社員数が半年で2倍になったSecureNaviが、バリューを見直した理由
こんにちは、SecureNavi株式会社 CEOの井崎です。
SecureNavi株式会社は2024年の上半期において、社員数が27人から58人とほぼ倍増しました。この急激な組織拡大に伴って、解かなければならない課題は引き続き残っているものの、数字上は、組織成長の壁とされる「30人」や「50人」の壁を一気に突き抜けた形となりました。
この急激な組織成長の背後で、実は、当社のカルチャーを支える「バリュー」の抜本的な見直しを行っていました。2024年4月、私はCEOとしてバリューの見直しを決定し、その後3ヶ月間にわたる見直し作業を行いました。
バリューは、会社のカルチャーを形作る、非常に重要な要素です。私は「企業文化は戦略に勝る」という言葉を信じており、優れた戦略よりも企業文化の醸成が重要だと考えています。また、バリューはなにより「社員の皆さんが気持ちよく働けるためにあるもの」だと考えています。バリューは社員のために存在するものであり、経営者や株主、お客様のためではありません。これらの基本的な哲学に基づき、今回の見直しを行いました。
これまでのSecureNaviのバリューは3つでしたが、今回の見直しで6つに増え、さらに、Do(いわゆる「行動指針」)が31も追加されました。組織が大きくなるにつれ、一般的には指針をシンプルに保つことが多いですが、当社ではあえてバリューの文面を大きく膨らませ、行間を読む必要がある表現にしないという選択肢をとりました。
この記事では、そんなバリュー見直しの経緯と、その詳細についてご紹介します!
旧バリューの紹介
はじめに、3つの「旧」バリューをご紹介します。
なぜバリューを見直すことにしたのか
約2年前、当時8名だった社員全員で、合議制に近い形で上記の旧バリューを策定しました。詳細については、下記の記事をご覧ください。
その後、社員数が増加する中で、旧バリューは使い勝手が悪くなり、本来のバリューの役割を果たすことが難しいケースが多々発生しました。様々な問題がありましたが、特に顕著だったのが、以下の2つの問題です。
1つ目は、合議制に近い形で決定したために、1つのバリューに様々な要素が詰め込まれてしまい、当時在籍していたメンバー以外のメンバーが使いにくかったことです。3つのバリューのうち、「TRUST TEAM」と「HIGH PERFORMANCE」は社内の会話やSlackで高頻度で利用されていましたが、実は「HUMAN CENTRIC」はほとんど使われませんでした。その理由は明確で、「HUMAN CENTRIC」に含まれる内容が複雑すぎて、何が重要なのかが明確でなかったからです。成長や失敗経験、権限委譲、情報の透明性など、重要な要素がすべて「HUMAN CENTRIC」に含まれていたために、理解するのにコストが必要で、日常的にカジュアルに使うには適していませんでした。
2つ目は、組織拡大に伴う多様性の考慮が不足していたことです。創業初期には、私自身は「スタートアップは、プライベートを犠牲にしてでも全力で働く場所だ」と理解していました。そのため、旧バリューには「個々人の能力の成長が正義である」が暗黙の了解事項として、様々な箇所に組み込まれていました。しかし、CEOとしての経験を積む中で、そして組織が50名を超える規模に成長する中で、この考え方に固執することが、組織の多様性や個性の尊重を妨げていることに気づきました。このため、会社の規模に合った多様性を重視したバリューへの見直しが必要となりました。
これらの問題を解決するために、バリューの見直しを実施しました。
バリュー見直しのゴール
今回のバリュー見直しの最終ゴールは、以下の3点に設定しました。
バリューを決めること
まず、従来の「TRUST TEAM」「HUMAN CENTRIC」「HIGH PERFORMANCE」に該当する具体的なバリューを再定義することです。これらをそのまま維持するか、変更するか、さらにはバリューの数を増やすことも検討しました。バリューに紐づくDoとDon’tを決めること
SecureNaviの旧バリューには、DoとDon’t(バリューに基づいた「すべきこと」と「すべきでないこと」)の明確な指針が記載されていませんでした。そのため、バリューを日常の行動に反映しづらいという意見がありました。DoとDon’tを具体的に書くことについては賛否両論がありますが、SecureNaviはフルリモートの会社であり、ノンバーバルではなく言葉を通じて想いを伝える文化があります。行間を読み、言語化できない思いを共通認識にするのは難しいという立場です。そのため、バリューの具体的な解釈を個々の判断に任せるのではなく、明確に言葉で表現することが重要だと考えました。「バリュー」に代わる名称を決める
