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【読書記録】この世にたやすい仕事はない👩🏻‍💻

タイトルが気になり読み始めた、津村記久子さんの『この世にたやすい仕事はない』と言う小説。短期的な仕事を転々とする主人公を通して、いろんな職場体験をする感覚になりとても興味深く、気づきも多かった。

衝撃の誤解

まず、一つ言わせてほしい。私は途中まで、主人公を男性だと思っていた… たしかに一人称は「私」なんだけれども、第一話の入り方なのか、主人公の行動・思考の描写によるものなのか、男の人だと信じて疑わなかったのだ。3つ目に出てくる「おかきの袋裏の仕事」で初めて性別が明記されていていたように思う。普通に声が出るくらいビックリした。そういう仕掛けの本かと思ったくらいだ。 確かに女性宅のモニター監視は男性に任されないか…などと冷静になれば納得できるのだけど。性別の先入観を持っていたことに対して、少し反省した。

主人公の人物像

職を転々としているからといって,その人が「仕事ができない人」とは限らない。主人公は、とりわけ【人の感情の読み取り】がとても上手く、【仮説思考】もしっかりしている。なんというか、「10 伝えなくても、1 伝えれば分かる」というような物分かりの良さがある。だからこそ、他の人は気づかない、気にしないところまでのめり込んでしまい、本人は疲弊してしまったりもする。結論、どこの職場でもかなり高いレベルでコミットしていて、しっかり結果を残しているのが印象的だった。雇用主や上長からも認められて、最終的には「残って欲しい」と言われている。責任感の強さというか、きちんとやり遂げるって、意外に難しいことだよな〜と読みながら自省する。

自分なら、どの職場に行きたいか

「おかきの袋のしごと」や「バスのアナウンスのしごと」については、今いる広告の仕事内容に割と近くてワクワクする反面、その大変さに共感しすぎて勝手に疲れた。 (特にみんなの意見に振り回される部分で… 笑) なので、短期的ならば「みはりのしごと」が面白そうかなぁ。でも3日で飽きそう。「大きな森の小屋での簡単なしごと」は方向音痴で怖がりな自分には絶対にきつい。でも怖さでいうと、バスアナウンスのしごとが1番ホラーだったな…

印象に残った言葉

▼ キャリア理論家シュロスバーグの「4S」を思い出した。「予期しない転機」が人を苦しませることがある。何があったのかは記されていないが、主人公は【突然やってくる自分に害を与えそうな人】に対して、トラウマがあるように思う。

「正直言って、前職でかなり地に足をつけて会社に没入して働いてみて、人も環境も悪くなかったのに、予期しないところから現れたものに揺さぶりをかけられることになって、自信を失っています。仕事をするぞって時に一般的に覚悟しているものとはなんだか質が違っていて」

P.233

▼ 私がこれまで「うおおお」と唸ったのは、どんな時だっただろうか、と考えた。制作に関与した動画に心打たれた時? 携わったタイアップ前代未聞の売上に繋がった時? うーん、ただ単にミーハーなだけで、心の底から「面白え」とか「やってやった」と思ったこと、ないかもしれない。そんなことより、主人公はかなり仮設思考が強い。笑

携帯を眺めながら路上で「うおおお」と唸った。正直言って、興奮した。おもしろかった。自分の見込みが当たったのだ。

P.280

▼ 誰だって、たまには一息つきたい時がある。道を逸れたくなる時がある。世の中には、その「休憩所」的な役割を担う仕事があっていいんだな、と素直にその存在にありがたみを感じた瞬間だった。

前におった人も、前の前におった人も、本筋の仕事でなんかあって公園に来た人みたいやったけど、この仕事で、まぁ働けんねやな、と思って、そんでまた自分の仕事に戻ってったらええやん

気づき

その仕事が「たやすい」かどうかは、本人がその仕事をどのように捉え、対応していくかで全く異なるのだな、ということを一貫して感じた一冊だった。主人公は仕事に深入りしていくタイプだったけれど、人よっては「こんなもんでいっか」「まぁ気になるけど、いっか」と深追いしないですむ出来事もいくつかあったように感じるのだ。
ここでは、あえて「どんな単純な仕事でも大変さ・難しさはあるんだな」という話にはしないでおこうと思う。
楽しむのも、つまらないと思うのも、辛いと思うのも、その人の仕事との向き合い方によって大きく左右される。主人公が、仕事に対して愛憎関係に陥らなきことを意識していたように、そんな自分の癖というもの知りながら、自身を客観視していることが大切なんだなと思った。

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