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知らない女 第一章 《小説》


知らない女 第一章

歓楽街に程近いマンションの一室
近くに川が流れてる
知らない女と眠ってる

目覚めると珈琲とパン
ベーコンエッグに僕の銘柄のタバコ

その女はとても優しい
この街の女じゃないみたい

昨夜は凄く悲しそうだった
女は仕事が終わり 男と飲みに行ってらしい
その日稼いだ金
四万円くらいあったかな
ハンドバッグから盗まれた
きっと彼奴が盗んだに決まってる

私がこんな仕事してるから馬鹿にしてる
好きで売ってる訳じゃ無いけどね
同情なんてされたくも無いけど
そう寂しそうに話してた
最低だよ あんな奴
そう言ってマンションのベランダから  
歓楽街のネオンを睨み話してた
僕は何も聞かず女の話を聞いていた

今日はどうするの
天気も良いよ 出かける?
そう聞いた僕に女は
嫌だ出かけないよ
知ってる人に会ったら嫌だもん 凄く嫌
そう答えた

部屋の中が女の全て
その中に僕は居た何も言わず何も聞かず
女のペットの様に
その部屋の片隅に

夕陽が沈む頃 また女は仕事に向かう  
綺麗に身支度を整えて

どうする 今夜?
そう聞く女

今夜は帰るよ そう答えた
少し寂しそうに僕に小さな鍵を渡してくれた

歓楽街の入り口で女とキスをした
女は手を軽く上げて
僕に微笑み 夜の街に消えて行った

僕は女の事を何も知らない 何も聞かない
女も僕の事を何も知らない 何も聞かない

知らない女と見たネオンの映り込んだ川の水面
綺麗な原色が歪んで見えた

もう秋が終わろうとしていた


続 知らない女 第一章

クリスマスの数日前
知らない女から連絡があった
どうやら仕事を辞めたらしい

クリスマスイブに会えないかって話だった
そして 年明けには実家に帰るってそう言ってた

両親にはOLやってるって嘘ついてるんだよ
実家帰って お見合いでもして
結婚しようかな

どうする そうなったら 泣く?
女はいつになく 機嫌が良くそんな事を電話で話した

クリスマスイブの夕方
女のマンションの前に車を停める
女は ごめんまだ準備出来てないから          
そう言って化粧台の前に座る

直ぐに振り返って
ねぇ面倒だから すっぴんでいい?
不細工だけど
そう言って少女の様に微笑んだ
僕は うん俺も化粧してないし不細工          
一緒だよ そう答えてしばらく笑ってた

高速で2時間くらい走った山の奥に高原があって
ライトアップしてるんだって 行ってみようよ

もうこの街とも さよならするから誰に出会っても平気だよ 
デート デート また少女の様に微笑む

山の方は雪が降っていて
高原のライトアップされた空間は幻想的でとても美しかった

女は天国みたいだねってそう言って
僕の手を握った
僕は握った手をコートのポケットに入れて温めた

天国で僕等は
雪の降る星空に向かって白い息を吐き出して遊んだ子どもの様に
ずっと ずっと
少女と少年の様に

知らない少女は少年の傍でずっと微笑んでいた

Photo : Free Pic

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