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一匹のひつじとオオカミたち

若葉色が美しく広がる大きな草原を
「自由に」駆け回るひつじ

そんなひつじは一匹もいないの


時間がくれば
飼いならされた牧羊犬に吠えたてられて
いつもの場所へと戻される


戻されることにさえ疑問など持たず
同じ毎日を過ごしていく


みんなが右に曲がれば
続いて右に曲がる

「右に曲がりたいんだった」
「右に曲がって当然だ」


みんなが左に曲がれば
続いて左に曲がる

「やっぱり左だよね」
「右に曲がるなんてどうかしてる」


あやまって群れからはぐれ一匹さまよえば
牧羊犬に吠えられ
あっという間に元の群れへと戻される

「勝手なことをするな」


みんなについてゆくのは
とっても楽だから
考えることなんて

「やめちゃえばいいよ」


自由が許容されたこの大空の下で
個を主張することなく

「馴れ合いたいの?」
「群れ合いたいの?」

みんな同じは不思議に思う


ねぇ、
大空の遠くに浮かぶ雲を越えた先に
何があるのか見てみたくはないの?

ねぇ、
平坦に続くこの草原の道の先が
どうなっているか行ってみたくはないの?

答えてくれるひつじはいない

そんなこと考えるのは
「オカシイからね」


そう、オカシくてもかまわない
わたしは見てみたいから


思いっきり走り出し
己を守るための柵を飛び越えて
未知みちの先へ 山の向こうへ
駆け抜けていく


川のせせらぎ
見たこともない動植物
木の芽や花の新しい味

きっと、大きく心動かされるのでしょう


初めて見る世界
心地よい風の音
明るい太陽へと
少しでも近づけたことに

柵を越えて良かったと
あぁ、心から安堵することでしょう


日は沈み、鮮やかな若葉色は
オレンジ色と混ざり
暗灰色に落ちてゆく

楽しい時間というものは
どうしてこんなにもあっという間に
過ぎ去ってしまうものなのかしら


どうせ夜がくれば
オオカミに囲まれる


絵本のオオカミのように
ひつじをひつじと思わずに
対話を試みてくれるのならば
素敵な物語ストーリーが始まるのでしょうけど


そんなオオカミは一匹もいないの


ただ毛の色が白いというだけで
ただ草しか食べないというだけで
オオカミたちは
ひつじをひつじとしか思わない


殺気を感じたわたしは
本能的に必死に走り始めるでしょう

身体中の筋肉が悲鳴をあげるほどに
大地を力強く蹴って
逃げようとするでしょう


「あぁ、生きている」


その痛みと恐怖に
いきる」の価値を知ることができて

本当に良かったと
幸せに包まれることでしょう



まもなくオオカミたちに追い付かれ
脚や尻に嚙みつかれ
口は塞がれ
はらわたを引きずり出され
次第に視界は暗闇に包まれていく


最期に見たオオカミの瞳の奥に
一閃突き刺してやれたのなら


わたしの一生は
大変輝かしいものとして

終わらせられるのよ



「一匹のひつじとオオカミたち」


~END



>>> ヒスイちゃんの企画に参加させていただきまぁす♪


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