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風邪、流行る。【漢方医放浪記】

 なんかもう色々流行っている中で、娘→息子→私の順番に風邪をひきました。コロ助とインフルエンザの検査は陰性でしが、発熱と鼻汁や咳が中心の具合の悪さがありました。

 その日、園から帰宅した娘は「かんぽー」と言いながら薬箱をゴソゴソとし始めました。鼻水タラリで咳をケホケホしています。微熱ですが、脈は浮・数・緩ふ・さく・かん。太陽病位虚証、すなわち風邪の初期です。じんわり発汗もありましたから、基本処方の桂枝湯けいしとうが良かろうと考え、速やかに用意します。用量は年齢と体重から計算して調整します。胃腸の弱い傾向のある娘には麻黄の合わないことが多く、今回も診察すると表虚証ひょうきょしょうでした。

 娘は美味そうに薬を飲み干し、翌日にはスッキリ回復していました。診断と治療内容が合っていれば、1歳児にも漢方薬は有効です。

 その2日後に息子が39℃の発熱と激しい咳、鼻汁でズビゲホし始めました。直前の不機嫌は発症の前触れだったのでしょう。怠そうに「かぜなんだよ」と彼は言いました。脈は浮・数・緊・やや渋。太陽病位実証、風邪の初期です。後頭部のあたりの筋肉が緊張して発汗がありません。麻黄湯の証にも見えますが、鼻の症状が強い。ここは麻黄湯まおうとうを1回内服して、葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんいに繋げるのが最適でしょう。

 ググイと薬を飲み干した息子は、ニヤリと笑って親指を立てました。麻黄湯を内服して1時間以内に発汗して解熱し始めたことを確認し、その後に葛根湯加川芎辛夷に切り替えました。その日のうちに平熱に下がり、翌日には少し咳を残すものの元気に登園することができました。

 問題は私です。
 おっさんの身体には風邪も凶器。子どものようにはいきません。息子の発症とほぼ同時に喉の痛みを感じ始めた私は、ほどなく発熱と鼻汁、頭痛、多関節痛、筋肉痛、倦怠感でノックアウトでした。コレ、インフルエンザかコロ助なんじゃあないかと疑いましたが、検査は陰性。ううむ、陰性でもつらい。風邪ってつらい。この状態で息子の看病もするんだから、親って大変さ。

 そんなことを思いながら自分を診察します。脈は浮・数・弦・渋・肝実脾虚。なんかゴチャゴチャした脈です。太陽病合少陽病位の虚実錯雑証で瘀血もあります。私はコロ助に準じて治療を始めることにしました。

 コロ助の特徴は過剰な炎症と微小循環障害です。漢方治療は証に応じて組み立てますからマニュアル化することは不可能ですが、キードラッグになる生薬は幾つかの候補があります。この数年の医学文献と私の臨床経験から考えますと、「麻黄、石膏、柴胡+黄芩、甘草、および利水薬+駆瘀血剤の加減方です。

 升麻葛根湯合柴胡越婢加朮湯しょうまかっこんとうごうさいこえっぴかじゅつとうで治療を開始しました。

 内服して3時間後には鼻の症状が軽減したため、2回目の内服をキメます。その5時間後には解熱し、調子に乗って3回目を内服します。
 冷え過ぎたのか腹が痛くなって下しました。やっちまった。慌てて五苓散ごれいさんを内服し、足三里、合谷、太衝に鍼を打ちます。30分ほどで腹部症状が軽快したことを確認し、当帰四逆加呉茱萸生姜湯とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとうに切り替えます。これは当帰と呉茱萸を特徴とする処方ですが、基本骨格に桂枝湯を有するため、風邪にも応用可能です。

 翌朝、すっかり身体は楽になりましたが、鼻の症状だけ残っています。なんだか頭も重いし、こじれると副鼻腔炎になりかねません。脈は浮、数、実。これなら葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんいが良いでしょう。


 斯くして三人の風邪は治り、渡邊家は日常を取り戻すことができました。風邪は万病のもとといいますから、気をつけたいものです。みなさまもどうか、ご自愛くださいませ…。


 拙文に最後までお付き合い頂き誠にありがとうございました。願わくは、社会情勢が落ち着いて心の平和な生活が送れますように。



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