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小説「雄気堂々」と大河ドラマ「青天を衝け」を並走=最高

本好きな会社員Kayla(ケイラ)です。職場の先輩から薦めてもらった本のことを何回か書いた。もっとたくさんあった気もするけど、思い出したらまた書いてみたいです。


この夏に、時間をかけながら読み終わったのは「雄気堂々」という城山三郎の小説。
近代日本経済の父・渋沢栄一の生涯を描いた長編で、薦められたのは今年の春だったと思う。
職場の昼休みで、大河ドラマ「青天を衝け」を見ているかどうかのおしゃべりがきっかけだった。

「日曜8時は大河ドラマを見る」ルールの家で育ったので、もちろん今年のすばらしい大河も熱烈に視聴している。
「あの血洗島って、全部セットなんですって。すごくないですか」
「渋沢栄一の顔が良すぎませんか」
など、他愛もない感想を述べていると、上司(たぶん50歳くらい)が
「城山三郎の本がすごくおもしろいんだよ。城山三郎の中で一番好きなんだ」
と突然教えてくれた。


「渋沢ってめずらしい人生を歩んだんだよ。農家に生まれて、幕臣から経済人になって。おれ、あの小説は本当に面白かった」
(数日後「一番好きなのは“落日燃ゆ”だった。間違えた」と律儀に訂正してくれたのがとてもおかしくて、これも読んでみようと思った)。

後日、さっそく書店に探しにいくと「青天」コーナーに積まれていた。
文庫本の上下巻。
開いてみると、渋沢の激動の生涯にみるみるうちに引き込まれる。

若き日の栄一〜武州からパリへ〜


武州の藍農家に生まれた栄一は、おしゃべりできかん気の男の子だったらしい。
「おしゃべり」は長じてからの「建白好き」につながるのが面白い。作者にとって書き逃せない性格だったのだ。

時代の熱に飲み込まれ、地元の仲間たちと共に尊皇攘夷運動にのめり込む栄一。
あろうことか横浜の外国人居住地を焼き討ちしようと企むも挫折し、逃れるように京都へ向かう。
親類の喜作と一緒に、縁あって一橋家の家臣になり、一橋家の財政立て直しや徴兵などに力を発揮する。この頃、薩摩の西郷吉之助とも出会っている。


間もなく、一橋家の殿が将軍になり、栄一たちも幕臣に。幕末の日本を離れて、パリに滞在。パリの地で明治維新を知る。
日本に戻ると新政府ができていて、請われて政府の一員になるも、方向性の違いを感じて経済の世界で身を立てることを決意する。

ここまでが上巻だ。
よくこれが1冊の本に収まるもんだと思うくらいの荒波を目にしつつ、読みづらくはない。
それほど難しい書き方はしていないことと、渋沢という人の人柄が深く掘り下げられていることが大きい。
周りの登場人物も生き生きと描写され、身近に感じられるせいだと思った。
そもそもこの小説は昭和46年に連載されていた新聞小説だったことも、読みやすさの理由かもしれない。


日本経済の仕組みを作る壮年期の栄一


日本に戻ると新政府ができていて、請われて政府の一員になるも、方向性の違いを感じて経済の世界で身を立てることを決意。
銀行、海運会社、商社など数々の会社をつくり、「株式会社」の概念を持ち込み、進取の精神で突き進んでいく。
一貫して、間違っていると感じたら「それは違う」と口にし、行動に移す男だ。
対外国と、貿易で損をしているときは徹底的にあらがってこれを見直させ、
海運で独占状態の会社がいれば、自国経済のためにならないからとライバルとなる会社を興す。
かといって、むやみに敵をつくるタイプではなかった、どんな相手の話もじっくりと聞く、腹の据わった人だったようだ。
下巻では、最愛の妻・千代がこの世を去る場面までが描かれる。


人にとっての教養とは、なんてことまで考えちゃった


栄一は農家の生まれながら、論語や算盤をよく学び、確かな教養があった。
そのことが、彼の激動の人生のそこかしこで役に立ち、彼を助けている。
武家の中で生きることになっても、勉学の基礎があるから尻込みはしないし、
パリでも得意のそろばんでやりくりをする。
新政府に入ってからも、薩摩でも長州出身でもない栄一が意見を通すのは難しかっただろうが、臆することなく政策を打ち出していく。
渋沢栄一の奇特な人生を追いかけながら、人にとって教養と勉強がどれだけ大切なことか、深く理解した。
これまで義務教育と、高校と大学にも行かせてもらったことをいまさらながら感謝している。
そのことが自分の人生を助けてくれたかどうかはまだわからないけれど。

小説を読みながら、「青天を衝く」も見ていたため、とても面白く読めた。
特に「人にとっての教養について」深く感動していた私は、若き日の栄一が商いのため険しい山を登りながら漢詩を読むシーンで深く感動した。
谷川岳でロケをしたという画面も美しく、タイトルがまさかの自作の詩に由来していたという種明かし。…素敵すぎる!

ドラマは今、栄一がパリから戻ったばかりなので、これから小説を読んでも十分楽しめると思う。




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