新入社員の転職志向の高まりに関する考察メモ
企業の人事セクションの皆さんとお話をしていると、今の40代以上のミドル・シニア世代と30代以下の若い世代では、キャリアに対する意識や考え方が大きく違うという話題が出ることがとても多いです。
多くの場合、そういう認識を生み出している最大の要因は、若い世代は「簡単に会社を辞めてしまう」という人事部の人たちにとっては、最大のショックでもある現象がエビデンスになっていると思われます。
それを裏付けるようなデータもいろいろとありますが、その一つとして東京商工会議所が毎年行っている新入社員の意識調査がいくつかのメディアで取り上げられていました。
その調査によると、「就職先でいつまで働きたいか?」という質問に対して、2024年度に「チャンスがあれば転職したい」という回答が「定年まで働きたい」という回答を初めて上回ったということです。
かなり以前から、「新入社員の3割は入社3年以内に辞めている」といわれている中で、何を今さらという印象もありますが、長年の推移が確認できる調査データで“逆転”したということが、それなりのインパクトを与えたのかもしれません。
転職志向の高まりと“ライフシフト志向”はイコールではない
今、50歳代以上の世代の人たちが社会にデビューした頃、新卒での就職は「結婚」になぞらえて語られることがありました。
“相思相愛”を理想として生涯を通じて“添い遂げる”ことを目指す「結婚」と“終身雇用”を前提として定年まで“勤め上げる”ことを目指す「就職」を同一視する感覚は、当時は、割と多くの人たちが“当たり前”のこととして語っていたものです。
そうした時代に社会に出た世代の多くの人たちが、一つの会社を定年まで“勤め上げる”ことを目指したことは確かでしょう。
それに比べて、最近の若い世代は、転職することを当たり前のことと考え、ためらわずに辞めていく。最近では、さらに退職意思を会社に伝えたり、事務的な手続きを本人に変わって行ってくれる「退職代行サービス」も急増しており、そうしたサービスを利用する若い世代に対する賛否も沸き起こっています。
さて、そのような事態が進行している中で、私がここで確認しておきたいのは、こうした若い世代の新卒時点での転職志向の高まりが、私たちが目指す「ライフシフト社会」への道筋とリンクした動きなのか?という点です。
結論を先に提示するとすれば、私自身は、こうした「チャンスがあれば転職したい」という意識の広がりが、一概に「ライフシフト志向」を裏付けるものではないと考えています。
そう考える背景とロジックを整理しておきましょう。
転職志向を高めている要因
まず、転職志向を高めている要因は何かという点から見ていきましょう。
転職志向を高めて最大の要因は、「新卒一括採用」という仕組みそのものにあると思います。
現代の日本の大学生は、大学を卒業するまでの限られた時間の中で、「どこかの会社に内定をもらうこと」を絶対的に強制されているといっても過言ではないでしょう。キャリア教育の実態としての目標もこの「いかに内定を獲得するか」という点にフォーカスしています。
需給バランスが「超売り手市場」になっているにも関わらず、少しでも「いい会社」に入りたいという想いを抱えた学生たちにとって、そのプレッシャーは、引き続き重くのしかかっているようです。
そして時代は、「VUCA度」を増しています。
先のことが見通せない時代において、社会経験のない学生が中長期的な視野で会社を比較検討し、辞めない決意を持って会社を選ぶなどということは至難の技でしょう。
もはや就職は「結婚」ではなく、「最初のボーイ(ガール)フレンド」選びのようなカジュアルなものになっていると認識した方が良いのかもしれません。
さらに、リクルートやビズリーチを始めとする転職情報サービスの活性化が若い世代をソワソワさせる要因にもなっています。
社会全体で“青い鳥症候群”を大量に生み出しているともいえるでしょう。
転職志向の裏に潜む、もう一つの若者の意識
さて、そうした転職志向が高まっている一方で、若い世代には、自分たちの親の姿を見て理解している裏の意識も存在しています。
例えば、若い世代の人たちに「将来、何歳くらいまで働きたいですか?」と質問をすると、意外と多くの若者たちから「え? 仕事って大体、60歳くらいまでなんですよね?」といった答えが返ってくることがあります。
これは、60歳定年を生きている親の世代を見て実感している社会のあり様をそのまま受け入れているということだと思います。
「人生100年時代」という言葉は誰もが知る言葉になりましたが、その超長寿社会を実感できない若い世代にとって、親世代のその先の「長く働く」人生をイメージすることは、なかなか難しいことなのでしょう。
この様に見てくると、現在の若い世代の転職志向の高まりは、会社に対する帰属意識の構造的な変化や最近、多くの企業が取り組んでいる「キャリア自律」「キャリアオーナーシップ」の掛け声に呼応したキャリア意識の世代的な変化というよりも、新卒一括採用の仕組み自体が生み出している状況と理解した方が実態に近いのではないかと思えてきます。
「人生100年時代」の新しい生き方・働き方の発芽は、転職志向の高まりという側面だけで感じることは出来ないのです。
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