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サキュバスの呪い

ある仮想ファンタジー世界に
姉妹のように仲良く育った娘たちがいた

世界を平和に導いた勇者、その盟友と
それぞれ結ばれ
大きな城の城下町で
仲睦まじく暮らしていた

悪に怯える必要のなくなった世界では
人々は活気づき、町は発展し、
争いごととは無縁の”幸せ”に
満ちあふれていたの


爽やかな風が、いつの間にか冷たさを増した頃
まもなく娘の一人が誕生日を迎える

「今宵、うちに遊びに来なさいな。両親がワインを送ってくれたのよ」


城下町から少し離れた村で
娘の両親は大きなブドウ園を営んでいた

きっと愛娘が産まれた日を思い出しながら
送ってくれたものでしょう

いつものように

ありったけのごちそうとお祝いを持って
彼女の家に向かうの

そう、いつものように




温かい彼女の家と家族たち
楽しそうな子どもたちの声が心地よく響き渡る


「本当に楽しいわ、いつまでもユリと一緒にこうして過ごすことができて幸せだわ」

彼女は大輪が咲くような麗しい笑顔を浮かべる
わたしは昔から彼女のその笑顔が大好きだった

いつまでもいつまでも
その美しい花の近くで同じ時を過ごし
次第に大きくなっていく子どもたちを見守りながら
一緒に優しく年を重ねていくの

だって、そう約束したのだから


「手が離れたら、一緒に旅に出ましょうね」


まだ見たことのない世界はたくさんある
彼女と一緒に新しい冒険ができるすぐ先の未来が
今のわたしを支えてくれていた

今日はやけにゆっくりと夜が更けていく気がした
それも深く深く闇を纏うように

いつもとは違う夜が来る




「ワインを飲み過ぎてしまったようね」


静かになった子どもたちを2階へと運び
彼女も先に寝るわね、と階段を上がってゆく

いつものように朝が来るはずだった


闇は突如として平和を打ち破る
勇者の盟友と謳われ世界を救った男
彼は既に闇に飲まれていた

世界の平和など長くは続かないことを
あらゆる世界を救ってきた冒険者であるわたしが
なぜ気づかなかったのかしら


暗闇の中で突然手首を握られる
まどろんでいた瞳はかっと見開き
悪魔の姿を焼き付けた


「すまない」


彼は悪魔の呪いを受けていた
冥王に果敢に立ち向かってゆく
かつての英雄の影はそこにはなかった

制御が利かない呪いは
愛する家族を守るため
愛する彼女を守るため
ギリギリで押さえ込んで来たものだった


振りほどこうにも全く動かない手首
力で敵うはずもない

大声を出そうものならば
大好きな彼女とその子どもたちの幸せな未来は
失われる


彼が守りたいもののために
わたしが守りたいもののために
悪魔の犠牲となる道を
進むしかなかった


あまりに恐ろしくて
遅い夜明けが来る前に
彼女の家を飛び出した

身体中に赤い斑が浮かび上がる
わたしも呪いを受け継いで
悪魔と成り果ててしまう

このままだといつかわたしは
大好きな彼女に牙を向くことになる


醜い顔を覆いながら
何日も何日ももがき苦しんだ

なぜなら
悪魔になったその日から
涙を流せなくなってしまっていたから

苦しみはひたすら心の内に澱み溜まってゆく


あまりの苦痛に耐えきれず
かつて愛した勇者に呪いを打ち明け
滅ぼして欲しいと懇願する


全てを知った勇者は
悪魔に成り果てた盟友に剣を向けるも
許しを請うその姿に
首をはね切ることはしなかった


それが勇者の答え


わたしの首もはね切ることをせず
優しく肩を抱きながら

どんな姿になっても
ずっと君のそばにいるから
ずっと君から離れることはしない
約束する

そう語り続けた


けれども


永遠の呪いを受けたわたしは
もう欲望を抑えることは出来ない

彼女だけでなく、いつあなたにも
牙を向くかわからないから




永遠の呪いと
永遠の欲望と
永遠の姿を
手に入れたわたしは

一人で生きていくの


唯一彼女の声だけが
あの頃のわたしを蘇らせては

心を抉り未だ苦しめる


「ずっと一緒にいようね」


果たせない約束と
許されない罪を背負って
暗闇へと飛んでいく





今でも思い惑うの


もしかしてわたしは
自ら呪いを受けて

悪魔になったのではなかったのかと




「サキュバスの呪い」


~END


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