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【詩】サイダーと麦わら帽子

一人で麦わら帽子を編む

太陽は空の一番高いところ
辺りには木の一本も生えていない

だたっ広い草原の真ん中
切り株の上

時折拭く風すら生ぬるい
火照った肌はそれすら喜んでいた

何時間も何時間も何時間も
一人で麦わら帽子を編む

いつもだったらすぐに投げ出してしまう

だけど太陽が動いてくれない
時間が世界を引きずり回すのをやめてしまった

水を飲もうとしても
喉の手前ですぐになくなってしまう

もう何杯も飲もうとした空のコップ
このコップはいつからそこにあったのか

泣きたくても乾いた体では泣けない
”苦しい”は乾いた喉に張り付いたまま

朦朧としながら麦わら帽子を編む

君がいた夏もこれだけ暑かった気がする
時間は進むのに君は泣けないまま

ある日夜が君を連れて行った
僕だけの朝がやってきた

泣きてくて麦わら帽子を編むのか
麦わら帽子を編むから泣きたくなるのか

もう自分の手が動く理由さえわからなくなった

カラン

音を立てたのはあの日の姿の君だった
透明なグラスには氷とたっぷりの炭酸水

それを手に取り飲み干した
甘い、これはサイダーだ

サイダーの代わりに君は僕の手から
麦わら帽子を奪い取る

あと少しで完成する麦わら帽子は
ツバが少し欠けている

帽子を被って泣き出す君
それ見て僕も涙を流した

夜が来る前

切り株の上

あるのは溶けた氷のグラスと欠けた麦わら帽子だけ


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