見出し画像

第117話 ヤイリギターはスペシャルだ!だって心を大事にしているから!【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

 
社長のおごりで、若いクラフトのみなさんとぼくは4、5人で焼肉を食べに行った。
 
そして焼肉に行く前、奇跡のようなことが起きた。
 
「SEGEさん、あのギターやっぱり持って帰りたいですよね?」
 
と案内役の方が言ってきたのだ。
 
「え?あのギターって、社長さんがほしいって言っていたぼくのギターですか?」
 
「はい。小池さんが社長に言ってくれたみたいで。小池さんが話したがってました。」
 
ぼくは小池さんのところにお話をうかがいに行った。
 
「君、あのギター思い入れあるんじゃない?」
 
「え、あ、まあ・・・。」
 
ぼくはドキドキしてなんと答えたらいいか分からなかった。
 
「本当はゆずりたくないでしょ?おれだったらそうだよ。社長に言ったんだよ。持って帰る?」
 
「あ、はい!ありがとうございます!」
 
「そしたら、少しメンテナンスしておくけど、中の木が割れているから、それを直すには中を開かなきゃいけないから、それはちょっとおすすめできないかな。」
 
「ぜんぜん、そこまでしなくいいです!」
 
ぼくが何よりもうれしかったのは、小池さんは本当にギターを愛し、そしてギターを弾く人を愛している職人さんであり、そういう職人さんが作っているギターをぼくも使わせていただいているということだった。
 
日本一のギター職人と言っても過言ではない方なのに、なんて暖かい方なんだろう。
 
「コレクションとしてギターを持つことではなく、それを弾いてくれる人のために作り、弾いてくれる人のもとにあるべき。」
 
そんな職人さんたちの理念がぼくの頭に聞こえてくるようだった。
 
目先の利益や大量生産を目指さない、ヤイリギターがヤイリギターである所以がここにあるのだと思えた。
 
だからこそ、日本を代表し、そして世界でも通用するギターなのだ。
 
(このギターは一生手放せないな。)
 
そしてぼくはまだ興奮がおさまらない中、焼肉に連れて行ってもらった。
 
「SEGEさんが来て焼肉くえてラッキー!」
 
とクラフトのみなさんは言っていた。
 
ぼくはもっとよそよそしい感じになるのかと思ったが、ギターを作っている方々とまさか一緒にビールが飲めるなんて思ってもなかったので、うれしかった。
 
それはクラフトのみなさんの人柄もあったのだと思う。
 
飲みながらぼくのギターの話でも盛り上がった。
 
「やっぱ、さすが小池さんだね。」
 
クラフトの方たちも小池さんを尊敬していることがわかる。
 
この方たちも小池さんの意志を継いでいくのだろう。
 
クラフトの方の中でも特に谷田くんはぼくの面倒を見てくれて、あとで寮の部屋にも入れてくれた。

ぼくは素朴な疑問もぶつけてみた。
 
「ライブとかはするんですか?」
 
「しますよ!」
 
作るだけでなく、もちろん自分で演奏したい人はするだろう。
 
でもギターを作るということは簡単な仕事ではない。こてこての職人の世界。
 
寮に入っているから自由もきかないだろうし、そんなにお金ももらえてなさそうだ。
 
ただ、演奏する心があることは、ある程度楽器作りにも大切なことなんじゃないか。
 
ぼくはそう思いたい。
 
そして、きっと演奏もしたいけど、作ることに専念しようと腹を決めた方たちもいるだろう。
 
そんなことを考えていると、ギターをより大切に使おうという気持ちが湧き上がってきた。
 
さて、焼肉の時に小野さんというクラフトの方が聞いてきた。
 
「SEGEさん、次はどこに行くんですか?」
 
「次は静岡ですね。」
 
「どこかあてはあるんですか?」
 
「特にないです。」
 
「静岡っていったら、浜松にヤイリのギターを使っている和尚さんがいるよ。」
 
「えー!!お坊さんがギター持ってるんですか?」
 
「この前メンテナンスで持って来たんだよ。面白い人で、お寺でライブ開いたりもしてるって聞いたことある。そこ行きなよ!」
 
「そうですね!ぜひ行ってみます。どうやって行くんですか?」
 
「正光寺っていうお寺。住所わかるっけなあ。あとで聞いておくよ。」
 
「ありがとうございます!次の目標ができてうれしいです!」
 
そして次の日。
 
ぼくの中では一つ疑問があった。
 
(YW230のギターは戻ってくるらしいけど、交換してもらえると言われていたテスト中のギターはどうなるんだろう。YW230だけになってしまったら、持ちこたえられるか心配だし。かといってどっちももらえるの?なんて聞けないし・・・。)
 
案内役の人に呼ばれた。
 
「ギター送るから手続きしましょう。ギターの中にあるラベルに、せっかくなんでSEGEさんの名前を入れますか?」
 
そういってぼくの前に持ってきてくださったのは、あのテスト中のギターである。
 
「あのー。YW230をもどしていただいたのに、いいんですか?」
 
「はい。このギターもいただいてください!小池さんに感謝してくださいね。」
 
(えーーー!!なんていい人達なんだーーー!!)
 
何とぼくは一円も払わずにギターを一ついただけたのだった。
 
しかも名前も入れてもらえるなんて。
 
ぼくはもうボロが来ているYW230を実家に送ることにし、そこからは新しいヤイリギターを持って出発した。
 
茶色い、キャラメル色なので、ぼくはそのギターを「キャラメル」と名付けている。
 
ラベルには、ちゃんとぼくの名字が銘打ってある。
 
さあ、ヤイリギターを持つ和尚さんに会いに行こう。 

つづきはまた来週

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?