランシスコベイエリアへと語学留学・大学院留学のために準備し、やがて旅立つこととなった。結果的に紹介していただいたどちらの大学院にも入学することはなかったが、様々な恵み、自身の努力と運命の不思議な巡り合わせを経て、最終的に僕はそのCIISで日本生まれとしては初めての専任教員・准教授(ソマティック心理学カウンセリング学部)として教えるにまで至った。


 誰しもの人生がそうであるように今までの道のりは簡単ではなかったが、人生のあらゆるステージで人との出会いには恵まれてきたように思う。そして、人生の行方を大きく変える契機となった折原さんとの出会いについても折に触れて思い出していた。最近、ふと折原さんのことが何度も頭によぎってFacebookで探してみることにした。以前に探した時には見つからなかったと記憶している。そして、17年の時を経て、僕らはオンラインで再会することになった。

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 その長い時の空白を埋めるのには2時間という時間は短すぎたかもしれないが、お互いにとってそれはとても幸せな時間だったのだと思う。折原さんが当時のことを覚えていて、僕のポテンシャルと精神性を感じとって、ちょっと特殊な二つの大学院を紹介してくださっていたことが分かった。巡り巡って、やっと顔を見ながらあの時のお礼を伝え、僕がアメリカで学んできたことの一端が今の折原さんにとって意味のある情報だったりしたことも嬉しかった。


 他者からの何気ない一言や行動に傷つけられることもあれば、勇気づけられたりすることもある。そして、たった一度だけの出会いだとしても、真摯に向き合えた二人の間で何かしらの化学反応が起これば、それが一人の人生を思いもよらぬ方向へと動かすことがある。大きなビジョンを持っていようがなかろうが、世界や社会を一人で変えようとする必要なんてないのだ。目の前にいる人(や物事)に真摯に向き合おうとすることで、何かが時に小さく、時に大きく変わり得る。それは社会や世界が変わっていくことだ。そのただ目の前にあることにベストを尽くして取り組もうとする姿勢と実際の行動は、他の人たちが目の前のことに取り組むことへの信頼であり、エールでもある。一人一人が潜在的に持っている「変わることを手助けする力と変わっていく力」を取り戻して、それを信じて地に足をつけて生きていくこと。それだけで十分なのだ。一期一会が世界中で日々積み重ねられることによって、きっと社会や世界はより美しくゆたかに変わっていく。

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