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ドクターショッピングのススメ

 セカンドオピニオンとドクターショッピングは、似て非なるものです。

 前者は正規の手順に則った専門医療機関の受診で、後者は患者主体に医療機関を変えることを示す場合が多いでしょう。

 「お医者さま」という文化が蔓延っていた時代からの脱却策のひとつとして、国も病院も形としてはセカンドオピニオンを推奨しています。

 これに比して「ドクターショッピング」という俗語が肯定的に使われることは稀で、殆どのケースにおいて(医療者側からみて)いわゆる「困った患者さん」と揶揄されるような否定的ニュアンスを含むでしょう。

 実際に医師として働いていると、様々なケースに遭遇します。セカンドオピニオン外来に紹介することもあれば、紹介を受けることもありますし、少なからず幾つかの医療機関を点々として辿り着くドクターショッピング系の患者さんも診療します。

 否定的ニュアンスの付き纏うドクターショッピングをする患者さん…名称が長いので探求者シーカーと勝手に略させていただきますが、彼らに一切の悪意はなくて、ただ自分や大切な人の病のことで困っているのだということを強調いたします。


 中学生の頃、私はひどい腰痛で思うように動けない時期がありました。あるとき整形外科を受診すると、CTやらなんやら検査の結果、医者は「これは腰椎すべり症で具合が悪いから、すぐに硬性コルセットを作って成長期が終わるまで固定しなきゃダメだ。運動はダメ。体育も水泳も禁止。」と言いました。
 私はショックを受けて、しかし医者の言うことだからそんなものか…と諦め

「信じられません!帰ります!!」

 毒親で自然派な探求者トキシック・ナチュラル・シーカーは叫びました。
 母親については色々思うこともありますが、このときばかりは格好良かったと思います。

 はたして彼女は私を他の整形外科に連れて行き、そこで驚愕の事実を知ることになります。

「腰椎すべり症じゃないですよ。」

「そもそもCTで診断するものじゃないし、骨を動かしたレントゲンを比較して診断しますから。それと、神経の状態をみるのはMRIですが、それは検査してないんですよね?成長期のお子さんにコルセットをするかどうかの判断にMRIも撮らないのは、僕には信じられない。」

 前の医者の誤診でした。 

 私の腰痛には別の診断が下されて、適切な治療とリハビリテーションによって快復することができました。勿論、日常生活に制限はありませんでしたし、水泳も体育も大いに楽しむことができました。

 

 この経験があったからでしょうか。

 私が高校三年の頃に突発性難聴を患い、とある耳鼻咽喉科クリニックを受診したとき、そこのドクターに違和感を覚えられたのは。
 彼は「自分は突発性難聴の権威だ」と言わんばかりに自信満々に病状を説明し、終いにゃ自分の研究論文を繰り出して「これが効くのだ!」と不可解な機械をいくつか私に使いました。
 聴こえるようになっただろう、と不敵な笑みを浮かべる医者を前に、全然変わんねぇよと内心呟き私はサッサと帰りました。

 私は口コミや経歴を調べて、2日後に少し距離があるものの評判のよい耳鼻咽喉科に行きました。
 そこでは幾つかの検査の後に診断は突発性難聴に相違ないが典型的なものとは少し異なること、標準治療はステロイドの内服で機を逸すると快復しないことなど明快な説明を受けました。
 若干の後遺症はあるものの、日常生活には影響しないくらいに快復できたのは、その先生のおかげだったと感謝しています。



 病はタイミングです。

 誤診や治療の遅れが致命的になることもありますし、そうでなくとも人生を大きく変えてしまう恐れがあります。

 医師として働き始めて十数年が経過して思うのは、ヤブ医者って本当にいるぜ!ということです。

 ここには書けないような誤診や医療事故の数々を見聞きしていると、怒りを通り越して恐怖を感じるどころか呆れて心を失います。

 医者に対して「なんかコイツヤバい」と感じたら、他の選択肢を探すのも良い。国や医療機関がその行動を批判しようとも、私は貴方を肯定します。
 良い医師もたくさんいますし、主治医と良好な関係性が築ければそれに越したことはありませんが、自分が納得できるまで、探求したっていいじゃない。私はそう思っています。

 自分を守るのは自分だけ。

 選択は貴方の手に委ねられています。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、貴方の意志が未だ見えぬ選択肢を創出できますように。




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#誤診系整形外科医と意味わかんない治療をした自信満々の耳鼻科医のお二人のことまだ憶えてますよ
#私も医師になりましたからね #ふふふ

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