【怪談】夏だから「浄霊」という話を作ってみた~第二部~

第一部を終えて、いよいよ佳境へ!
第二部はお城の跡地を皮切りに更に深みへとはまっていきます。
この物語の結末はどうなるか、最後まで見届けていただけると嬉しいです。

序章、第一部を見てない方はぜひ初めから見てくださいね♪

第一章~異変~

「本日はいつものお仕事ではありません。皆気を引き締めるように。」
巫女たちの顔が引き締まる。
今回の仕事は舞衣だけではなく、複数人の仕事のようだった。

「今回のお仕事はとても危険ですので、離れたところにいてください。」
舞衣があきらに向かって避難をうながす。
「わかりました。頑張ってください。」
あきらは精いっぱいのエールを送るとその場を離れた。

(シャン、シャン)
巫女たちは錫杖を二回地面に叩くと浄霊の儀式を始めた。

儀式を始めてから、かれこれ一時間は経過しただろうか。
辺りは日が落ち始めていた。

「皆さん、準備が完了しました。」
「ここからが本番ですよ。覚悟は良いですか?」
「はい!」
巫女全員が気合を入れなおす。

今までは準備だったようだ。
本番はここから。いったい何が起こるのか、
遠くに離れているあきらにも緊張が伝わってくる。

更に一時間経過した頃。
「私…もう…駄目です…」
一人の巫女がそう言いながら倒れる。
「私も…」
一人、二人と倒れ、人数も半分になる。
「皆さん、もう少しの辛抱です。ここが正念場ですよ!」
舞衣も限界は近いようだった。

「何かがおかしい。」
そうつぶやいたのはあきらだった。
「なんであそこだけ霧が出てるんだ。」
あきらの目線の先には舞衣たちを包むかのように霧が覆っている。

(シャン、シャン、シャン)
どのくらい経っただろうか。
錫杖の音が聞こえた。どうやら浄霊が終わったようだ。
いつの間にか霧も綺麗に晴れている。

「舞衣さん、お疲れ様です。大丈夫ですか?」
あきらは足早に舞衣に近寄った。
「はい。ギリギリでしたが何とか浄霊をすることができました。」
「今日は疲れましたので帰ります。」
巫女たちは言葉少なめにその場を立ち去る。
あきらはかける言葉が見つからず疲弊した巫女たちを見送ることで精一杯だった。

第二章~あきら最大の取材~

数か月後、あきらはテレビ局に来ていた。
「始めまして、新聞社の水谷あきらと申します。」
「初めまして、君が今回の件の担当のあきら君だね。」
テレビ局のプロデューサーと呼ばれた男はあきらに挨拶をした。
今回の取材はテレビ局と合同で行う異例の取材のようだ。

「はい、よろしくお願いします。」
「今回はどのような取材になるでしょうか?」
あきらはばつが悪そうに聞いた。
「何、知らないの?しっかりしてよね。」
「君は日本一の霊力を誇る巫女って知ってるかい?」
プロデューサーはあきらに質問した。
「はい、以前取材したことがあります。しばらくは取材をしていませんが。」
あきらがそう答えると
「あぁ、そういえばそうだったね。なら話は早いね。その巫女が今度日本一飛び降りが多い湖の浄霊を行うそうだ。」
プロデューサーは資料を見ながら説明をする。
「今回は全国から霊力が強い人を集めての浄霊になる。まさに総力戦というわけだ。」
あきらの質問を受け付けないと言わんばかりに説明を続ける。
「そこで我がテレビ局とおたくの新聞社が合同で取材をすることになったというのが経緯だ。我が局としても大きな企画なので失敗は許されない。」
「お互い邪魔だけはしないようにしましょう。」
プロデューサーはそう言い残してその場を立ち去る。

