補聴器の普及率とその課題ーー「補聴器」について考える

Screenless Media Lab.ウィークリー・リポート
2022.7/01 TBSラジオ『Session』OA

Screenless Media Lab.は、音声をコミュニケーションメディアとして捉え直すことを目的としています。今回は、補聴器の普及状況や、最新の補聴器についてお伝えします。

◾補聴器の普及率とその課題

前回、難聴が認知症に及ぼす影響についてお伝えするとともに、対策として補聴器の利用が認知機能の低下を抑制することもお伝えしました。

ですが、日本では補聴器の普及があまり進んでいません。一般社団法人日本補聴器工業会の2018年調査によれば、自分が難聴だと感じている人(自己申告制)は全体の11.3%と、1000万人を超えているほか、気づいていない潜在的な難聴者も多数存在すると考えられます。また、欧米の普及率は3割~4割であり、これらと比較しても日本の普及率の問題が指摘されます。

http://www.hochouki.com/files/JAPAN_Trak_2018_report.pdf

同調査によれば、さらに自己申告した難聴者全体における補聴器所有率は14.4%ということがわかりました。2018年度の補聴器の出荷台数は58万台で、2021年度もその数は大きく変わってはいません(ちなみに、補聴器の価格は平均して15万円程度になります)。つまり、補聴器を必要とする人が多くいる一方で、まだまだ普及の面で課題があるということがわかります。

http://www.hochouki.com/files/Syukka-Daisuu2021.pdf

また、補聴器を利用しない人にその理由を問うた項目では、その多くが「わずらわしい」(異物感や痛さ)、あるいは機能の面で十分ではない、あるいはデザインの問題等、様々な課題が挙げられています。実際、補聴器ユーザーで補聴器に満足していると答えたのは全体の38%と、厳しい結果が出ています(イギリスは満足度が74%、フランスにいたっては82%と、ここでも欧米と差があります)。

◾最新技術を利用した補聴器

補聴器の使いづらさで挙げられた「わずらわしさ」には、様々な条件が考えられます。性能にもよりますが、例えば補聴器で音の感度を上げたとしても、会話だけでなくまわりの雑音も大きく聞こえてしまうことで使いづらさを感じる人や、あるいは定期的なメンテナンスの問題を感じる人もいます。

一方、以前もお伝えしたように、AI=人工知能の発展にって、補聴器にAI機能を搭載し、騒音を自動的にカットしたり、聞くべき音だけを耳に届けるAI補聴器にも注目が集まっています。

例えば米スターキー社の最新AI補聴器「エボルブAI」は、補聴器で音楽を聴いたり電話に出たり、スマホと連動するだけでなく、音環境を常に補聴器が収集しているので、聞きにくいと感じた際には、補聴器を軽く叩くと自動で調整を行うことが可能とのことです。また将来的には補聴器を通して体温や脈拍といったデータを収集し、身体モニタリング機能の搭載も検討しています。

もちろん、こうした高機能補聴器は高額になりますが(エボルブAIの最上位機種は130万円を超える)、技術とデバイスの普及により、どこまで低価格が可能になるかが問われます

すでに述べた通り、補聴器の普及が認知症の抑制をはじめ、様々な意味において私たちの福祉に与える影響を考えれば、より使いやすく、また社会的な補聴器の認知が必要とされます。また補聴器の普及には、補助金だけでなく、定期的なメンテナンスが気軽にできる販売店など、販売体制等にもさらなる工夫が必要とされます。そしてもちろん、こうした補聴器に対する私たちの理解が重要な要素であることは論をまたないでしょう。

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