最近では「バリュー」という言葉に代わって「行動指針」や「ワークスタイル」といった表現を使う企業が増えています。私自身は、言葉遣いに特別なこだわりはありませんが、なによりも社員の皆さんが理解しやすい表現を選ぶことが重要だと考え、「バリュー」に代わる言葉も検討しました。
バリュー策定にあたり重視したこと
今回のバリュー見直しにおいて最も重視したのは、「バリューは、今いる社員の満足度や働きやすさを高めるためにある」という考え方です。SecureNaviにとってのバリューは、経営者が理想とする組織の姿を描いたものではありません。また、魅力的な会社に見せるための採用広報に使うことや、投資家向けの企業価値向上を意図したものでもありません。この哲学を、一貫して貫くことを心がけました。
この考え方に至った背景には、SecureNaviの「人事ポリシー」があります。SecureNaviでは「個人の利と会社の利を両立させる」ことを、とにかく重視しています。この考え方は、互いに自分の利を主張するためではなく、相手の利を尊重するために存在しています。会社としても、個人の利を尊重することが結果的に会社の利に繋がると信じています。そのため、バリューの策定においても、短期的な理想の姿を定めて描くのではなく、今いる社員が気持ちよく働ける環境をどのように作るかを重視して、ボトムアップで決定を行いました。
バリュー見直しのプロセス
今回のバリュー見直しにあたっては、上記の理由から、私は裏方に徹し、アンケート設計や情報集約、座談会の企画などに取り組みました。具体的なバリュー見直しのプロセスは以下の通りです。
1.アンケートの実施【1回目】
バリュー見直しは、社員へのアンケートから始まりました。ここでは、社員の皆さんのこれまでの社会人経験を振り返ってもらい、「Do」と「Don't」について意見を集めました。
アンケートを行った時点で、私を除く社員数は48人でしたが、たった数日で44人(およそ91%)から回答をいただきました。これは社員の皆さんのバリューへの高い関心を示すものであり、とても喜ばしい結果でした!
44人から集まった Do / Don't は、なんと408件... これらを気合でMiroの付箋でまとめていきます。
全ての意見を付箋に書き起こしたあとは、類似の付箋をまとめ、グルーピングを行いました。このタイミングで、 Do / Don't の文言の仮案を作りました!
2.座談会の実施
次に行ったのが座談会です。Miroのボードを共有しながら、アンケートだけでは拾いきれない声や、アンケート結果を見た感想や意見を伺う場として設定しました。
合計3回の座談会で、53件の意見が寄せられました。これらの意見は全てMiroのコメントにまとめ、全員が確認できるように整理しました。
実は、この座談会をきっかけに一つの方向転換がありました。それが、「Don't の記載をやめる」としたことです。一般に Do / Don't はセットで記載されることが考えられることが多く、すべき行動、すべきでない行動の両方を記載することで、バリューを体現する具体的な行動をよりイメージしやすくなります。
しかし、座談会では「Don't が必ずしも悪とは言えない」との意見が出ました。例えば、「落ちているボールを拾う」という Do に対して「与えられた仕事だけに取り組む」という Don't があった場合、時には与えられた仕事だけを全力でこなすことが必要となるシーンもあり、Don't の記載が暗黙的にそれを妨げてしまう可能性があるといった指摘がありました。さらに、「Don't が全面に出ると、堅苦しい学校の校則のように感じられる」「やってはいけない行動より、やるべき行動を前面に出す方がSecureNaviらしい」との意見もありました。
個人的にも、Don't を記載することで、会社のためにやむを得ず Don't な行動を取った人を評価できなくなり、逆にその人を、Don't を盾として恣意的に糾弾できてしまう可能性があると感じました。ある社員からは「Don't は日本人にはまだ早いのでは」といった声もあり、結果として Don't は記載しない形となりました。
座談会後、意見を参考にして文言の修正を行い、最終的に「6つのバリュー」と「33のDo」に整理しました。
3. アンケートの実施【2回目】
最終決定の前に、2回目のアンケートを実施しました。これは、「この Do が採用されたら働きやすいか」という視点で、1つ1つの Do を評価してもらうためです。繰り返しになりますが、SecureNaviのバリューは経営者のためでも株主のためでも顧客のためでもなく、社員の皆さんのためにあります。新しいバリューが設定されることにより「働きやすくなる」必要があり、逆にバリューが設定されることで「働きにくくなる」ことは、決してあってはいけません。
