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閑話休題(8)~留学するなら北方?南方?私の私見

ここ数年続いていたコロナ規制による鎖国状態を解いた中国。「中国留学のチャンス」ととらえている学生さんも多いのではないでしょうか。

これまで中国政府は、中国語の習得を希望する外国人学生に対しては「オンライン留学」という形で門戸を開いてきました。ただこの「オンライン留学」というものに対しては何一つメリットを見いだせないと私自身感じていましたから、今回の「開放」はとてもよかったと思っています。

さて、中国留学が再開した現在、やはり触れておかなければならないと私が考えている問題があります、それは今も昔も中国留学の永遠のテーマになっている「留学するなら南方がいいのか、それとも北方がいいのか」という問い。

そこで今回は、私自身の経験で話せる範囲で、「北の大学に留学するメリット」「南の大学に留学するメリット」を話していきたいと思います。

◇◇

私が中国に留学したのは90年代でしたから、今とは時代が違うと言えますが、共通して語れるところはあります。それはやはり一番大事な部分である「言葉(標準中国語)を学べる環境であるかどうか」でしょう。

実は私は中国に留学する前に、何回か旅行で北京・天津や中国の東北3省を訪れたことがあります。二外(北京第二外国語学院)にも何回か滞在し、街中の人たちや現地の学生と交流して自分の中国語を試したこともありました。

そこで感じたのは「自分が勉強した中国語とかなり違うな」という違和感でした。「r」などの巻き舌音の多用や北方特有の言葉など、中国語の教科書で多少知識は入れていましたが、想像以上のものでした。ある程度自分の中国語に自信を持っていたので自信喪失になったのも確かです。

その後日本に帰り、中国に留学しようと思い立った段階で、自分も「北の大学か」「南の大学か」という選択肢を迫られました。

自分は当時「中国語(北京語)」を勉強するだけで終わりたくないという強い気持ちを持っていました。

加えて私は当時、上海以南の人たちは母語が北京語ではなく、学校で勉強して標準中国語を習得するということを既に知っていました。このことから、「学校で学んだ標準的な中国語」を街中の人も話してくれるのではと考えました。

しかも日本の大学で学んだ中国語の先生(北方人)の態度が、「教えてやっている」といった上から目線で、私自身いい印象は持てませんでした。

大金を払って留学するからには中国語だけではなく学べるものすべて習得して帰りたい。その過程で、ビン南語(台湾語)も学べるアモイ大学に行くことを思いついたのです。

南方に留学すると決断した時は自分の判断に自信が持てないときもありました。行く前は「南方の中国人が話す中国語は『不标准』だし、南方で中国語を勉強するのは不向きだ」と散々脅かされていました。

しかし南方(アモイ)に行って留学した後は、そのような心配は消し飛びました。現地の学生や街中の人たちは、現地人同士で話すときはたしかに現地語ですが、私と話すときはある程度標準的な中国語を話してくれました。もちろん留学先の学校の先生も、遜色ない標準的な中国語で私たちに教えてくれました。

また、アモイに行ってから気付いたことがあります。それは「標準中国語は突き詰めてみれば彼らにとって母語ではない」という感覚。

ですから多少中国語を間違えたとしても相手も気遣ってくれますし、自分自身も「この人たちもネイティブではないから」というある種逃げ道のような考え方(悪い言い方をすると言い訳ですが)を持つことができ、劣等感なく果敢に現地の人に自分の中国語をぶつけることができました。

結果私の中国語は飛躍的に伸びました。今も私の選択に間違いはなかったと思っています。

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では北方の大学に留学するメリットは何か。

北京一極集中の中国において、いわゆる「標準的な中国語」を学べる最適な場所は北京だとされています。しかも「少なくとも」北京の有名大学では、中国語の標準的な発音を学べる授業が系統的に確立されています。

私は中国に留学する時点で中級程度の中国語能力を既に身に着けていました。しかし自分の中国語がまっさらな初級であるうちは、留学生に対する教育の経験が豊富な北京の大学で、「標準的な中国語」をみっちりと基礎から勉強するのはとても効果的だと思っています。また、そのような明確な目的がある人ならなおさら北京に留学するほうがいいでしょう。

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一方で中国人の全員が全員北京の「標準的な中国語」を話すわけではありません。陝西には西北なまりの中国語を話す人がいますし、四川には四川なまりの中国語を話す人がいます。福建には福建なまりの中国語を話す人がいますし、広東には広東なまりの中国語を話す人がいます。

中級以降になると、これらのなまりをしっかり聞き取れるようにするのも実は中国語を習得する上でとても大事になってきます。

しかしこれらの人の話すなまりは北京にいては接する機会をほとんど得ることはできません。確かに北京は中国の首都ですから、国内各地からやってくる人も多いでしょう。

しかしこれも北京周辺の省・自治区・直轄市出身者が大半だったりします。文化圏の違いもあり、上海以南の地域、特に広東福建から北京に来ている人はあまり見かけない印象です。

幸いなことに、中国では北京東北至上主義になっていることもあり、テレビ・ラジオは北京や東北なまりのテレビドラマが日々沢山放映されています。なので北京や東北なまりに対応しようとするならば、どこでも比較的簡単に勉強できます。

しかし、広東福建なまりのテレビドラマはそうそうありません。しいて言うならばCCTVのインタビューで香港の高官がインタビューを受けるときぐらいでしょうか。

ですから南方人の中国語に接するには自分で南方に行って住んでみて慣れるしかないのです。

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このことから、総括するならば、「中国語の発音の基礎をしっかり学びたいなら北方」「基礎を学んだ上で、対応力をしっかり養いたいなら南方」と言えるのではないでしょうか。


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