3月3日は世界聴覚の日ーー「耳の健康」を考える

2023.3/03 TBSラジオ『荻上チキ・Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、耳の健康に関する様々な情報をお伝えします。

◾3月3日は世界聴覚の日

以前も紹介しましたが、WHO(世界保健機関)の報告によれば、2015年の段階で、中~高所得国のティーンエイジャーとヤングアダルト(12歳から35歳)のほぼ半数、世界11億人の若者に難聴のリスクがあると指摘されています。

同じくWHOによれば、2050年には25億人近くがある程度の難聴になり、少なくとも7億人が聴覚のリハビリテーションを必要とすると予測されています。


難聴には軽度や中度などによって異なりますが、軽度なもので聴力レベル25dB以上、40dB未満、つまり小さなささやき声などの聞き取りが困難になるもので、中度、重度と、より大きな音量の聞き取りが困難になるものです。

日本では3月3日は耳の日(一般社団法人日本耳鼻咽喉科学会が1956年に制定)ですが、WHOも3月3日を世界聴覚の日(World Hearing Day)と呼び、キャンペーンを行っています(電話の発明者であり、ろう教育者であったグラハム・ベルの誕生日にも由来)。

◾難聴を防ぎ、進行を遅らせる

難聴を予防するには、騒音環境からなるべく距離を取ったり、定期的に健康診断を行うことなどが挙げられます。一方、スマホとイヤホンを用いる最近の音楽聴取環境は、大きな難聴リスクを孕んでいると考えられます。イヤホンの利用は音が大きくなりがちで、かつ日常的に利用するため、耳にダメージを与えやすくなってしまいます。WHOも、とりわけイヤホンをよく利用する若者の難聴リスクを指摘しています。

一般に騒音と呼ばれるのは85dBであり一日の許容時間は8時間とされています。80dBとは、走行中の電車内や近くで聞こえる救急車のサイレン、あるいは30センチの距離で大きな声を出さないと会話できないもので、かなり大きな音と言えるでしょう。

WHOが推奨するのは、以前当ラボでも紹介した、ノイズキャンセリング機能を持ったイヤホンの利用です。

https://apps.who.int/iris/bitstream/handle/10665/177884/WHO_NMH_NVI_15.2_eng.pdf

順天堂大学の研究チームの論文によれば、ノイズキャンセリング機能を有したイヤホンを、地下鉄の騒音環境(80dB)で被験者に利用させたところ、安全音量の75dB以下に収まったという結果が出ています。騒音環境では特にイヤホンの音量を上げがちですが、ノイズキャンセリング機能を使えば音量を適正値に下げやすくなります。最近では、騒音をカットしつつ会話等がしやすいといった、様々な機能を持った、高機能のイヤホンも登場しています。

他にも、骨伝導イヤホンのように、鼓膜にダメージを与えづらいタイプのイヤホン等も、今後は注目されるものと考えられます。

また、こちらも以前当ラボが何度か紹介してきたように、難聴は認知症のリスクを上げる要因としても注目されています。少しでも聞こえに問題を感じたら、医療機関を受診するとよいでしょう。

すでに難聴を感じている方にとっては、補聴器の利用が挙げられます。補聴器は普及の面で課題がありますが、軟骨伝導型の補聴器が2017年に登場したり、AIを組合わせた補聴器なども登場しています。特にAIを利用したものは価格の面で課題がありますが、世界的に耳の健康が叫ばれる中、医療面でも様々な技術発展が進行しています。今一度、ご自身の耳の健康について考えていただければ幸いです。


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