あきらが唖然として立っていると、一人の女性に声を掛けられた。
「あれ?お兄ちゃん?」
声をかけたのは妹の奏(かなで)だった。

「なんでお前がここに!?」
あきらがびっくりしていると、奏が話し出した。
「お兄ちゃんが今回の担当だったなんてびっくり!」
「私が今回の取材担当をやらせてもらうことになったんだ!」
「私にとって今回大チャンスなの!この件が成功すれば憧れの本社勤務になるの!」
奏が息もつかぬ速さで話をする。
「あっ、ごめん。そろそろ説明しなくちゃね。」
「今回テレビ局側からは私を含めて3名、お兄ちゃん側はお兄ちゃん一人ね。」
奏はできた妹だと思う。自分と違って社交的だし、勉強もできる。何より愛嬌がいいので周りから愛されるタイプだ。
あきらは久しぶりに会う妹を見て改めて妹の凄さを実感した。
「説明ありがとう。取材は10月だね。よろしく。」
あきらはそういうとテレビ局を後にした。

第三章~舞衣最後の浄霊~

(シャン、シャン、シャン)
あきらは舞衣のところに来ていた。
舞衣は儀式の準備をしている。
「舞衣さんお久しぶりです。今回はよろしくお願いします」
あきらは舞衣に挨拶をする。久しぶりの対面で緊張しているようだった。
「お久しぶりです。今回は非常に困難な浄霊となります。今まで各地で選ばれた巫女がより霊力を高めるための儀式をしてきました。」
「今回はより連携を高めるために我が神社で最後の儀式を行うところです。」
舞衣はいつも以上に気合が入っているようだった。
それもそのはずだった。今回は誰も成し遂げたことがない浄霊なのだ。
「それでは行ってきます。」
舞衣はそういうと儀式へと向かった。

時は10月。すでに山は紅葉が始まっていた。
三人は橋の前に立っていた。カメラマンと巫女たちも後から追いつく。
「紅葉が綺麗ですね。」
カメラマンの一人がつぶやく。
「確かに紅葉は綺麗ですね。皆さんが安心してこの景色を見られるように今回は私たちの全てを掛けて必ず成功させて見せます。」
舞衣はいつものように笑顔で答えた。

「お兄ちゃん、舞衣さん、本日はよろしくお願いします。必ず成功させましょう。」
奏が改まって挨拶をする。
「はい、よろしくお願いします。巫女の皆さんも本日はよろしくお願いします。」
舞衣も続いてあいさつをする。
「舞衣さん、頑張って。」
あきらは言葉少なめに舞衣にエールを送った。
舞衣はあきらに笑顔を向けると、巫女の方に振り向く。
「では参りましょう。」
舞衣の言葉を合図に橋の上に全員が向かう。

橋の中央で舞衣が止まった。
橋の出入り口にはカメラマンと巫女が数名。舞衣を挟んで巫女が4人づつ陣を組んでいる。
あきらと奏は橋の中央、巫女の外側にいた。

辺りはすでに日が落ち、月の明かりと取材用のライトだけが頼りとなっている。
「始めましょう。」
舞衣が静かに言う。
(シャン、シャン、シャン、シャン)
静かな湖畔に錫杖の鈴の音が響く。
「綺麗な音…」
奏がボソッとつぶやく。
「あぁ、本当だな。」
あきらが答えるように言った。

巫女たちが儀式をしていると遠くのほうから雷が聞こえる。
(ゴロゴロ….)
月の明かりが消え、雨も降りだした。
あきらは心の中で頑張れ!と力強くエールを送った。
奏の顔も見ると同じ気持ちのようだった。

1時間、2時間と時間は無情にも経っていく。
すると辺りから不気味な声が聞こえるようになった。
「う”ぅ”ー.…あ”ぁ”ー…」
「何この声」
奏が震えた声で言った。
「ここは有名な心霊スポットだから聞こえてもおかしくはないよ。」
あきらは毅然とした態度で答えたが、正直体が震えているのが分かった。「大丈夫、きっと成功する。」
あきらは気を引き締めるように言った。
「うん。そうだね。絶対成功するよね。」
奏も気を引き締めた。

