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第107話 和歌山県白浜の無料絶景の秘湯「崎の湯」と梵字の贈り物【夢夢日本二周歌ヒッチ旅 回顧小説】

ヒッチハイク198台中140台目。河内長野市の美化の台から九度山まで。

こんな関西のどまんなかで巨人ファンの方だった。

141台目。橋本市の少し南の九度山から高野山まで。

軽トラのおっちゃんが乗せてくれた。

何を言っているのか聞き取れないのだけど、いいおっちゃんだった。

何とか聞き取れたことは、弘法大師がなんちゃらということと、真田幸村がなんちゃらということと、高野山は聖地だということ。

あと8月13日にお祭りがあるらしい。

さて、高野山に来たらやはりお参りしたいところだ。

一の端とか中の橋とかというポイントがある。

順路的には一の橋から中の橋へ、そして奥之院へとなっているようだ。

太い杉が立ち並び神々しい。

また、いろいろなお墓や会社の慰霊碑のようなものがたくさんある。

豊臣家墓所

奥之院で弘法大師様に挨拶。

(ん?雨?)

さて、どうするか。

この日の目標は、奈良県に入って龍神温泉を目指すことだった。

でもまだ奈良県に入っていない。

高野山は和歌山県なのだ。龍神温泉も和歌山。

龍神温泉は龍神村にある三大美人の湯だそうで、夢有民牧場で一緒だっただいちゃんのおすすめだからぜひとも行っておきたい。

でも、これから奈良県に入ったとして、もう一度和歌山に戻ってくるのは天候のこともあるし、ロスが大きい。

だったら今日は龍神温泉を目指して、次の日以降に奈良県に行くことを考えよう。

温泉にたどり着けば雨もしのげるだろうし。

そもそも奈良県は過去に2回行ったことがあるから特にこだわりはない。

ぼくは雨の中ひたすら歩いた。
 
龍神高野スカイラインン。
 
車が通らないのだ。
 
2時間ほどしてやっと1台車が来た。
 
そして停まってくれた。一発必中だ。
 
いや、もう1台も一緒に停まった。
 
大家族で2台で移動しているようだ。
 
「龍神温泉に行きたいんですけど。」
 
「うちらは白浜の温泉に行くんだけど、一緒に行く?」
 
(え?どうしよう。龍神に行けないけど・・・。ま、いっか。きっとこの流れに乗った方がいい。)
 
ぼくは誘われるまま、乗せてもらった。
 
142台目。
 
東尾さんファミリーは高知から来ていた。
 
後で分かるのだが、若い主人は住職をされていて、高知からはるばる聖所巡りをしにきているそうなのだ。
 
小さい子やご主人のお母さんも一緒に、毎年恒例で巡っているという。
 
今回は子ども6人を含む10人という大人数だ。
 
そのお母さんは、30年かけて日本を回ったことがあり、お遍路もやったことがあるという。
 
「うちは、障害のある子をひきとっているんですよ。」
 
家がお寺だからだろうか。いや、そういう方だからお寺をやれるのだろうか。
 
大家族で旅をしている様子からは、「誰でも受け入れますよ」というオープンで暖かい雰囲気が満ち溢れていた。
 
とても素晴らしい方に出会えたようだ。
 
ぼくもなんだか家族の一員として迎え入れられたような感覚があった。
 
車は龍神温泉を通り過ぎた。
 
白浜温泉に一気に向かって行く。
 
白浜温泉は名前の通り、海辺にある。
 
白浜には夜の8時頃に着いた。

その温泉はイメージと全く違った。

白浜にある「崎の湯」は海岸の岩場にあった。

施設とかがあるのではない。露天風呂だけだ。

岩場にむき出しの、自然のままの温泉なのだ。

その日は暗くてよく分からなかったが、翌朝その全貌が分かった。

一応仕切りが立てられて、着替えをするスペースがあり、そこを抜けると温泉がある。

そしてその向こうは海だ。

だから海辺の温泉に入るとオーシャンビューしか見えない!

これが無料で入れる。

この貧相とも豪華とも言える温泉は、かつて天智天皇が入ったこともあるという由緒ある温泉らしく、史跡になっている。

開業時間があるようで、朝8時から17時くらいまでオープンしてるそうだ。

着いた日ぼくらは温泉の駐車場にテントを張って、そこでみんなで野宿した。

東尾さんはテントを持っているので、こうして野宿しながら巡っているのだ。

翌朝、天気は引き続き雨だ。ぼくは雨の中だが最高の景色を眺めながらの一番風呂を満喫した。

雨もさほど強くないのでそんなに眺めを損ねない。

この旅17回目の湯である。

「SEGEさん、奈良は帰り道になるので奈良まで送りますよ。途中根来(ねごろ)寺というところに行くんだけどいいですか?」

「もちろんどこでも行きます!奈良で降ろしてもらえるんですね。ありがとうございます!」

ぼくらはテントをしまい、出発し、白浜から和歌山市、そして岩出市と、内陸に入っていった。

そこに根来寺はある。

途中見える和歌山の山々もなかなかいい山だった。

ぼくは九州に上陸した時、はじめて山のすごさに魅せられた。九州の山は緑が深く、角度のある大きな山が連なり、ものすごいパワフルだった。

それと似ているのが四国の山々で、でも四国の山は九州の山と同じように見えるけれども、とても静けさがある。

そして和歌山の山々もその九州や四国の山々と似ていて、とてもよかった。

地図で見ると九州から紀伊半島まで山が同じ連なりの中にあるのがわかる。

やはり仲間なのだ。

根来寺に着いた。この根来寺は忍者の里らしく、根来忍者というのがいたそうだ。

弘法大師の弟子たちが僧兵となり忍者となったという。

「ちょっと待ってて。」

東尾さんんはお寺の中で何か用事があるらしく、ぼくは外で待たされた。

ここが総本山だそうで、東尾さんたちは高知にあるこの宗派のお寺の方なのだろう。この旅の最終目的地でもあるようだった。

「SEGEさん、お待たせしました。あとは奈良に行くだけですね。よかったら歌を聴かせてもらえませんか?」

「いいんですか?お寺の境内ですけど。」

「大丈夫ですよ!」

ぼくは「sing a song」を歌った。

広々としたお寺の境内に声が吸い込まれていくのが気持ちよかった。

「ありがとうございます。いい歌ですね。」

東尾さんは何かを紙にしたため、祈祷をし、念を込めた。

「これはダルマ(達磨)のダンという字です。」

なんと念を込めた梵字をくださったのだ。

「いい歌を歌ってくださいね。」

「ありがとうございます。どこにしまっておこうかな。歌とともにいつもあるといいんんだけど・・・。この中でもいいですか?」

「いいですね。」

ぼくはその梵字をギターのホールの中に入れた。

そしてぼくのギターには今でも梵字の書かれた紙が御守りのように入っている。

根来寺を出て、五条、そして大和高田へと進み、ぼくは奈良県に入った。

「どういうところで降ろすのがいいですか?」

「道の駅があれば一番ありがたいです。」

大和高田の近くに道の駅があり、東尾さんはぼくをそこで降ろしてくれた。

道の駅での野宿なら快適極まりない。

「SEGEさん、またね。四国の我が家にも来てくださいね。」

「はい。ありがとうございました!」

つづきはまた来週

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