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同義語・類義語をどう処理するか

中日の翻訳で気を付けなければならない点を挙げるとしたら。私なら「類義語を正しく処理すること」と答えます。

中国語は「表意文字」の言語と言うだけあって、語句の文字が一つ違うだけで、いろいろな違った意味合いを語句に込めることができます。そのことについては以前のnoteで「关心、关切、关怀、关注」の語句の意味を比較することで、説明しました。

そこで今回も一文字で違ってくる同義語・類義語を見ていきたいと思います。皆さんが文章の読解や翻訳の際にお役に立てられれば幸いです。

格局、局面

皆さんはこの二つの語句をどう訳しますか。こうやって2つ並べると「ああ、違うんだな」と認識できるのですが、多くの場合は単独で出てきます。そして「格局」が出てきたときに、「局面」と訳してしまう人が多いのですが、これが落とし穴です。

辞書を引いてみるとわかるのですが、「格局」を「局面」と訳せる場合もあります。しかし「枠組み」「構造」と訳すことが多いです。特に、ニュース記事で「格局」が出てきたときはほぼほぼ「枠組み」と訳しています。

局部、部分

どちらも「一部」という意味ですが、使われる場面に大きな違いがあります。「局部」は地域全体の中の「一区画」(例えば「东京的局部地区」・・・など)という意味合いであるのに対し、「部分」は量的な全体の中の「一部分」(例えば「只有部分学生参加示威」・・・など)という意味合いに使用されます。

协议、协定、 安排

协议と协定は混同されそうなのですが、明確な違いがあります。「百度百科」の定義によるとこうなります。

协议:交渉、協議を経て策定された、双方共に承認し、共に遵守する文書

协定:国と国の間で、ある分野の具体的な問題を解決するために策定した条約

この定義を比較して考えてみると、「协定は国と国の間で結ばれた」「条約を始めとした公式文書」である一方、「协议は協議を経て策定された文書であって」「国と国の間だけとは限らない」と判断できるでしょう。

ここから、协议は「取り決め」「合意」と訳すのが一番しっくりきます。

一方で定義にある通り、协议は「国と国の間ではない」「個人間(組織間)で合意した取り決め」の場合にも使用されます。

例えば「离婚协议」などはどうでしょうか。もちろん「離婚取り決め」とも訳せるでしょうが、「離婚協定」とした方がより日本語っぽくなります。

このため、「协议」は場面、場面に応じて「取り決め」「合意」「協定」と臨機応変に処理すべきだということが分かります。

対して协定は「国と国の間の条約」ということで、そのまま「協定」と訳して差し支えはないと私は考えます。

そして、、最後に残った「安排」ですが・・皆さんはこれをどう訳しますか?

辞書などで見つけられる基本的な訳は、「段取り(する)」だったり、「予定」だったりします。

ただ共同声明やコミュニケで出てくる「关于~的安排」に、そのまま「段取り」という訳を当てると、しっくりした日本語文にはならないことが多いでしょう。

そういう場合に私は「取り決め」という訳を当てています。理由は「安排」の英訳が「arrangement」だからです。「arrangement」は「取り決め」と日本語訳できるのでそれを採用しています。

このような「中国語→英語→日本語」といった英語経由で日本語訳するテクニックは、「发展→development→開発」といったようにさまざまな場面で応用できます。ぜひ覚えておくといいでしょう。

要求、请求、央求

これもよく見られる同義語です。どちらも「求める」という訳ですが、求めている人の心理状態に大きな違いがあります。

つまり「要求」の場合、求めている人の心理は求めている人と対等、または上から目線であるケースが多いのです。つまり「要求する」そのままですね。これに対し、「要求」→「请求」→「央求」の順で、求める人がへりくだっていきます。一般的な訳としては、「请求」=「求める」、「央求」=「求めを請う」となります。

そして、、ニュース翻訳者目線でいうと「请求」は別の訳を用意しなければならないときもあります。例えば人事記事などで「辞职」「请求」と来た場合。

これは直訳して噛み砕いて言うならば、「私が」「辞職することを」「あなたに」「求める」という意味です。でもこれだと意味が分かりにくいですよね。

なので、私はこういう場合、「辞職の申し出」「辞職を申し出る」と訳しています。こうすればすっきり意味が通りますよね。

救助、救援

この救助と救援、日本語と中国語で同じような意味に見えて「微妙に」異なります。このあたりのニュアンスをしっかり押さえておくことは、中日翻訳をする上でとても重要です。この点については私の以前のnoteでも説明しましたが、注意すべき重要な点だということで、ここで再度説明したいと思います。

日本語の「救助(きゅうじょ)」は、災害現場や事故現場の第一線で人をがれきから救い出すという意味に用いられるのが一般的であり、医療現場や後方支援の文脈では余り用いられません。つまり英語で言う「Rescue」の意味合いと考えられています。

しかし中国語の「救助(Jiu4Zhu4)」は、医療現場や後方支援の文脈でも用いられる場合が多いと私は感じています。さらには「医疗救助(Medical Aid=医療扶助・医療支援)」「社会救助(Social Assistance=社会扶助)」など社会保障や民生の文脈でも用いられます。この場合は間違いなく日本語の「救助」と対にはならないでしょう。

では「救援」はどうでしょうか。日本語の「救援(きゅうえん)」は後方支援の場で用いられることが多くなっています。災害現場や事故現場で支援するという意味合いで用いられることもあるでしょうが、少なくとも人を「救い出す」というニュアンスでは用いられません。

それに対し、中国語の「救援(Jiu4Yuan3)」は中英辞典で引いてみると「Rescue」という言葉を目にすることができます。つまりこの場合は日本語では「救助」の訳が対訳としてつけられることになるでしょう。

というわけで整理してみるとこうなります。

中国語の意味-------------日本語の意味

救援(Jiu4Yuan3)   救助(きゅうじょ)

救助(Jiu4Zhu4)   救援(きゅうえん)、扶助(ふじょ)、救済(きゅ 
           うさい)

◇◇

どうでしょうか。このような同義語・類義語、間違えやすい言葉はこのほかにもたくさんあります。これからも紹介していきたいと思っています。


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