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重なり咲くマリーゴールドへ

愛しいあなたに
黄色のマリーゴールドを捧げるわ

あなたとは全く出逢ったことがない
でもわたしはよく知っているの

なぜなら
わたしとあなたはとても似通っていたから

同じ人を好きになったあなたに
黄色のマリーゴールドを捧げるわ


***


もうバスさえも寄りつかない
地下鉄駅の最寄り停留所

カチカチと
耳障りな音が響く運転席

シートベルトを外し
勢いよく首元に抱きつく

帰らないで

声にすることはできずに
ただ腕に精一杯の力を込める

困った顔で
抱きしめられる

首筋からは
いつものムスクの香りが
この日は遠慮がちに漂っていた

街灯のわずかな光が
フロントガラスを通し
薄雲ったモヤとなって
お互いの顔を照らし出す

肩を押すように身体を離し
愛しい顔を見上げる

どれだけ黒い瞳を見つめても
あなたは目を逸らすことは
一度もなかった

本音を隠そうとしたこの日も
嘘を貫き通そうとしたあの日も


カチカチと
やってくるもう一つの影

終電の時刻までは
ここに居るから

顔を埋めるようにして丸まった背中を
優しく優しくさすった

あなたの背中に落ちる影を
足元に重なり落ちる影を

太陽のような強い輝きで
消し去ってやりたいと
何度も何度も願った

強く光れば光るほど
それは色濃くはっきりと
あなたにピタリとついてくる

カチカチと
針が重なり合う

そのわずか前に
必ずあなたはわたしの前から去っていく

もう、ずいぶん前からわかっていたことなのに

足元に纏わりつく自分の影を見るたびに
思い出さなければならなくなってしまったの


「やっぱり」


身体が離れていく前に
大きく鼻から息を吸い上げる

あなたの香りだけでも
今宵わたしの中に残したい


カチカチと
ついに黒い瞳は黒い影と重なった


「やっぱり、君はかわいい」


軽いため息と
一緒に吐き出された黒い嘘

あなたは腕を外し
躊躇いがちに残る手を振り解き

助手席のドアを開けて
降りていった

歪んだガラス越しから
地下鉄の階段を降りていくあなたを
消える最後まで目で追い続けた

助手席から顔を背けるようにして
ゆっくりとウィンドウを閉じるボタンを押す

へぇ、

” やっぱり ”

なのね


***


愛しいあなたに
黄色のマリーゴールドを贈るわ

太陽の元で
かわいらしく元気に揺れ咲くマリーゴールドよ

二人重なり咲く運命の中
さっさとあなたに摘み取られたかった

影に覆われて
枯れ咲く姿など見たくはなかった

愛しいあなたに
黄色のマリーゴールドを贈るわ

何も知らないあなたに
一つだけ教えてあげる


わたしたち、
生まれ落ちた日も
同じだったってこと


「やっぱり」


重なり落ちる運命なの

どうか
マリーゴールドの笑顔を絶やさずに




「重なり咲くマリーゴールドへ」

〜END

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