アンケートの結果をもとに、「働きやすくなりそう」という声が多かったものを選抜し、その後ワーディングの調整を行いました。このアンケートでは、Slackでの呼びかけに対し、52人中48人が回答してくれました(リマインドは一度も行わずに、この回答率でした!)。
多くの場合、最終決定前のアンケートというものは、既定路線の案を支持する証拠を集めるだけになりがちです。しかし、今回はアンケート結果を踏まえ、明確に2件の Do を廃止(不採用)としました。採用されなかった Do は「いつでもご機嫌でいる」と「失敗は仕組みのせい」です。「いつでもご機嫌でいる」は、機嫌というのは人の個性やアイデンティティに関わる部分であり、会社がそれを管理するのは適切ではないという意見や、ご機嫌でいることが出社においてプレッシャーになる可能性があるとの声があり、不採用となりました。「失敗は仕組みのせい」については、個人へのフィードバックがしにくくなったり、自責の思考が薄れる可能性があるといった懸念があり、不採用となりました。
アンケートには自由記述欄もあり、なんど137件のコメントが寄せられました。多忙な中、意見を寄せてくれた皆さんには感謝しかありません。
ちなみに、アンケートの最後に「バリュー」に代わる言葉についても尋ねましたが、「バリュー」という言葉が大多数を占めたため、特に言葉の変更は行わないこととしました。
4. バリュー決定
その後、いただいた意見を基に微修正を行い、すべての意見を社内のNotionにまとめ、回答を記載しました。
こうして決定したのが「6つのバリュー」と「31のDo」です。社員一人ひとりの想いから帰納的に作り上げられた新しいバリューは、「SecureNaviらしさ」が存分に表現されていると感じています。これらのバリューは早速社内のSlackでemoji化され、活用が始まっています!また、人事評価での利用や、毎週バリューに沿った行動をピックアップして称賛する「バリューピックアップ」での運用も開始されています!
新バリューの紹介
SecureNaviの新しいバリューがこちらです。Do を含めると非常に長いものになってしまいましたが、弊社はフルリモートで、かつ毎月新しいメンバーが続々と入社してくる環境です。バリューを曖昧な表現にして行間を読んでもらうのではなく、多少冗長でも明確に言語化して表現できたことは、大きな成果だと感じています。
これらのバリューは、暗記する必要は一切ありません。上長との1on1や、目標設定のとき、日々の振り返りのタイミングなどで確認し、少しずつバリューを体現した行動が増えていくような、そんな活用方法にできればと思っています!
最後に
SecureNaviは、情報セキュリティのSaaSプロダクトを提供している会社です。世の中にSaaSビジネスが普及し、SaaSを提供しているだけではオリジナリティが出しにくくなる中で、長い間、私たちの会社の「本当の強みはなんだろう」といった問に、個人的にずっと向き合い続けていました。しかし、今回の取り組みを通じて、私たちの最大の強みは「人」であると確信を持って言えるようになりました。これは、目立った強みがないときの苦し紛れの回答ではなく、明確な事実だと信じています。
今回のバリュー策定のアンケートや座談会は、決して強制的なものではありませんでした。それにもかかわらず、多くの社員が自主的に参加してくれました。私からリマインドを送ることはほぼありませんでしたが、その背後では、社内の複数のメンバーが自主的に「そろそろ締切なので、皆さん回答しましょう」という呼びかけを行ってくれていました。アンケートはそれぞれ15分くらいでの回答完了を予想していましたが、「1時間半考えました!」と言ってくれたメンバーもいました。バリューが完成した後に、私の拙い日本語を校正してくれるメンバーもいました。
バリューを見直したところで、目の前の短期的な売上は伸びません。それにも関わらず、多くのメンバーが自主的に、そして真面目に参加してくれたことが、この組織の特異性を象徴しています。多くのメンバーが企業文化に興味を持ってくれている証拠であり、「企業文化は戦略に勝る」という言葉を、私たちがこれから証明していきたいと思っています!
SecureNaviでは「これから入社するメンバー」より「今いるメンバー」を大切にするという基本的な考え方があります。今回のバリューでは、今いるメンバーが気持ちよく働ける状態のスナップショットを作ることができたと思っています。今後、100人、300人、1,000人の会社になっても、定期的にこのスナップショットを振り返り、いつまでも「今いるメンバー」が気持ちよく働ける環境を提供し続けたいと思っています。そして、それこそが、会社が社員に対して果たす責務であり、私たちのビジョン「悲報をなくす」を実現するための最適解だと信じています。
SecureNavi採用強化中です!
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