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【vol.32】使わないと腐っていくお金!?~世界の地域通貨の成功事例~

突然ですが、皆さんは“お金”に対してどのような価値観を持っていますか?

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僕は「お金は多ければ多いほど人生の選択肢が広がるもの」と思っています。

なので、ある程度の貯金がないと気持ち的に心配になるのが正直なところです(汗)

でも、お金というものが無かった時代はいわゆる「物々交換」で普通に経済が成り立っていたのに、いつから人間は「お金がないと不安」「もっと稼がないと」というように、お金に心を奪われてしまったのでしょうか?(奪われてない人も多いかもしれませんが。。。)

今回の事例は、「人類がお金の支配から解放されるきっかけになるんじゃないか?」というひとつの兆しを見せてくれるものです。



ドイツのバイエルン州キームガウ地方(オーストリアとの境目に位置する)で2003年に始まった地域通貨が「キームガウアー」です。

もともとはその地方の高校の教師が生徒たちに「地域経済の役割をより深く理解してもらうため」の実践的なプロジェクトとして、生徒とともに立ち上げたのが始まりだそうです。


最初の年はわずか130人のユーザー登録と7万5000ユーロ(約950万円)の売上高で、立ち上げから3~4年は流通させるのにとても苦労したそうです。
しかし、5年目ぐらいから一気に需要が増え始め、今では「世界で最も成功した代替通貨」と言われています。(キームガウ地方の人口は100万人に満たないそうですが、現在では総額で10億円以上が流通しているそうです)

2015年時点で、561の企業と3100人の利用者が参加し、キームガウアーでの年間売上高は約761万キームガウアー(約9億6000万円)、非営利組織に6万5600ユーロ(約830万円)が寄付されている。
https://newsphere.jp/sustainability/20200827-1/
(以下、引用は全て同サイトより)



では、この地域通貨は一体どういった仕組みになっているのでしょうか?

まずメンバーのNPO団体が、運営事務局から100キームガウアーを97ユーロで購入する。NPOは一般市民に、100キームガウアーを100ユーロで販売することができ、差額の3ユーロを活動資金に充てる。

ふむふむ、このキームガウアーを管理するオフィスなるものからNPO団体がユーロと換金し、それを市民に販売するんですね。
そして販売するときのレートは「100ユーロ=100キームガウアー」ですが、その3%がNPOの活動資金に当てられるということですね。

ちなみに、NPOやNGOであれば全てが寄付対象になるわけではなく、オフィスの審査のようなものを通ることで寄付を受けられる対象として認められ、登録されるようです。
また、このキームガウ地方に住んでいるからといってキームガウアーへの換金が強制されるものではなく、あくまで「換金は任意」なので換金したくない人はユーロのまま持っておくこともできます。

市民はそのお金で買い物をすることで、地産地消に貢献することができる。そして地元事業はほかの事業者からの仕入れにキームガウアーを利用するか、または事務局で100キームガウアーを95ユーロのレートで再両替もできる。5%の手数料は取られるが、これは会計上広告費に計上可能である。
最初の90日間は価値はそのままだが、それ以降は3ヶ月の期間が過ぎるごとに、マイナスになった分を補うスタンプを購入しなければその紙幣は使えない。

なるほど、キームガウアーは基本的にこの地方限定で利用することになるんですね。(ただし100%地域内生産のものでないと買えないわけではないそうです)

ユーロに再両替することもできるようですが、そのときに5%の手数料が発生すると。
そして、どうやらこのお金は「持ち続けることで価値が減っていく」仕組みになっていて3ヶ月ごとに価値が減っていくため、その度にそれを補うスタンプを押さないと使うことができないということですね。



。。。と、ここまで見てもらったように、この地域通貨の特徴は大きく2つあります。

①ユーロからキームガウアーへの換金手数料のうち3%が“地域のNPO、NGOなどの政府や企業では賄えないような社会貢献活動をしている団体”への寄付金となる

②一定期間使わないと時間とともにお金の価値が減っていく



では、ここからはわかりやすいようにこの仕組みを「日本円」を用いて再度説明させてもらいます。

※実際は3ヶ月経つごとに2%ずつお金の価値が減っていくのですが、ここではわかりやすく「1ヶ月経つごとに1%ずつ価値が減っていく」と仮定してご説明します。


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例えば、「1円」という日本の法定通貨と「1北海道」という“北海道の地域通貨”があったとします。

この場合、1万「北海道」を持っている人がいるとすると、1ヶ月経つとその価値が100減ります。
ということは、1年間(=12ヶ月)経つと1200減ることになります。

そうすると、地域通貨の「北海道」を持っている人は1万を1年間持ち続けるとそれが8800になってしまうのです。

このように「1万円」だとそこまで大きな金額に思えないかもしれませんが、例えば100万円を持っていると仮定すると、100万「北海道」を5年間持ち続けると60%(12%×5年)価値が減るので、5年間そのお金を使わないことで100万から60万減って「40万」になるということです。

これはなかなか大きな数字ですよね。。。

この「価値の期限」は意外とアナログなやり方で管理しているようで、札に刻印してあり、それを基準にいつ発行されたものかを判断するそうです。(後々はもしかしたらブロックチェーンなどの技術を用いてアプリ上で管理できるようになったりするかもしれませんね。もしかして将来を見据えて既にそういった動きもあるのかな?)

