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閑話休題(14)──中国の人たちは変わったのか

前回は私自身の中国に対する思いを自分目線で語りました。ならば、実際私が見てきた40年近くにおいて、中国と中国の人たちの心境は変化したのでしょうか。

これは実際本人たちに聞かなければ分からないのですが、私自身が客観的に見てきた印象から、独断と偏見ではありますが中国の人たちの「意識の変遷」を少し語ってみたいと思います。

私自身は大きく分けて、80年代~90年代までの「猫も杓子も」期、00年代から10年ぐらいまでの「自信みなぎる」期、10年から18年ぐらいまでの「自意識過剰」期、18年から現在までの「自信喪失」期の4時期にわけて中国の人たちの感情を考えています。


「猫も杓子も」期

80年代初頭から90年代終わりまでの改革・開放からの20年近くは、中国国内挙げて「猫も杓子も」商売の時期でした。経済発展目覚ましい時期でしたから、当然皆が皆頭の中に「どうやってお金を稼ぐか」という命題が何より最優先の時代でした。

当然ながら日本や日本人に対する意識も、経済発展の先人として学習の対象でしたし、敬慕の対象でもありました。89年には天安門事件が発生しましたが、日本は中国への支援をいちはやく表明したこともあり、当時の日本に対する感情は「一般的に」良好だったと私は感じています。また、目立った反日デモなどもなかったと記憶しています。それもこれも当時の中国の人たちは「猫も杓子も」商売が最優先だったからとも言えます。

「自信みなぎる」期

そんな時代でしたが、90年代終わりから00年代に入り、10年代までは中国人の自信を高める国家的な出来事がどんどん続きます。まずは97年、99年の香港とマカオの返還。そして08年の北京五輪、10年の上海万博の開催成功のほか、01年の世界貿易機関(WTO)加盟など「世界の一員として認められた」イベントが目白押しでした。

つまりこの10年間は中国の人たちの「中国人としての自信」が最高潮に達した時期でもあったと言えます。「日本・アメリカなど何するものぞ」という気持ちが芽生えたのもこの時期だと思っています。実際に激しい反日デモも05年からありましたし、反日的な動きも幾つかありました。

「自意識過剰」期

このようにして、世界の大国としての地位を得た中国ではありましたが、中国の人たちは内心は、「俺たちは本当に世界に認められたのかどうか」幾らか疑心暗鬼だったと私は思っています。

北京五輪の聖火リレーの過程で、欧州では中国に対する抗議活動が頻発しましたし、その様子を中国メディアが批判的に報じていたも中国の人たちの疑心暗鬼の思いを強くしたに違いありません。その葛藤もあったでしょう。

またおりしも日本では反中・反韓感情が00年代に入ってから、高まっていましたが、そのことを中国の多くの人たちは理解していました。小泉首相から常態化した閣僚の靖国参拝なども彼らの心を逆なでしたのは想像に難くありません。

「俺たち世界が認める大国になったはずのに、日本の奴らは」「先の大戦で多くの同胞を殺したくせして生意気だ」といったマイナスな感情が彼らの中にもたまっていったことは容易に想像できます。

かれらのこのようなマイナスの感情が一気に噴き出したのが尖閣での船舶事件でした。多くの中国の人たちは「中国の領土であるはずの釣魚島で狼藉を働いた日本人」「経済的に強くなった中国は昔とは違う。日本を懲らしめるべき」という論調が中国人の間に広まりました。

さらには中国のGDPが日本を抜いたニュースが伝わり、多くの中国人はその思いを強くしたに違いありません。

このようなマイナスの感情をためる一方で、彼らは日本を含めた世界が自分たち中国をどう見ているか異様に気にするようになったのもこの時期だと思います。

インターネットが発達し、中国の内情があらわになるにつれ、自分たちが普通と思っていた日常生活におけるさまざまなマナー違反行為などが世界に向けてあらわになり、非難が集中することもありました。そのような事情を理解して、世界に合わせようと考える中国の人たちが増える一方、「中国人としての自信」を高め、そのような批判をする人たちを「中国に非友好的な人たち」として処理する中国人も増えていった気がします。

「自信喪失」期

そうしているうちに10年代後半になると、中国経済も斜陽の兆しが見えてきます。香港の民主化デモによる世界の中国に対するイメージダウンから始まり、コロナ期のゼロコロナ政策、米国の中国に対する経済的な引き締めを経て、中国経済の落ち込みが決定的になりました。一部業界を除き、中国の若者の就職率はありえないほど落ち込みました。

今の中国の経済・社会状況は10年代以前と比べてもお世辞にも「いい」とは言えない状況です。

にもかかわらず、今も中国はあの2000年代~10年代の経済発展目覚ましいときと変わらないと幻想を抱いている印象です。

特に政府内部の人間、中国政府を信じている人ほどその傾向が強いといえます。いや正確に言えば内心は分かっているのでしょうが、表向きは強がっている。そうとれます。これは「自信喪失」から来るものだと私は感じています。

だからこそ「愛国」というものに走っているのでしょう。ちょうど00年代に日本で愛国心が高まったのと同じような傾向とよく似ています。また、最近習近平政権が推し進めている愛国主義教育もこの傾向をエスカレートさせているように私は感じます。

◇◇

これから、中国の人たちの意識はどこへ向かうのでしょうか。既に国を脱出して日本など外国に向かっている人も少なくないと聞きます。

そんな中国の人たちとわれわれは今後どう付き合っていったらいいのでしょうか。私は、蘇州のあの事件を経験した後でも、中国の人たちの「良心」はまだ残っていると信じています。

日本が通ってきた道と同じ道を歩むならば、中国の経済が上向く時もいつか来るはずです。愛国心という頼りがいがない物に頼らなくてもいい日が来ることを祈って。



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