雷雨がいっそう激しくなり、体力的にも限界が来た頃、舞衣が叫んだ。
「今です!!」
舞衣が叫ぶと錫杖の音を大きく鳴らした。
(シャン!)
あれだけ激しく降っていた雷雨が止み、湖畔には静けさが戻っていた。

すると、湖から光が天に昇っていくのが見えた。
何十、何百、いや何千の光が天に昇っていく。

テレビ局のカメラマンもあまりの光景にカメラを回しながらも唖然と空を見上げていた。
「綺麗だ。」
あきらが心の底から発した言葉だった。

誰もが光に見惚れ、全てが終わったと思った時。
(バサッ)
「舞衣さん!」
あきらは倒れている舞衣に駆け寄る。
「終わりましたよ。成功したんです!」
あきらは舞衣を抱えて喜んだ。
「ちょっと!奏さん!何やってるんですか!」
カメラマンが後ろのほうで叫んでいる。
奏がどうしたって?とあきらが振り返ると、橋のフェンスをよじ登っている奏が見えた。
「奏さん、降りてください!」
カメラマンの男性二人でも引きずり下ろせないほどの力のようで、奏は上へ上へと少しづつ上っていく。
「あきらさん、まだ終わっていません。」
えっ!と舞衣のほうを振り向くと舞衣は話を続けた。
「まだ、終わっていません。ここの霊は強いんじゃない。数が多過ぎるんです。」
「浄霊出来たのもほんの一部、もう一度儀式を行います。」
舞衣はすでに限界であろう体を起こし、巫女に合図をする。
あきらは儀式を再開するという舞衣のもとを離れ、奏を助けに行った。
「奏!しっかりしろ!この取材を成功させて本社に行くんだろ!」
あきらはありったけの声で叫ぶ。
(シャン、シャン)
舞衣たちも儀式を始めたようだった。

「奏!戻ってこい!」
あきら、カメラマン二人の力もむなしく、奏は三人の手を離れてフェンスの上によじ登る。
フェンスの返しも意味を成さず、奏がフェンスの上に立った時。
(シャン!)
強く錫杖の鈴が鳴る。
「お兄ちゃん、ごめん。」
奏が自我を取り戻した時、無数の手が水面から伸びて奏を引きずり込んだ。
「奏ーーーーー!!!」
あきらは喉がちぎれるくらい叫んだ。
その声はむなしく湖畔に響いただけだった。

「あきらさん」
あきらはハッとして舞衣のほうを振り返る。
「舞衣さん、何やってるんだ!」
巫女たちが倒れている中、舞衣はフェンスの上に立っていた。
「浄霊は失敗しました。最後の手段は私が直接浄霊をするしかないんです。それも成功するかは五分五分。いえ、僅かな希望しかないかもしれないです。」
舞衣は覚悟を決めた顔であきらに告げた。
(あ"ぁ"ーー、お"ぉ"ーー、う"ぅ"ーー)
いつの間にか月は雲に覆われ、この世の終わりのような黒い光が辺りを包んでいた。
その光は水面からだとすぐ気が付いた。水面の見るとて来ようと何体も重なり、今にも手が届きそうだ。

「あきらさん、今までありがとうございました。奏さんのことすみませんでした。」
舞衣の足には無数の手がかかっている。
「舞衣さん、あなたまで行かないでくれ!」
あきらは舞衣のもとに走った。
「ごめんなさん、浄霊は失敗してしまいました。さようなら。」
舞衣は自ら水面に飛び込んだ。
(シャン!…カラン…カラン…)
錫杖が橋の上に落ちた後、水面がまばゆい光を放つ。
光が収まった時、月の明かりだけが辺りを照らしていた。

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第二部終了

第二部はこれにて完結となります。

まだ少し続きがありますので、第三部もお楽しみいただけると嬉しいです。

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