難聴が認知症のリスクとなるーー「音と認知症」の関係とは

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.6/24 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、難聴と認知症のリスクに関する研究についてご紹介します。

◾難聴が認知症に及ぼす影響

慶應義塾大学医学部教授の小川郁氏が2021年に発表した論文「認知症と加齢性難聴」では、難聴と認知症の関係に関する研究がくわしくまとめられています(以下では主に同論文の内容を抽出して紹介します)。

高齢化が進む日本の問題のひとつに、認知症が挙げられます。厚生労働省は2015年に「認知症施策推進総合戦略~認知症高齢者等にやさしい地域づくりに向けて~」とした戦略のオレンジプランを発表していますが、加齢や遺伝性のもの、高血圧といった認知症の危険因子に、難聴がはじめて加えられました。

世界的に権威ある医学雑誌「Lancet」に、認知症予防・介入・ケアに関する国際委員会の報告(2017年)があります。それによれば、認知症の9つの危険因子のうち、聴力低下=難聴は人口寄与割合(つまり、その危険因子がなくなれば認知症患者が減少する割合)が9%と、危険因子の中でも一番高い数値を示しました(その後2020年の報告では8%となりましたが、それでも非常に高い数値です)。

https://www.thelancet.com/article/S0140-6736(20)30367-6/fulltext

このことは、難聴のリスクを軽減することで、認知症のリスクを軽減できることを示しています。

◾難聴と認知症の関係

一方、2021年の時点で医学的な介入が必要な難聴者は900万人とされていますが、2030年には1400万人を超えると予測されており、対策は急務となっています。難聴と認知症の関連についての研究は1980年代から様々に検討されていますが、近年の様々な報告では、加齢性難聴が記憶力の低下や、認知機能の低下と関連があることがわかっていました。

難聴と認知症の関係については、いくつかの仮説が提出されています。中でも、難聴によって知覚情報が減ること、つまり外からの刺激が減ることで認知機能が適切に使われず、機能が衰えていくというもの。また、難聴がコミュニケーションに困難をもたらし、それが社会的孤立やうつ病、そしてそれによって刺激がますます減ることで認知機能が衰える、といったカスケード仮説などが挙げられています。

◾認知症予防としての補聴器

認知症予防として挙げられるのは補聴器の使用です。欧米の様々な研究によれば、補聴器を利用することで、認知機能の低下を防げるとのデータが出ているほか、日本でも研究が行われています。

補聴器に関する課題としては、欧米に比べると日本では補聴器の普及率が低いという点が挙げられます。ですが、近年は日本でも補聴器購入に際して一定の手続きを行うことで医療費控除を受けることができるようになっており、こうした制度の普及が待たれます。

また、近年はスマホとBluetooth接続で対応し、AI機能を搭載したり、デザイン性に優れた補聴器も続々と登場しています。さらに、ノイズキャンセリング機能つきのイヤホンや、骨伝導イヤホンといった選択肢も登場しています。このように、音と適切に付き合う方法は増えています。若いうちから難聴を予防するためにも、こうした情報を参考にしてみてください。


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