見出し画像

小さなスキを共有できる人

「灯台下暗し」が好きだ。

遠くを照らす灯台の真下は暗い。
このことから、身近なことはかえって気づきにくいたとえとして使われることわざだ(ことわざか慣用句か迷ってしまった。間違っていたら優しく教えて欲しい。日本語は専門ではないので…)。

初めて目にしたのは、小学生の時に読んでいた青い鳥文庫の推理小説だったように思う。
本でどのように使われていたかは忘れてしまったが、メガネを頭に乗せた人間が「俺のメガネ知らない?」と聞くような軽妙さが好きになった。
いや、語彙の少ない子供が聞き慣れない言葉を使いたがる感覚で好きになっただけかもしれない。

昔から、THE 大爆笑、ウケ線ど真ん中の面白さよりは、ジワジワと響いてくるような軽い面白さの方が好き。
あまりのしょうもなさに、笑うのも恥ずかしくって、ニヤッと片頬だけで笑う。

メガネを頭に乗せた人も、寒いのに可愛らしくてニヤついてしまう。


初めての不登校は大学2年の前期だったと思う。

正確に言うと、家に居るとの母に見つかるから学校に行ってはいたが、講義にほとんど出ていなかった。
大学こそ、サボるもんじゃないなと思う。
赤点になっても追試はないし、落した単位は必ず取り直さなければならない。3年生の今、周りが卒業に必要な単位を取り就活に専念するのを横目に、私は後期も取れる限りの履修登録をする。

大学に入るまでも、学校行きたくないと思ったことは多々あったが、休まずにここまで来た。小学校、中学校はともかく、高校生活はとにかく平和で殺伐とした空気になることはなかった。

しかし、一番辞めたかったのは高校だったかもしれない。

高校はある大学の附属で、成績はトップでこそないもののそれなりに良く、日頃の成績で志望する学部に進学できることがわかっていたので、大学受験もセンター勢と比べれば苦労しなかった。

いじめもなかったし、幸い友人もいた。

何も問題なかった。

でも、辞めたかった。


きっかけは特にない。
ある出来事が人間の人生を大きく変えるようなことは滅多にない。大抵の場合は、気づいたらダメになっているものだ。
目の前にあるものがだんだんと見えなくなる、というより見えているのに気が付かない。まさに灯台下暗し。

私は、行きたい高校に通わせてもらって、衣食住に不自由はなく、成績も問題がなく、友人もいて、間違いなく幸せなのに不幸面することに罪悪感のようなものがあった。

「世界には自分よりもっと辛い人がいる」

しばらく学校を休みたいだなんて、言えるわけない。
全員が笑う話を探して、ストレートでどストライクなウケを取らなければならないから辛いなんて言ったら、母はきっと「あなたは恵まれている方だ」と言うだろう。

でも私は、何かを伝えようとすると必ず緊張してつっかえてしまうし、場合によっては声が震えたりもするので毎日のお昼休みや休憩時間がかなりストレスだった。見た感じ平和で全く問題ないことが分かっているからこそ余計にそう感じたのかもしれない。

誰かが面白いことを言えと言ったわけでもないのに。


いつから誰かと過ごす時間がストレスになったんだろう。
すっかり落ちぶれてしまった、大学2年生の私。

高校までどんなに頑張って学校に行っていても、バレないからと大学は休む私。結局休まず高校に通っても強くはならなかった。
ますます誰かと過ごす時間が辛くなっただけだった。

単位が取れていないことは、とても辛い。
でも、テスト前にインスタのストーリーでテストの情報を集めるほど落ちぶれてはいないことが少ししかない自尊心を支えてくれた。

むしろ今は、あの休みは必要枠だったと考えている。
サボった講義の時間、私はあるレポートを書いていて、それまで自分がうまく誰かに伝えることができなかった、人間関係に対する違和感や不快感を少し整理して誰かに伝えられるようになった。
その内容は今のところnoteに書く予定は無いが、もっと自分を大切にしようと思うようになった。

私のスキを否定する人たちと仲良くする必要はないし、私は自分のタイミングでスキを表現することができる。

未だにゼミナールのようなディスカッションが多い講義では声が震え、自然と涙が出る。なんなら昔は泣くほどではなかったのに悪化している。
それでも、劣等感に押しつぶされずに生きれるようになったのは、当たり前のことに気づいた、あの不登校があったからかもしれない。

大学での成績は決して自慢できるものではないし、常に勝つことを意識している人と違って負けた人生かもしれないが、少なくともこれからは「スキ」に素直な人生だ。

ちょっと寒くて、妙な軽さのある「灯台下暗し」のような小さなスキを誰かと共有することができる人生だ。


この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?