ポニテールに結いあげて

ゆりと言えば「しっぽ」だよね

代名詞になるくらい
わたしの印象は
ポニーテールに縛られていた


朝が巡る数だけ

後れ毛がでないように
ぴたり乱れることのないように

上品にかつ聡明に
強く高く結い上げられてきた


子どもの髪は細く繊細で
頭皮も非常に柔らかい

強い力で引っ張れば
痛みを感じるのは当然だと
母は思わなかったようね

毎朝毎朝
地獄のような時間を
泣きながら耐えた



慣れとは恐ろしいもので

目がつり上がるほどに
痛みを感じるほどに
強く結い上げてもらわないと
次第に満足できなくなっていく

一束でもはらりと頬を触ろうならば
心まで乱れる

わたしじゃなくなる


人前では
けっして髪を下ろすことはなく

プール上がりでも修学旅行でも
結い続けた

髪を下ろした姿は
たとえ仲の良い友人でさえ
見てはならない


人は懸命に隠そうとするものを
たいした興味をそそられもしないくせに
不思議と暴いてやろうと思うもの

無理やり結い上げられていた髪ゴムをとられ
乱れ流るる長い髪の姿を見て
女子たちは罵しり、無視をする

わかっているのよ
わたしの中の ”女” を見たのでしょう？

さっと元通りに結い上げて
微笑み立ち去る

どうせ２週間も経てば
また普段通りの生活に戻ることを
しっかり学習したの




その奇癖は今もなお残っている


仕事に向かうときは
必ず一つに結い上げる

そうしないと
心乱れ集中を欠いてしまう


年々下がってゆく
ポニーテールの位置

負けないようにと
女を隠し、懸命に生きてきた

髪を下ろし、眼鏡を外してしまえば
だれも ”わたし” とわからなくなる程にね

だから


初めてあなたと会う時は
決まってわたしはポニーテール

アバターの "わたしたち” もみな
一つに結い上げているの

今日も乱れなく
強く高く結い上げて
あなたに逢いに行く

髪留めを外し
乱れ流れて波打つ髪のわたしに
逢いたいと思うのかしら？

そうならば

恐怖におののくほどの
”女” を見せてあげるわ

「ポニテールに結いあげて」

〜END

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