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こうなると、キームガウアーを使わずに貯めておくとどんどん価値が減って「損をする」ことになるので、皆さん「なるべく早く使おう!」となりますよね。

その結果、実際にこのキームガウアーは流通が加速し、軌道に乗ってからはなんとユーロよりも約3倍の速さで流通し、失業者がゼロになったそうです。(!)

景気の良し悪しというのは「お金の回るスピード」で判断されるところが大きいので、市民がお金を貯めずにどんどん使うことで「景気が良い」状態になっています。
(反対に市民がお金を貯め込んで使わないと消費が増えず、事業者の利益が上がらないのでそこで働く市民の給与も増えないという悪循環に陥ります)

そして、消費が活性化することで消費税などの政府の税収も増加しました。なんと税収は8倍に増えたようです!
(通常はこういった地域通貨の取り組みは政府に潰されることも多いようですが、税収が増えると政府も認めざるを得ませんよね)

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では、病気などで働けない人はどうなるのでしょうか?

前述したように、ユーロをキームガウアーに換金するときの手数料をNPOなどが安定的に受け取ることになりますので、通常は資金不足になりがちな非政府組織もお金が回りやすくなって運営が安定するため、働けない人でかつ政府の手が届かない人へのケアも広げることができるようです。
(そもそもドイツは国全体として福祉が手厚いことが前提にあり、それが税収の増加によってさらに手厚くなっているということのようです)


また、さらなる効果としては「地域内事業者のビジネスが促進される」ことです。

例えば、地域の中で「マッサージが上手」とか「裁縫が上手」とか、ちょっとしたスキルがある人がいたとします。

そして、通常はそういった人たちは地域外の事業者と規模や価格を比べられ、普段から通うお店に選ばれないとどうしてもマネタイズがやりにくくなります。

しかし、「経済が地域の中で閉じている」からこそ、たとえ規模が小さくても地域内事業者に積極的にお金が回ることで、「地域のお客さんにリピートして利用してもらう」ことが可能になり、少しずつ稼げるようになってきたそうです。

こうなると、この地域内では「お金のためにあまり好きでないことをしてでも働く」ということから、「自分の好きなことや得意なことで働く」ということにシフトしていける人も出てきそうですね。


こんな風に、地域にとってプラスな効果がいろいろと出ているようですが、そもそもこの地域通貨を発行した人がやりたかったことは単に「地域の景気を良くしたかった」わけではなく、

グローバル化の競争に巻き込まれたくなかった」ことが大きいようです。


グローバル化の進展により安い輸入品などが外から入ってくることで、消費者の選択肢は確かに増えたかもしれません。

しかし、もともと地域で頑張っている事業者が外から入ってきたものに対抗しようとするとどうしても価格競争が起こり、小さな商店は立ちいかなくなります。

そこで、

「この先のグローバル化の波にのまれないためには自分たちの地域だけで農業、畜産を行ったり、電気もつくれるようにすることが必要だ!」

「お金の流通も地域内だけでできるのではないか?」

「小さなコミュニティだけで経済が回るような仕組みをつくろう!」

このように考えられ、この仕組みができたそうです。

結果的に、このキームガウアーが地域通貨として成功したことで、キームガウ地方には世界中から人々が視察に訪れ、移住者も急増しているとのことです。

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以前の記事でも紹介したように、地域通貨を普及するにあたっては「今だけ、金だけ、自分だけ」という考え方を持っている人が多い段階では難しいと思います。


まずは「地域のため、人のため」という考えを持つ。

そして、貯め込むのをちょっと我慢して通貨が回るように使ってみる。

これにより、結果的に回りまわって自分のところにメリットとして返ってくる。


「お金を外に出さないで地域内で回そう」

「地域のみんなのためが結局は自分のためになる」

このような考え方を地域通貨を立ち上げたメンバーを中心に少しずつ広めていき、だんだんと市民が理解していったからこそ、現在のように「成功した」と言える状態になっているのだと思います。

逆に言うと、地域通貨は「地産地消」をあまり推進していない地域では導入が難しくなると思います。(他の地域からものを買うときはもともとの法定通貨を使わざるを得ないので)

もともと地産地消を頑張ろうとしていた上に、さらに地産地消を加速したい、そんな思いがあったからこそ成功したのでしょう。


「お金は常に稼がないといけない、貯めておかないといけないもの」

お金は必要なときに入ってくるもの

キームガウ地方の人たちはこのように価値観や考え方が変わってきたのだと思います。


また、SDGsの「環境」の観点から捉えても、地域外から商品が入ってきたり地域の商品を外に出したりということが減ると、運送によるCO2の排出も減り、環境にもより良い社会になっていきます。


グローバル化社会とは真逆の方向ではありますが、こんな風に小さいコミュニティだけで回る経済をつくる方が経済にも環境にも、また人の幸せにとっても好ましいのではないか?

昨年からのコロナによって”グローバル化の弊害”がたくさん見つかってきている中で、「いかに地域経済が大切か?」を見直した方は多いのではないかと思います。

地域通貨で成功した地方は、たとえ”ロックダウン”が起こったとしても地域内で助け合い、きっと経済をうまく回していくのでしょう。


今回の事例は、地方に住んでいる私にとってもこれからの希望を見せてくれるものでした。

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