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ザリガニの悲劇

 公園の一画、小川の近くを歩いていると足元に違和感を覚えました。芝をジッとみて私は恐怖を感じます。

 ザリガニです。

 一体や二体ではありません。よく見ると十数体のザリガニが散乱しています。さらに奇妙なことに、ひとつとして完全な形は保たれておらず、ハサミや頭部の殻が僅かに残る姿で、全て息絶えています。

 なぜ?

 記憶の糸を辿っても、斯様な光景に遭遇したことはありません。ひとつやふたつなら子どもの悪戯かもしれませんが、十数体となると正気の沙汰ではないでしょう。殻やハサミを見ますと、比較的新しいものが多いことが分かりました。

 ザリガニペストでしょうか。

 いいえ、アレはニホンザリガニには有害ですが、保菌者たるアメリカザリガニの大量死の原因にはならないはずです。転がっているのはアメリカザリガニですから、自然死しづらい強い個体のはずです。

 不意に黒い影が視界を横切りました。

 それは小川からザリガニを捕獲して木陰に飛び去り、凛とした横顔を光らせます。それから鋭い嘴で獲物を啄む姿には王者の風格さえ漂います。

 カラスです。

 漆黒の正体はカラスでした。彼奴等がザリガニを捕食していたのです。私が見たのは食べ残しの殻やハサミだったのでしょう。

 生態系ならば仕方なし。自然界の掟は厳しくとも成す術はありません。そもそも外来種たるアメリカザリガニの本邦への悪影響を考慮すると、食べてくれるのはありがたいことです。


 謎の解けた充足感に包まれて、私は散歩を再開しました。見上げた空には厚い雲が流れていて、ああそろそろ降りそうだな、と帰路を急ぎます。


 拙文に最後までお付き合い頂き、誠にありがとうございました。願わくは、日常のミステリが軽妙に解き明かされていきますように。




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